ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

本当はクールな曲なのに、映画を観た後、思わず笑いが込み上げるようになってしまった曲(1)――映画『ウェインズ・ワールド』の中のジミ・ヘンドリックスの「フォクシー・レディ」

映画  音楽  ミュージック・ビデオ   / 2023.07.01

 

映画『ウェインズ・ワールド(Wayne’s World)』の中のドナ・ディクソン(Donna Dixon)

 前回は、映画『ウェインズ・ワールド(Wayne’s World)』の冒頭のアイコニックなシーンで流れるイギリスのロック・バンド、クイーン(Queen)の「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Raphsody)」について書きました。

 今回は、映画『ウェインズ・ワールド』の中で。アメリカの偉大なロック・ギタリスト、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)の曲「フォクシー・レディ(Foxy Lady)」が使われている、一度観たら忘れられなくなるシーンの話をします。

 まずは、「フォクシー・レディ」という曲をご存じない方のために、簡単に紹介しておいた方がいいですね。

 「フォクシー・レディ」は、1967年5月12日にイギリスでリリースされたジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンス(The Jimi Hendrix Experience)のデビュー・アルバム『アー・ユー・イクスピアリアンスト(Are You Experienced)』の幕を開ける最初の曲です(アメリカでは、同アルバムが同年の8月23日にリリースされ、「フォクシー・レディ」はB面の4曲目で、’Foxey Lady’へと曲名の綴りが変わっています)。

 このロック史にひときわ輝く素晴らしいアルバムは、2003年に発表されたMojo 誌の音楽専門家たちが選んだ「最も偉大なギター・アルバム」の中で、堂々たるナンバーワンに選ばれていました。ちなみに、トップ10は以下の通りです。

1位 『アー・ユー・イクスピアリアンスト(Are You Experienced)』 、ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンス(Jimi Hendrix Experience)

2位 『マイ・ジェネレーション(My Generation)』 、ザ・フー(The Who)

3位 『ハウリン・ウルフ(Howlin’ Wolf)』、ハウリン・ウルフ (Howlin’ Wolf)

4位 『マゴット・ブレイン(Maggot Brain)』、ファンカデリック (Funkadelic)

5位 『ラブレス(Loveless)』、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)

6位 『ザ・ベンズ(The Bends)』、レディオヘッド(Radiohead)

7位 『ラモーンズ(Ramones)』、ラモーンズ(Ramones)

8位 『ジーニァス・オブ・ジ・エレクトリック・ギター(Genius of The Electric Guitar)』、チャーリー・クリスチャン(Charlie Christian)

9位 『ニュー・オーリンズ・ストリート・シンガー(New Orleans Street Singer)』、スヌークス・イーグリン(Snooks Eaglin)

10位 ザ・ロックンロール・トリオ(The Rock’N’Roll Trio)』、 ジョニー・バーネット・アンド・ザ・ロックンロール・トリオ(Johnny Burnette And The Rock’N’Roll Trio)

 このリストを見て、ちょっと変わった、あるいはちょっと面白い選択だと感じるのは、私だけでしょうか? もちろん、どのアルバムからも素晴らしいギター・サウンドが聴こえてくることは間違いありません。

 5位と6位に90年代のアルバム、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『ラブレス』とレディオヘッドの『ザ・ベンド』が入っていますが、それ以外は全て1970年代か、それ以前のアルバムになっています。

 また、ニューヨークのパンク・ロック・バンド、ラモーンズの1976年にリリースされたデビュー・アルバム『ラモーンズ』も入っています。『ラモーンズ』が入っているのは、あくまで「最も偉大なギター・ソロ」でもなければ「最も偉大なギター・テクニック」ではなく、あくまで「最も偉大なギター・アルバム」だからですね。

 確かに『ラモーンズ』は全体を通して、とにかく単純なコードをただかき鳴らすストレートなギター・サウンドによって、疾走感溢れる最高のロックロール・アルバムになっています。ギターを中心としたロックロールが大好きな方だったら、『ラモーンズ』を聴いて心躍らないなんて人はめったにいなんじゃないでしょうか? 

 せっかくなので、というかラモーンズをご存じない方もいらっしゃることと思いますので、本題とは関係ありませんが、ここで同アルバムの中の彼らを代表する曲の一つ「ブリッツクリーグ・バップ(Blitzkrieg Bop)」のミュージック・ビデオをご覧ください。

ラモーンズ(Ramones)の「ブリッツクリーグ・バップ(Blitzkrieg Bop)」のミュージック・ビデオ

 あっという間に駆け抜けていく、2分ちょっとしかない短く単純な曲が、すがすがしく頭を空っぽにさせてくれます。今この記事を日本の関西の梅雨の時期(2023年7月1日)に書いていますが、これから迎える暑い夏の日のドライブなかにはぴったりの曲です。多少嫌なことがあったり、なんとはなしに憂鬱な日でも、オープン・カーなんかを運転しながら爆音で聴いていると、ハッピーな気分になってきて、思わず「Hey ho, let’s go!」と一緒になって叫び出してしまうはずです。

 ラモーンズの曲は、この曲も含めて多数の映画で使われていますが、それについては、また機会を改めます。

 さて、ジミ・ヘンドリックスの方に話を戻します。『アー・ユー・イクスピアリアンスト』がリリースされたのは、先ほども述べたように1967年のことです。ふとその年を振り返ってみると、ポピュラー・ミュージック史の中で非常に重要な位置を占める素晴らしい音楽が多数生まれていることに気づかされます。

 自分が訳した本になってしまいますが、イギリスの著名な音楽ジャーナリストのデヴィッド・ヘップワース氏の著書『アンコモン・ピープルーー「ロック・スター」の誕生から終焉まで』の中で、1967年にリリースされた重要な10のアルバム及び曲として選ばれた「プレイリスト」の中に、やはりジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの『アー・ユー・イクスピアリアンスト』が含まれています。ちなみに、その他のアルバムないしは曲は以下の通りです。

ヴェルベット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)『ザ・ヴェルベット・アンダーグラウンド&ニコ(The Velvet Underground & Nico)』

ビートルズ(The Beatles)、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(Sgt Pepper’s Lonely Hearts Club Band)』

ピンク・フロイド(Pink Floyd)、『ザ・パイパー・アット・ザ・ゲーツ・オブ・ドーン(The Piper At The Gates Of Dawn)』

スライ&ザ・ファミリー・ストーン(Sly & the Family Stone)、『ア・ホール・ニュー・シング(A Whole New Thing)』

ラブ(Love)、『フォーエヴァー・チェンジス(Forever Changes)』,

プロコル・ハルム(Procol Harum)、「ア・ウィンター・シェイド・オブ・ペイル(A Whiter Shade Of Pale)」

ドアーズ(The Doors)、「ライト・マイ・ファイア(Light My Fire)」

アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)、「リスペクト(Respect)」

ヴァン・モリソン(Van Morrison)、「ブラウン・アイド・ガール(Brown Eyed Girl)」

 ポピュラー・ミュージックに詳しい方なら同感してくださると思いますが、1967年は実に豊作です。どのアルバム、どの曲も、今日もなお語るべき多くの価値がある作品ですよね。

 ところで、先ほどの「最も偉大なギター・アルバム」のランキングが掲載されているMojo誌のライター、Ritchie Unterberger氏は、第1位の『アー・ユー・イクスピアリアンスト』でのジミ・ヘンドリックスのギター・プレイを次のようにも評しています。

 「ヘンドリックスが最初のアルバムで切り開いたエレクトリック・ギターの革新的な全ての演奏方法を一つの小記事に詰め込むことは不可能だ。それらの中でも最も重要なのは、海のように広がる波動と微細なフラッターの両方を誘導する制御されたフィードバックの使用、大音量の広い音域の歪んだ音色を使いこなしていること、そして鋭利で鮮明で電光石火のごとくに素早いブルースを思うがままにしていることだ」。(上記のランキングも含め、INDEPENDENTAnthony Barnes氏の記事’Hendrix heads list of 100 guitar greats with ‘Are You Experienced”より引用)

 そうそう、まさしくその通りですよ。では、ここで本題の「フォクシー・レディ」を、ジミ・ヘンドリックスのとてつもなく鮮やかなギター・プレイを堪能できる1968年のマイアミ・ポップ・フェスティヴァルの映像とともにお聴きください。。

ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンス(The jimi Hendrix Eperience)の「フォクシー・レディ(Foxey Lady)」(Miami Pop 1968)

 これは、ロック・ファンなら誰もが間違いなく耳を完全に奪われるであろう最上のエレクトリック・ギターのプレイの一つなのではないでしょうか。

 しかも、歌を歌いながらギターをプレイするジミ・ヘンドリックスの身のこなし全ても、この上なく優雅でセクシーでありながら、同時にぞんざいかつふてぶてくもあり、これぞギタリストに憧れる人が思わずエア・ギターをしたくなったときに絶対に真似をしたくなる理想形を体現している姿なのではないでしょうか。最初の一音から最後の一音まで、最初のしぐさから最後のしぐさまで何もかもが完璧で、その満ち溢れるエナジーに圧倒されながら息つくことさえ忘れて見入ってしまいます。

 つい個人的な思いを書いてしまいましたが、要はジミ・ヘンドリックスのプレイと「フォクシー・レディ」という曲が最高にクールだと言いたいのだな、ということは少なくとも伝わったでしょうか。そう、繰り返しますが、間違いなく「フォクシー・レディ」は最高にクールな曲なのですよ。

 ですが、今回の本題の映画『ウェインズ・ワールド』の中で「フォクシー・レディ」が使われているシーンを観てしまうと、このクラシック・ロックの中の至高の曲の一つに対して、おかしなイメージが付随してしまって、しばらくは笑いが込み上げてくることを抑えることなくして聴けなくなってしまいます(少なくとも私はそうでした)。

 いざ覚悟して、以下の動画をご覧ください。ドナ・ディクソン(Donna Dixon)演じるダイナーで働く美しい店員を見て、ダナ・カーヴェイ(Dana Carvey)演じるガース・アルガー(Garth Algar)が衝撃的に心を奪われてしまいます。その後、ティア・カレル(Tia Carrere)演じるカサンドラ(Cassandra )に「彼女にちょっと話しかけにいったら?」と言われて、ガースは彼女にアプローチするのを夢見心地で妄想するシーンがやってきます。その中で、ガースはジューク・ボックスで「フォクシー・レディ」をかけると、そのサウンドに合わせて口パクをしつつコミカルな動きをしながら、憧れの美女に近づいていきます。

映画『ウェインズ・ワールド(Wayne’s World)』の中でジミ・ヘンドリック・イクスピアリアンス(The Jimi Hendrix Experience)の「フォクシー・レディ(Foxey Lady)」が流れる場面

 UFOでも近づいてくるかのように、ヴィブラートが効いたギターのフィードバックする音がフェイド・インしてくると、周囲の人たちが上方に目をさまよわせ、ガースが体を震わせます。そして、ズンズンチャー、ズンズンチャーとギターのリフが始まると、背景で長髪の男たちがヘッド・バンギングする中、ガースは「フォクシー」という歌声に合わせてキツネを模したようなギーク丸出しのダサい踊りを始めます。

 その後、「お前を家に連れて帰りたい(I wanna take you home)」という歌詞のところにやってくると、ガースの腰が勝手に前方に動き出し、晴れやかで嬉しそうな顔になり、ますます調子づいてきます。で、最後のブレイクのところで、ギラついている自信に満ち溢れた男の表情になりながら「ほら、俺はやってきたぜ。お前をものにするためやってきたぜ(Here I come/I’m comin’ to get ya)」と口パクします。

 どうです、この強烈にアホなシーン。もう元に戻れなくなってしまうのは私だけじゃないはずです。以後しばらくの間は、「フォクシー・レディ」のイントロが聴こえてきた途端、ジミ・ヘンドリックスの姿ではなく、ガースの踊っている姿を思い出してしまうはずです。しかも、その歌われている詞についても、マッチョを気取った男特有の愚かで滑稽な妄想にしか聞こえなくなってしまうはずです。

 実は、コメディ映画のせいで、つい笑いが込みげてくるようになった曲って、この「フォクシー・レディ」以外にも結構あるんですよね。これ読んでくださった方の中にも、いくつかそういう曲ってあったりしませんか?

 今回書いているうちに、同種の体験を他にも共有したくなったので、次回も「本当はクールな曲だったのに、映画を観た後、笑いが込み上げるようになってしまった」別の曲について書いてみようと思います。

 いろいろあるので迷うところですが、せっかくなので大好きなジミ・ヘンドリックスの最高にクールなもう一つの曲を取り上げてみたいと思います。

 

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