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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
映画『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』の中のジョン・ロートナー設計のシーツ=ゴールドステイン・レジデンス
インテリア 建築 音楽 ミュージック・ビデオ テレビ・シリーズ / 2022.12.21
前回、建築家ジョン・ロートナー(John Lautner)設計のシーツ=ゴールドステイン・レジデンス(Sheats–Goldstein Residence)が、映画『ビッグ・リボウスキ(The Big Lebowski)』の撮影に使われている話をしました。今回は、前回の最後に述べたように、シーツ・ゴールドステイン・レジデンスが登場する他の映像作品について書いてみたいと思います。
まずは前回、予告した通り、マックG(McG)監督の2003年のアメリカの映画『チャーリーズ・エンジェル:フルスロットル(Charlie’s Angels: Full Throttle)』の中に出てくるシーツ・ゴールドステイン・レジデンスから。
昔に観た記憶の限りではありますが、シーツ・ゴールドステイン・レジデンスは確か3回ほど登場したはずです。その場面の一つを以下でご覧ください。
『チャーリーズ・エンジェル:フルスロットル』では、ルーシー・リュー(Lucy Liu)演じるアレックス・マンディ(Alex Munday)の父親であるミスター・マンディ(Mr. Munday)(ジョン・クリーズ(John Cleese)演じる)の家として使われています。
前回の記事をお読みになってくださっている方だったら、二人が会話しているこの場面の中に格子構造の中に窓がついた特徴な天井がはっきりと映っているので、シーツ・ゴールドステイン・レジデンスのリビング・ルームであることが、すぐにお分かりいただけたのではないかと思います。。
念のために、現実のシーツ・ゴールドステイン・レジデンスのリビングルームの写真を以下でどうぞ。Yellowtraceの中の記事‘SHEATS GOLDSTEIN HOUSE BY JOHN LAUTNER’から引用しました。
外に向かって全面ガラスのリビングルームと幾何学的な形状のソファーとテーブル、何度観てもいいですね。
以下の『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』の別の場面では、夜に撮影されたシーツ・ゴールドステイン・レジデンスが映っています。
こちらにはルーシー・リュー演じるアレックス・マンディの恋人であるジェイソン・ギボンズ( Jason Gibbons)を演じるマット・ルブランク(Matt LeBlanc)も出てきていますね。
再び現実のシーツ・ゴールドステイン・レジデンスの別の角度からの夜の写真もどうぞご覧ください。BERMUDEZ PROJECTSの中の記事‘Lautner’s Otherworldly Beverly Hills House Goes to LACMA’から引用しました。
『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』では、ただの人の良さげなお父さんの家になっていますが、この種のモダニズムの邸宅と言えば、通常の映画の中では大概が「悪役」の家として使われることが多いと思われます。それこそ007シリーズなんかでもそうですが、子供の頃の私なんかは、そうした映画の悪役の家を見るたびに「すげーかっこいい」とよく分からずに憧れていたものです。別の機会にでも、映画の悪役の家に絞ってまとめた記事を書いてみようかなとも思っています。
ついにで『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』と関連する話をすると、ちょうど前々回の記事で話題にしたヘンリー・マンシーニが作曲した映画『ピンクパンサー(The Pink Panther)』(1963)の主題曲も同映画で使われています。三人の主役のエンジェルたちがセクシーに踊る以下の場面です。
しょうもないシーンなんて言ったらファンには怒られるかもしれませんが、まあキャメロン・ディアス(Cameron Diaz)演じるナタリー・クック(Natalie Cook)が、とにかく楽しそうにはっちゃけて踊っていますね。
もう一つだけついでに言うと、これまた前々回の記事で話題にしたB-52’sの曲「プラネット・クレア(Planet Claire)」も『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』の中で使われています。エンジェルたちが、デミー・ムーア(Demi Moore)演じる「堕ちたエンジェル」のマディソン・リー(Madison Lee)と建物の屋上で戦いを繰り広げる直前の場面です。
それにしても、この映画自体そもそもどうなんでしょうか? 私の知り合いの映画好きの間では、絶賛と酷評のどちらかに完全に分かれています。
そもそもこの映画、公開された2003年の第24回ゴールデンラズベリー賞の「最低作品賞」、「最低脚本賞」など全部で7部門にノミネートされ、結果として「最低リメイクないしは続編賞」と「最低助演女優賞」(デミー・ムーア)ではトロフィーを獲得していますからね。同年のスティンカース・バッド・ムーヴィー・アワーズでも7部門でノミネートされ、こちらでは「最低監督賞」と「最も押し付けがましい音楽賞」を勝ち取っています。
なので、これから観てみようと思っている方のために言っておくと、あまり真面目な気持ちで鑑賞しようとしない方がいいかもですよ。躍動しまくるエンジェルたちに気持ちを合わせて、はっちゃっけて観るのが最良の鑑賞方法だと思います。例えばですが、いわゆる「女子会」(今2022年末ですが、もしかしてやや死語ですかね?)みたいな集まりで、実際にはもはや大人の年齢になってしまっている「女子たち」が日頃のストレスを発散すべくアルコールでも飲んで騒ぎながら観るには最高の映画なのかもしれません(「女子」の方々、この発言に対して怒らないで笑ってくださいね)。
以下に『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』のはっちゃけたトレイラーを載せておきます。ちなみに、冒頭から流れる思わず口ずさみたくなる楽しい曲は、アメリカのロック・バンド、ザ・ナック(The Knack)の1979年のデヴュー・シングル「マイ・シャローナ(My Sharona) 」です。その年にビルボード・トップ100の1位にもなった大ヒット曲です。70年代のロックが好きな方には超有名な曲ですね。
軽快な「マイ・シャローナ」が映画全体の雰囲気をうまく伝えてくれています。それにしても、このトレイラーを観てると、はちゃめちゃでとても楽しそうな映画を期待させてくれますね。実際の本編はと言うと、確かに題名にふさわしく、さらに呆れるほど「フルスロットル」なやりたい放題の映画になっています。
ちなみにですが、トレイラーの1分22秒あたりから始まり、終盤を盛り上げてくれるアグレッシヴな曲は、90年代のいわゆる「ビッグ・ビート」のパイオニアとなったイギリスのバンド、プロディジー(The Prodigy) の1996年のシングル曲「ファイアスターター(Firestarter)」です。この曲はUKシングル・チャートで1位になっています。
この曲は『チャールズ・エンジェルス:フルスロットル』の本編の中でも、ルーシー・リュー演じるアレックス・マンディが迫りくる敵たちに向かって「うわーーーー」と豪快に炎を放つ戦いの場面で使われています。以下のこれまた「フルスロットル」な場面を、ご覧ください。
ところで、プロディジーの「ファイアスターター」のミュージック・ビデオを、ご覧になったことはありますでしょうか? ご興味のある方は以下でどうぞ。観たことがない方のために先に言っておきますが、ただじっと座って観ていることなんかできなくなるほど、強烈なビートと奇怪な踊りに鼓舞されますよ。
パンクなルックスでキレッキレの動きと表情で口パクしているキース・フリント(Keith Flint)の姿に、好き嫌いは別として、今観ても誰もの目が釘付けになることは間違いないでしょう。
当時のプロジディーのファンの方なら、このミュージック・ビデオを観るたびに、激しく暴れまくっていたのではないでしょうか。 かくいう私も車を運転しながら、この曲が入っているプロディジーの1997年のアルバム『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド(The Fat of the Land)』を爆音でヘビロテしていたものです。スピード違反をし過ぎないように気をつけながら。ついアクセル踏んじゃいますからね。
ちなみにですが、この切迫感を煽り立てる「ファイアスターター」のブレイク・ビートは、シカゴのR&Bやハウス・ミュージックのグループ、テン・シティ(Ten City)の 1987年のシングル「ディヴォーション(Devotion)」のリミックスの「ヴォィス・オブ・パラダイス・ミックス(VOICE OF PARADISE MIX)」からのサンプリングで作られています。よろしければ、以下で元ネタをお聴きください。
この時期の無敵の勢いに乗っていた過剰に過激なプロディジーを最高潮に盛り立てていたキース・フリントは、残念で悲しいことにも2019年に亡くなってしまいました。
生前のフリントは音楽活動とは別に熱烈なモーターサイクリストだったことはよく知られています。自身のモーターサイクルのチームを持っていて、レースにも出ていました。そのためなのでしょうか。『チャーリズ・エンジェル:フルスロットル』の激しいバイクでのバトルのシーンでも、プロディジーの「ブリーズ(Breathe)」という別の曲が使われています。この曲とともに、ばかげたほどアクロバティックな激しいモーターサイクル・アクションが観られます。その実際の映画の場面は、以下でご覧ください。
これまた文字通り「フルスロットル」なシーンですね。いくら何でも物理の法則を無視しまくりのモーターサイクル・アクション、笑わずには観ていられません。こんな言い方をすると、ファンの方に怒られますかね? いや、そんなことないですよね。きっとファンの方も笑って観ているはずです。 そもそもがアクション・コメディ映画と括られていますからね。「なんてアホな」と笑いながら観るのが、たぶん正解です。
ここで使われているプロディジーの「ブリーズ」という曲も先ほどの「ファイアスターター」と同年にリリースされてUKシングル・チャートの1位となりました。そして、こちらのプロジディーのミュージック・ビデオの方も、そういう言い方がぴったりなので、あえて当時の90年代後半風の陳腐な口調で感想を表現しますが、「マジ、ヤバい」ですよ。
もはやホラー的であり、かつコミカルであるがゆえに不気味さを増しているキース・フリントの扮装はもちろんのこと、プロディジーのもう一人のメンバーのマクシムの異様なメイクもワル全開です。汚いアパートメントの中で昆虫やらなにやらの生物がぬめっと現れてくるので、こちらはちょっと試聴に要注意かもですね。
観る者の精神を強制的に攪拌するような、こうした2つの強烈な映像を製作したのは、イギリスのミュージック・ビデオ監督のウォルター・スターン(Walter Stern)です。
ウォルター・スターンは90年代に多数の尋常ならざるミュージック・ビデオを監督していますが、ここでスターンが監督した作品の中でも、あえてひとつ言及しておきたいのは、ブリストルのトリップ・ホップを代表するグループ、マッシヴ・アタックの1998年のアルバム『メザニーン(Mezzanine)』からのシングル「ティアドロップ(Teadrop)」です。これは同年のMTVヨーロッパ・ミュージック・アワーズでベスト・ビデオ賞を獲得しています。
ここでマッシヴ・アタックの「ティアドロップ」の話を持ち出したのは、ちょっと理由があります。というのも、このブログの中の少し前の記事でジス・モータル・コイル(This Mortal Coil)の「ソング・トゥ・ザ・サイレン(Song To The Siren)」という曲の話をしましたが、その曲で歌っていたエリザベス・フレイザー(Elizabeth Fraser)が、他ならぬこのマッシヴ・アタックの「ティアドロップ」にヴォーカルを提供しているからです。
ご覧の通り、こちらも尋常ならざるミュージック・ビデオです。子宮の中にいる胎児が口をパクパクさせて歌うという幻想的と言うべきなのか、奇怪とも言うべきなのか、もしかすると人によってはちょっと不気味に感じてしまうような独特の映像世界が作られています。
ところで、マッシヴ・アタックを良く聴いていた方で、かつ海外ドラマも良く見ていた方だったら、2005年にファースト・シーズンが始まったTVドラマ『プリズン・ブレイク(Prison Break)』の中で、この「ティアドロップ」が非常に印象的に使われているのを覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか? このドラマ、日本でもすごく人気がありましたね。
以下の映像をご覧ください。シーズン1のエピソード20の「トゥナイト(Tonight)」で、およそ4分30弱の間、背後に「ティアドロップ」の歌のない部分のサウンドが静かに流れ続けます。ドラマを実際にご覧になった方だったら、いよいよ脱獄が始まろうとする夜の前、登場人物たちのそれぞれのいろいろな思いや事情を回想させる意味深い場面として、ご記憶されているのではないかと思います。
ところで、このマッシヴ・アタックの「ティアドロップ」には、ちょっとした逸話もあります。1997年のレコーディング中、この曲のヴォーカルを提供しているエリザベス・フレイザーのかつての交際相手である才能溢れるシンガー・ソングライターのジェフ・バックリィ(Jeff Buckley)が、悲しいことにもメンフィスのウルフ川で水泳中に溺死したという知らせがもたらされました。
このブログの以前の記事で書きましたが、エリザベス・フレイザーがヴォーカルを提供したジス・モータル・コイルのカヴァー曲「ソング・トゥ・ザ・サイレン」のオリジナルは、シンガーソングライターのティム・バックリィ(Tim Buckley)でした。で、ティム・バックリィは、実にエリザベス・フレイザーが「ティアドロップ」をレコーディング中に亡くなった知らせを受けたジェフ・バックリィの父親なのです。
ティム・バックリィとジェフ・バックリィ。父も子もどちらもシンガーソングライターとして素晴らしい才能の持ち主だっただけに、早すぎる死が本当に残念でなりません。The Guardianの中のDave Simpson氏の記事‘Elizabeth Fraser: the Cocteau Twins and me’での2009年11月26日のインタヴューの中でエリザベス・フレイザーは、ジェフ・バックリィの死の知らせを受けたときのこをと、「それはとても奇妙なことだった」と述べています。「手紙を出したり、彼[ジェフ・バックリィ]のことを考えたりしていました。この曲[ティアドロップ]は彼のことを歌っているようなもの――とにかく私にはそう感じられるのです」([]内は筆者補足)。
ジェフ・バックリーとエリザベス・フレイザーがコラボレイションした未発表の音源も残っています。「オール・フラワーズ・イン・タイム・ベンド・トゥワーズ・ザ・サン(All Flowers In Time Bend Towards The Sun)」という曲です。Youtubeにアップされていましたので、以下でお聴きください。
バックがシンプルなギターの演奏のおかげで、二人のそれぞれの歌声へとじっくりと耳を傾けることができますね。先ほどのエリザベス・フレイザーのインタヴューの話を読んでから聴くと、非常に感慨深いものがあります。
本題のジョン・ロートナー設計のシーツ=ゴールドステイン・レジデンスからは、ほど遠いところまで話が流れいってしまいました。今回はこの辺で終わりにして、シーツ=ゴールドステイン・レジデンスが使われているその他の映像作品については、次回引き続き書いてみたいと思います。
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