ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』とベトナム戦争の時代のアメリカーージミ・ヘンドリックスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」とバーズの「ターン!・ターン!・ターン!」

映画  音楽   / 2023.07.09

映画『フォレスト・ガンプ/一期一会(Forest Gump)』

 前回は、ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンス(The Jimi Hendrix Experience)の1968年の曲「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー(All Along the Watchtower)」が、コメディ映画『ヴェガス・バケーション(Vegas Vacation)』の中で思わず笑わずにはいられない滑稽な場面を演出するのに使われている場面について書きました。

 今回は、同じ「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が別の映画の中で使われていることで、まったく別の印象を与えてくれる場面を取り上げてみたいと思います(ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」という曲自体をご存じない方は、前回の記事で簡単に解説していますので、そちらをお読みください)。

 ジミ・ヘンドリックスが好きで、かつ映画を頻繁に見まくっている方だったら、「そういえば、あの映画でも「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が流れていたな」と思い出される何らかの印象に残るシーンがあるのではないでしょうか。

 というのも、Billboard‘The 22 Most Overplayed Songs in Movies’という記事の中では、ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの「オール・アロング・ザ・ウオッチタワー」が映画で最も頻繁に使用されれてきた22曲の中の一つとして選ばれています。

 その中から今回は、1994年に公開され、アカデミー賞やゴールデングローブ賞などで数々の賞を獲得したロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)監督の映画『フォレスト・ガンプ/一期一会(Forrest Gump)』の中のシーンを観てみたいと思います。トム・ハンクス(Tom Hanks)演じる主人公のフォレスト・ガンプが、部隊とともにベトナムの水田地帯を警戒しながら歩いていくシーンです。

映画『フォレスト・ガンプ/一期一会(Forest Gump)』でジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンス(The Jimi Hendrix Experience)の「オール・アロング・ザ・ウオッチタワー(All Along the Watchtower)」とドアーズ(The Doors)の『ホウェン・ザ・ミュージックズ・オーヴァー(When the Music’s Over)』が流れるシーン

 ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」は、ちょうどこのシーンで描かれているベトナム戦争の最中にリリースされました。最初にアメリカでシングルとしてリリースされたのは1968年9月21日です。 

 「1968年」と言えば、歴史の教科書に書かれているように、長期化していくベトナム戦争に対して、アメリカ国内での反戦運動が大きな高まりを見せていた時期です。映画『フォレスト・ガンプ』をご覧になった方は、記憶されているのではないかと思いますが、フォレスト・ガンプがベトナムを離れて本国に戻った後、当時の反戦運動の様子が描かれることになります。

 実際に映画の中の場面としては、フォレストが国防総省の集会での反戦行進で、リチャード・ダレサンドロ(Richard D’Alessandro)が演じている社会活動家でフラワー・パワー・ムーヴメントの中心人物だったアビー・ホフマン(”Abbie” Hoffman)の隣に並んだり、黒人の政治組織であるブラック・パンサー党のグループに出会ったりします。

 以下は、映画の中でアビー・ホフマンの隣に並んでフォレストがスピーチするシーンです。アメリカの国旗柄の服を着ているのが、アビー・ホフマンです。

映画『フォレスト・ガンプ』の中でアビー・ホフマンの反戦集会にフォレストが参加するシーン

 この映画を興味深くさせている点の一つは、フォレスト・ガンプという一人の人物が年を重ねていく人生の流れに合わせて、この場面のように50年代から70年代にかけて起こっていたアメリカが直面した現実の出来事を次から次へと見せながら、社会や文化の変化の流れを描いているところにあります。

 先ほどのベトナムのシーンの後半(敵兵への警戒を解いて、再び歩き始めるところ)から、もう一つ当時の非常に重要なバンドの曲が流れてきます。アメリカのロック・バンド、ドアーズ(The Doors)の1967年にリリースされたアルバム『ストレンジ・デイズ(Strange Days)』の中の「ホウェン・ザ・ミュージックズ・オーヴァー(When the Music’s Over)」です。

 実際のところ、『フォレスト・ガンプ』の映画全体を通して、50年代から60年代、さらには70年代を通過していく間のフォレスト・ガンプの人生に起こる出来事が描かれる背景には、必ずそれぞれの時期と関連するアイコニックな曲が流れてきます。

 という点で考えると、昔のポピュラー・ミュージックに興味はあるけれど、あまり詳しくないし、何から聴いたらいいか分からないという方には、映画『フォレスト・ガンプ』のサウンドトラックを、ひとまず聴いてみるのをお勧めしておいてもよさそうです。

 そもそも公開当時から映画『フォレスト・ガンプ』で流れる数々の過去のポピュラー・ミュージックの名曲は、映画を観に行った大勢の人たちにかなり強く訴えたようです。調べてみたところ、劇場公開された1994年の夏にはアメリカのビルボード200アルバムで最高2位にまで上がっていました。

 さらに改めて収録曲を見てみると、全体的に60年代後半の曲が多いことが分かります。例えば、

ジョーン・バエズ(Joan Baez)、「「ブロウイン」・イン・ザ・ウィンド(Blowin’ in the Wind)」(1967)

サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)、「ミセス・ロビンソン(Mrs. Robinson)」 (1968)

ザ・ママス&ザ・パパス(the Mamas & the Papas)、「カリフォルニア・ドリーミン(California Dreamin’)」(1967)

スコット・マッケンジー(Scott McKenzie)、「サンフランシスコ(ビー・シュア・トゥ・ウェア・フラワーズ・イン・ユア・ヘア)(San Francisco (Be Sure to Wear Flowers in Your Hair))」 (1967)

バーズ(The Birds)、「ターン! ターン! ターン!(トゥ・エヴリシング・ゼア・イズ・ア・シーズン)(Turn! Turn! Turn! (To Everything There Is a Season))」

 さほどこの時代のポピュラー・ミュージックを知らない人でも、上記のどれか一曲だったら、どこかで耳にしたことがある可能性は高いと思います。ということで、60年代後半を代表する数々の名曲を知りたいという方は、ぜひ映画『フォレスト・ガンプ』のサウンドトラックを聴いてみてください。

 あ、でも一つ言っておくと、先ほどのジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」は、残念ながらアルバムには入っていません。

 さらについでに言うと、ジミ・ヘンドリックス・イクスピアリアンスの「ヘイ・ジョー(Hey Joe)」という曲も映画『フォレスト・ガンプ』の中では使われていますが、同じくサウンドトラックのアルバムの中には含まれていません。ここで「ヘイ・ジョー」について書き出すと長くなりそうなので、次回にします。

 その代わりに、60年代後半の素晴らしい名曲が使われている『フォレスト・ガンプ』のシーンの中から一つを選んで紹介しておきます。どれにするか本当に迷うところですが、いろいろ考えた末、バーズの「ターン!・ターン!・ターン!」にしました。どうぞ以下の動画をご覧ください。

映画『フォレスト・ガンプ(Forest Gump)』の中でバーズ(The Birds)の「ターン!・ターン!・ターン!(Turn! Turn! Turn! (To Everything There Is a Season))」が流れるシーン

 正直言うと、この場面、もうちょっと「ターン!・ターン!・ターン!」を聴いていたいと思うところで音が消えていってしまいます。

 これは、フォレストがロビン・ライト(Robin Wright)が演じる幼な馴染みの愛するジェニー・カラン(Jenny Curran)と劇的な再会を果たした(先ほどの反戦集会の動画の最後の場面をご覧ください)後、一緒にいて欲しという思いを伝えたにもかかわらず、あっけなく彼を残して彼女が去っていくシーンです。この頃のジェニーは、昔とはずいぶんと変わってしまっていて、ヒッピーの仲間入りをし、反戦運動に参加していました。

 という状況で流れる「ターン!・ターン!・ターン!」は、歌詞を知っている方だったら、まさにぴったりの選曲だと思うはずです。

 1967年にリリースされたバーズの「ターン!・ターン!・ターン!」は、アメリカのビルボード・トップ100で1位になりますが、もともとは1959 年にアメリカのフォーク・シンガー、ピート・シーガー(Pete Seeger)によって書かれた曲です。その歌詞は、聖書の「伝道の書」の3章の最初の8節を使っていますが、バーズのヴァージョンが出たタイミングでは、当時のベトナム戦争への反戦歌としての意味を持つことになりました。

 以下の歌詞の一部を見ていただくと分かるように、映画のこの場面で映っているヒッピーたちの戦争終結と平和への願いはもちろんのこと、フォレストとジェニーの子供から大人になっていく時間の中で変化していく関係にも重ね合わせられます。

 「戦争の時もあれば、平和の時もある。抱きしめていい時もある。抱きしめることを控えるべき時もある。全ての物事に、ターン、ターン、ターン。季節があり、ターン、ターン、ターン/……平和のための時、誓っていうけど、それがあまりにも手遅れだなんてことはない(A time of war, a time of peace/A time you may embrace/A time to refrain from embracing/To everything, turn, turn, turn/There is a season, turn, turn, turn/……A time for peace, I swear it’s not too late.」。

 残念ながら、曲の中のこの歌詞の部分が聴こえてくる前に、先ほどの映画のシーンは切り替わってしまいます。だからこそなおのこと、もう少し長く「ターン!・ターン!・ターン!」を流してほしかったと個人的には思うわけです。

 YouTubeのチャンネルGPITRAL2が作ってくださっている以下の非常に素晴らしい「ターン!・ターン!・ターン!」の動画を、どうぞご覧ください。「ターン!・ターン!・ターン!」に合わせてバーズの映像だけでなく、映画『フォレスト・ガンプ』の中でのフォレストとジェニーのさまざまなシーン(子供の頃、大人になってから、そして最後の場面まで)が合間に映っています。

バーズ(The Birds)の「ターン!・ターン!・ターン!(Turn! Turn! Turn! (To Everything There Is a Season))」

 映画『フォレスト・ガンプ』をご覧になったことがある人だったら、この動画に登場するフォレストとジェニーのさまざまなシーンを「ターン!・ターン!・ターン!」の覚えやすく優しいメロディーと歌詞に耳を傾けながら観ていると、ちょっと切ない思いになって涙腺が緩んでしまいそうになりませんか?

 それにしても、いつも聴くたびに思うことがあります。それはバーズの「ターン!・ターン!・ターン!」は、アメリカの60年代後半という時代を覆っていた独特のマジカルな力のようなものによって奇跡的に生み出された名曲の一つなのではないではないかということです。まあ、この言い方って、過去を美化するありふれた表現でしかないように自分でも思います。ですが、他に言葉が思いつかない上、これが率直に浮かんでくる感想なのです。

 さて次回は、ジミ・ヘンドリックスの「ヘイ・ジョー」のことも含め映画『フォレスト・ガンプ』について、また違った観点から、少し思うところを書いてみたいと思います。

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