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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
本当はクールな曲なのに、映画を観た後、思わず笑いが込み上げるようになってしまった曲(2)――映画『ヴェガス・バケーション』の中のジミ・ヘンドリックスの「オール・アロング・ザ・ウオッチタワー」
前回は、ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの1967年の曲「フォクシー・レディ(Foxy Lady)」がペネロープ・スフィーリス(Penelope Spheeris)監督の1992年のコメディ映画『ウェインズ・ワールド(Wayne’s World)』の中で使われている名場面を観てしまった後は、しばらくの間、その曲を聴くと笑いが込み上げてくるようになってしまったという話を書きました。
で、今回も前回の最後に予告したように、本当はクールな曲だったはずなのに、映画で使われている場面を観た後、つい笑いが込み上げるようになってしまった別の曲として、ジミ・ヘンドリックスのあの「オール・アロング・ザ・ウォッチ・タワー(All Along the Watchtower)」を取り上げたいと思います。
「あの」なんて言い方をしても、ジミ・ヘンドリックスのことを知らない方には、ピンとこないでしょうから、同曲について、まずはごく簡単に紹介しておきます。
「オール・アロング・ザ・ウォッチ・タワー」は、アメリカでは1968年9月2日に、シングルとしてリリースされ、ビルボード・ホット100チャートで最高20位(ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスのアメリカでのシングルとしての最高位)に達しました。また、10月16日にリリースされた同曲を含むアルバム『エレクトリック・レディランド(Electric Ladyland)』は、ビルボード・トップ・LPで2週間1位を記録しました。
以前の記事で、イギリスの偉大なハード・ロック・バンド、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)の「ステアウェイ・トゥ・ヘヴン(Stairway to Heaven)」という曲が映画『ウェインズ・ワールド』の中でジョークとして使われていることについて書いたときに、この「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー(All Along the Watchtower)」についても少しだけ言及しました。
その際に述べましたが、2017年10月6日のNMEのRebecca Schiller氏の記事‘50 greatest guitar solos of all time’」では、「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー(All Along the Watchtower)」が「史上最も偉大なギター・ソロ」の第3位に選ばれていました。このように、今日もなお「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」は依然として非常に高い評価を得ています。
ちなみにレッド・ツェッペリンの「ステアウェイ・トゥ・ヘヴン」は2位でした。1位はガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)の「スウィート・チャイルド・オブ・マイン(Sweet Child o’ Mine)」でした。
さらに言えば、同曲はジミ・ヘンドリックスの曲の中で言っても、とりわけ人気があるようですね。例えば、American Songwriterの中の2021年11月27日のJACOB UITTI氏による記事‘Top 10 Jimi Hendrix Songs’では、ジミ・ヘンドリックスの誕生日(1942年11月27日)を祝してトップ10ソングを選んでいますが、その中でも「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が1位となっています。ちなみに、前回に言及した「フォクシー・レディー」は4位でした。
とはいえ、ジミ・ヘンドリックスのファンの方ならご存じの通り、「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」は、カヴァー曲です。そのオリジナルの曲は、アメリカのシンガーソングライター、ボブ・ディラン(Bob Dylan)の1967年にリリースされたアルバム『ジョン・ウェズリー・ハーディング(John Wesley Harding)』の中に入っています。
まずはここでボブ・ディランによるオリジナルの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」をお聴きください。
物悲しい短調のギターの伴奏に乗って、耳に突き刺さるようなハーモニカー、そしてボブ・ディランの辛辣さと憂鬱さが入り混じったような歌声が聴こえてきます。
ボブ・ディランの他の曲と同様、この曲も批評家たちからあれこれと興味深い分析が行われていますが、ここではその話は控え、比較のためにすぐさまジミ・ヘンドリックスのカヴァーを聴いてみましょう。
ボブ・ディランのオリジナルと比べて、音域のレンジも格段に広く、全体的に重たくダイナミックで力強い仕上がりになっていますね。また、ディランの方ではハーモニカだった箇所が、エレクトリック・ギターによって演奏され、鋭いトーンで悲哀を帯びたメロディーが聴こえてきます。終盤に向かうリバーブの効いたギターのソロに耳を傾けていると、眼球をぐるぐると動かされ眩暈を起こさせられるような感覚に陥ります。
ボブ・ディラン本人も、このジミ・ヘンドリックスのカヴァー・ヴァージョンを非常に気に入っていたことは、ファンの間ではよく知られていることだと思われます。ボブ・ディランは昔のインタヴューで次のようにも述べています。
「それに圧倒されたよ、心からね。 彼には素晴らしい才能があり、曲の内部から何かを見つけ出し、それらを生き生きと展開させることができた」 (Jim Ellison ed, Younger Than That Now: The Collected Interviews with Bob Dylan, Da Capo Press, 2004, p. 284より)。
さて、ジミ・ヘンドリックスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が、どれほど素晴らしい曲であるかということは、以上で十分にご理解いただけたことと思います。
ではここで、この「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が使われている映画を観ていくとしましょう。今回取り上げるのは、スティーヴン・ケスラー(Stephen Kessler)監督の1997 年のコメディ映画『ベガス・バケーション(Vegas Vacation)』です。
ひとまず以下の動画をご覧ください。チェビー・チェイス(Chevy Chase)演じるクラーク・グリスウォルド(Clark Griswold)が、大量の100 ドル札をATMから引き出すシーンで、「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が聴こえてきます(以下の動画では、1分23秒のあたりから始まります)。
映画『ヴェガス・バケーション』を実際にご覧になっていない方は、この場面だけを観ても、あまり面白みが伝わらないと思うので少し解説しておきます。
動画の前半で、ラスベガスのミラージュ・ホテルのカジノでチェビー・チェイス演じるクラーク・グリスウォルドがウォレス・ショーン(Wallace Shawn)演じるブラック・ジャックのディーラー、マーティ(Marty)に大敗し屈辱を味わいます。
その後、負けを取り戻そうとしてATMからお金を引き出す場面に移った瞬間、ぴったりのタイミングで「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」のイントロが流れてきます。ここで何よりも忘れがたいのは、スローモーションで映し出されるクラークの「今度は見てろよ」と言わんばかりのにんまりとした表情です。
その後、落ち着き払った表情で札束を整えながら、宿敵のディーラーのところへ歩いていきます。「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が背景に流れる中、スローモーションで威風堂々と歩いてくその姿は、まるで昔の西部劇の復讐に挑むガンマンすら彷彿させます。
で、その勝負の結末はどうなったのかというと、クールに決めて敵であるディーラーのところへ向かったにもかかわらず、動画をご覧の通り、クラークはまたしてもあっけなく敗北し、憎たらしいディーラーに大笑いされるわけです。
この演出を観た瞬間、エレクトリック・ギターの神とも言うべきジミ・ヘンドリックスの卓越したプレイによる「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」の抒情的なメロディーが、あたかも自分が神に見守られているかのごとく、勝負に勝つことを愚かにも確信して意気揚々とし、そしてその自らの雄々しさに陶酔する男を滑稽に皮肉っているようにも聴こえてしまうわけです。
みなさんはどうなんでしょう? 人生の中で、今回は「いける」という根拠のない自信を持って挑んだ結果、まるで駄目だったというような経験ってありませんか? 私は時としてやたらと楽観的になってしまう性格のせいで、そうした経験は何度もありますよ。ほら、些細な例で言えば、宝くじを買うために、売り場に並んでいるときに今回こそは当たる気がしてならいとか。また、宝くじの当選を確かめる瞬間とか。
私はこの映画を観てからというもの、そうした時に「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」の「ジャジャ、ジャジャジャジャ、ジャジャ、ジャジャジャジャ、ジャジャ」というギターのイントロのリフが頭の中から聴こえてくるようになってしまいました。そのたびに、運命の女神が自分に味方してくれているかのような気分になっている自分という人間の愚かさ気づき、自嘲と自戒が入り混じりながらの静かな笑いが込み上げてきてしまうのです。
ところで、2016年のヴィクラム・ガンディ(Vikram Gandhi)監督のアメリカの映画『バリー(Barry)』は、ご覧になったことがありますでしょうか?
大統領になる前の若き日のバラク・オバマ(バリー)が、一九八一年にコロンビア大学に編入するためにニューヨークにやってくるところから始まり、自身の出自に由来するアイデンティティに悩み続けている頃の姿を描いた映画です。
お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、この映画の中でも「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が流れてきます。しかも、自分自身が何者であるかという問いを未来への可能性として、今ここに位置付けていく結末へと向かっていく非常に重要なシークエンスで流れてくるのです。
ただし、そこで使われている「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」は、ジミ・ヘンドリックスのヴァージョンではなく、またボブ・ディランのオリジナルでもなく、アメリカのシンガー、ボビー・ウーマック(Bobby Womack)の1973年のアルバム『ファクツ・オブ・ライフ(Facts of Life)』の中に収録されている「オール・アロング・ザ・ウオッチタワー」のカヴァー・ヴァージョンです。
ポピュラー・ミュージックに詳しい方には言うまでもないことかもしれませんが、そもそも「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」は、ジミ・ヘンドリックス以外にも多数のカヴァー・ヴァージョンがあります。非常に有名なバンドのヴァージョンと言えば、U2によるカヴァーもあります。
ですが、個人的な好みを言うならば、その中でも、このボビー・ウーマックのカヴァー・ヴァージョンが、圧倒的に心を強く動かされます。お聴きになったことがない方は、ぜひとも以下でご試聴ください。
映画『バリー』をご覧になっていただくと分かりますが、バリーが思索しながら歩いたり、ジョギングをしたりする1981年というニューヨークのハーレムの街の景色には、ボブ・ディランのオリジナルでもなく、ジミ・ヘンドリックスのカヴァー・ヴァージョンでもなく、このボビー・ウーマックのソウルを感じさせる声がゆったりとしたビートに合わせて聴こえてくるカヴァー・ヴァージョンこそが断然ぴったりであることは間違いありません。
ここでは映画『バリー』を未見の方のために、以下にトレイラーを掲載しておきます。どうぞご覧ください。
本作において実質的な映画デビューを果たしたバリー役を演じたデヴォン・テレル(Devon Terrell)ですが、とりわけ彼が自分の意見を口にするときの目の輝きや口の動かし方や首の振り方などを見ていると、若い頃のオバマの姿を実際に見ているような気にすらさせられます。
ですが、日本人の自分からそう見えるだけなのかもしれないな……。なんて思っていたら、あながちそうでもないみたいです。HAPPER BAZZARのインタヴュー記事‘Devon Terrell on Becoming Barack Obama’でインタヴューをしているJulie Kosin氏が、「本物のオバマの古い映像を見ているのではないかと思うときもあった」と述べていました。ということは、オバマを断然見慣れているはずのニューヨークにいる人の目からも似ているように見えるということですね。
この映画は、 2016年9月10日のトロント・インターナショナル・フィルム・フェスティヴァルでが公開されました。つまり、オバマ大統領の任期が終わり、トランプ次期大統領が就任しようとする、まさにその時期のことです。それを思いながら今改めて観てみると、いろいろと思うところが、また出てきそうです。
今回の最後の話題として、本題とは関係のないついでの話を。以前の記事で元ゴーゴーズ(The Go-Go’s)のジェーン・ウィードリンと70年代後半のLAパンクシーンについて少し触れたことがあります。ということもあって、あえて紹介しておきたいと思ったのが、今回取り上げた映画『ヴェガス・バケーション』の中で、ジェーン・ウィードリン(Jane Wiedlin)のバンド、フロステッド(froSTed)の1996年のアルバム『コールド(Cold)』の中の「ヘイ・ガール(Hey Gril)」という曲が使われているシーンです。
マリソン・ニコルズ(Marisol Nichols)演じるオードリーがラスベガスの街を友人たちとオープン・カーに乗って楽しんでいるたわいもないシーンです。以下でご覧ください。
このシーンに重ね合わせて「ヘイ・ガール」を聴くとなおさら思いますが、2000年代に活躍する初期のアヴリル・ラヴィーン(Avril Lavigne)のようなポップ・ロックの女性シンガーたちのまさに先駆的な存在として、ジェーン・ウィードリンや彼女の元のバンド、ゴーゴーズへと再び注目して、さらにその系譜を過去へと遡ってみたいところです。
上記の映画のシーンでは少し聴きずらいので、以下で「ヘイ・ガール」を改めてどうぞ。
「ヘイ・ガール、あなたは人生を突破していこうとしているのよ/あなたは逃走する車なのよ(Hеy girl, yоu’rе сrаshing thrоugh lifе/Yоu’rе а runаwаy саr)」という歌詞で始まるこの曲は、まさに映画の中のオードリーがオープン・カーに乗り、自由で開放された気分になっている場面にぴったりですね。
次回は、さらにしつこく別の映画の中で「オール・アロング・ザ・ウオッチタワー」が使われている記憶に残る場面を取り上げてみたいと思います。ただし、先に言っておくと、今回のような笑いの要素はなく、それとは全く違った曲の印象を生み出している場面を見ていきます。
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