ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

イアン・イームズ監督のミュージック・ビデオ(1)ーーザ・ミッションの「ターワー・オブ・ストレンクス」のミュージック・ビデオ。映画『Godzilla ゴジラ』(1998)のパフ・ダディの「カム・ウィズ・ミー」のミュージック・ビデオ

映画  音楽  ミュージック・ビデオ   / 2023.01.20

 前回は、ピンク・フロイドの曲「タイム(Time)」のために、イアン・イームズ(Ian Emes)監督が製作したアニメーション映像について書きました。今回は、イームズのその他の映像作品の中から、とりわけミュージック・ビデオに焦点を絞り、気になったものを紹介してみたいと思います。

 まずは以下のミュージック・ビデオをご覧ください。イギリスのゴシック・ロック・バンド、ザ・ミッション(The Mission)の1988年のアルバム「チルドレン(Children)」からのシングル「タワー・オブ・ストレンクス(Tower Of Strength)」です。

イアン・イームズ監督によるザ・ミッションの「タワー・オブ・ストレンクス」のミュージック・ビデオ

 黒い衣服で身を包み聖職者のような風貌のシンガーのウェイン・ハッセイ(Wayne Hussey)が白い馬に乗って登場します。赤味を帯びた背景の不思議な色合いが、この世の終末の予感すら感じさせます。そして、馬から降りると天を仰ぎ大仰な身振りで、「私が打ちのめされているとき、あなたは私を立ち上がらされくれる(You raise me up when I’m on the floor)」と情感たっぷりに歌い始めます。こうした冒頭の場面からは、宗教的な雰囲気も強く漂ってきます。

 ですが、間奏のあたりからは戦いの場面となり、それこそ前回言及した映画『エターナルズ(Eternals)』のように、ザ・ミッションのメンバーたちが手から光線を放ち、悪を退治し、危機に陥っていた女の子を救い出します。そして、最後は黒ずくめの4人が馬と共に去っていく後ろ姿が映り、西部劇のエンディングを思わせます。

 このダーク・ファンタジー的な物語仕立てのミュージック・ビデオを気に入るかどうかは、人それぞれの好みによるとは思います。であったとしても、何よりも注目すべきは、この映像の中で発揮されているイアン・イームズの色彩感覚です(以前、このブログの中でも言及した1980年のデヴィッド・ボウイの「アッシュズ・トゥ・アッシュズ(Ashes to Ashes)」のミュージック・ビデオでの異世界的な配色の背景映像も彷彿させます)。

 そもそも中世的な趣のあるゴシック・ロックの美学をそのまま映像化しようとするなら、ついモノクロームにしてしまいたくなるものです(もちろん、モノクロームでも悪くありません)。ですが、このミュージック・ビデオの各場面へ超現実的な雰囲気を付与している彩色は、気高さや崇高さを漂わせる「タワー・オブ・ストレンクス」という曲の世界観を、思ってもみなかった形で視覚化してくれているようにも感じます。 

 ところで、この「タワー・オブ・ストレンクス」という曲は、ザ・ミッションのシンガーのウェイン・ハッセイにとって、特別な思い入れのある曲のようです。Songfactsの中のDan MacIntosh氏の2013年9月5日の‘Wayne Hussey of The Mission’でのインタヴューでハッセイは、ザ・ミッションでの長い音楽活動の中で気に入っている曲を一つ選ぶとしたら「タワー・オブ・ストレンクス」で、「それはオーディエンスと自分たちの関係の賛歌だと思っている」と述べています。

 今回、この記事のためにインターネットで情報を拾おうとして知ったのですが、この「タワー・オブ・ストレンクス」は、2020年にCovid-19のチャリティーのためのプロジェクトの「リミッション・インターナショナル(ReMission International)」によってリメイクされ「TOS2020」と題してリリースされていたんですね。

 Louder Than Warの中のPaul Grace氏の記事‘Wayne Hussey Interview & Video: Tower Of Strength – An Anthem Remade’でのインタヴューによると、イギリスの国民保険サービス(National Health Service)の職場で「タワー・オブ・ストレンクス」が流されていて、そこで働く人たちのアンセムになっているという連絡がウェインにやってきたそうです。それに歌詞が現場で働く人たちにぴったりだから、再リリースしてはどうかという意見も言われたそうです。

 結果、このチャリティ・プロジェクトには、ゴシック・ロック系を中心とする多数のミュージシャンが参加することになりました。そのため、「ゴス・バンド・エイド」とも呼ばれてもいるようです。「TOS2020」についてのオフィシャル・ページは、ここです。

 話はまったく変わりますが、70年代のイギリスのハード・ロックがすごく好きな人で、この曲を初めて聴いたという人は、どこかで似たような雰囲気の曲を聴いたことがないか、ちょっと考えてみてください。

 そう、レッド・ツェッペリンの1975年のアルバム『フィジカル・グラフィティ(Physical Graffiti)』中の曲「カシミール(Kashmir)」にどことなく感じが似ているように思いませんか?

 実は「タワー・オブ・ストレンクス」を含む、ザ・ミッションのアルバム『チルドレン』のプロデューサーは、レッド・ツェッペリンのベーシストだったジョン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)なんです。そう思って聴くから、余計にそう感じるだけなのかもしれませんが。

レッド・ツェッペリンの「カシミール」

 レッド・ツェッペリンのファンの方だったら、この「カシミール」を好きな曲の5本の指に入れる人も多いのではないかと思われます。ここで「カシミール」について思うことをうかつにも書き出してしまうと、あらぬ方向へと長々進んで行きそうなので今回はやめておきます。

 ですが一つだけ、このブログの主題の一つである「映画の中の音楽」と関連した話をしておきます。

 ローランド・エメリッヒ(Roland Emmerich)監督の1998年の映画『Godzilla ゴジラ(Godzilla)』のエンディングでは、同年6月にリリースされたアメリカのラッパー、パフ・ダディ(Puff Daddy)のシングル「カム・ウィズ・ミー(Come With Me)」という曲が流れます。レッド・ツェッペリンのファンで、この映画をご覧になった方は、「カシミール」を使った曲だとすぐにお気づきになったと思われます。

 以下の動画は、『Godzilla ゴジラ』本編ではなく、ハワード・グリーンハルジ(Howard Greenhalgh)監督が製作したパフ・ダディの「カム・ウィズ・ミー」のミュージック・ビデオです。観たことがないという方には、ぜひともご覧になってほしい作品です。「カシミール」のリフが繰り返される中、ゴジラが街を破壊する映像が挿入され、さらにパフ・ダディのラップとパフォーマンスに煽られて、終盤に進むにつれてテンションが上がりまくりますよ。

パフ・ダディの「カム・ウィズ・ミー」のミュージック・ビデオ

 途中で建物の大きなスクリーンの中に、レッド・ツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジ(Jimmy Page)本人がギターを演奏する姿も映っていましたね。

 Songfactsの記事‘Come With Me by Puff Daddy’によると、映画『ゴジラ』の楽曲を作る依頼を受けていたパフ・ダディは、どうしても「カシミール」のリフが頭から離れなかったそうです。確かに、「カシミール」の反復するリフがゴジラが迫ってくる恐怖を見事に盛り立てていましたね。また、ジミー・ペイジのレコーディングでの演奏とビデオ出演は、パフ・ダディが電話で直接話してお願いしたとのことです。


 脱線ついでに、もう一つハード・ロック好きの方のための話をすると、ザ・ミッションの「チルドレン」には、エアロスミスの1973年のデヴュー・アルバム『エアロスミス(Aerosmith)』の中のパワー・バラード「ドリーム・オン(Dream On)」のカヴァーが含まれています。

 エアロスミスのファンの方で、ザ・ミッションの「ドリーム・オン」のカヴァーをお聴きになったことがなければ、また違った良さがあると思いますので、以下でどうぞ。

ザ・ミッションの「ドリーム・オン」

 エアロスミスのファンの方、ザ・ミッションの「ドリーム・オン」はいかがでしたでしょうか?

 エアロスミスのシンガーのスティーヴン・タイラー(Steven Taylor)の熱唱に耳を傾けていると、胸を締め付けられるような切なさとともに微かな夢や希望を思い描かせてくれるような気持ちになりますが、ウェイン・ハッセイの悠然とした歌い方と声を聴いていると、悲哀を越えて雄大な世界が目の前に広がってくる感覚すら覚えます。

 

 今回は前回からの続きでイアン・イームズ監督の映像作品について他にも見ていくつもりだったのですが、ザ・ミッションの「タワー・オブ・ストレンクス」から話が広がり過ぎてしまいました。結局、収集がつかないままではありますが、今回はこの辺で終わりにして、イアン・イームズの他の映像作品は、また次回改めて見ていきたいと思います。

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