ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


※ご質問は伊泉龍一 公式サイトよりお願いします。伊泉龍一公式サイトはこちら

執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。

『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』

ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

『ツイン・ピークス』の後のジュリー・クルーズ(6)――アルバム『ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール』。ヘンリー・マンシーニの『NBCミステリームービー』の主題曲。

映画  建築  音楽  ミュージック・ビデオ  テレビ・シリーズ   / 2022.12.16

 前回は、ロバート・アルトマン監督の2003年の映画『バレエ・カンパニー(The Company)』の中で、ジュリー・クルーズ(Julee Cruise)が歌う「ザ・ワールド・スピンズ(The World Spins)」が使われていることについて書きました。今回は、その前年の2002年ににリリースされた彼女自身の3枚目のアルバム『ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール(The Art of Being a Girl)』に耳を傾けてみたいと思います。

 『ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール』は、デヴィッド・リンチ&アンジェロ・バダラメンティがプロデュースした2枚目の1993年のアルバム『ザ・ヴォイス・オブ・ラブ(The Voice of Love)』から、およそ9年ぶりとなります。このアルバムは以前のアルバムとは異なり、リンチ&バダラメンティとは関係なく製作されました。プロデューサーとなったのは、ニューヨークを拠点とする作曲家でギタリストのJ・J・マックギーハン(J.J. McGeehan)という人です。

 マックギーハンはプロデュース業とは別にブラジリアン・ジャズ的なギターのインストゥルメンタルの曲からなる自身のアルバムもリリースしています。よろしければ参考までに、彼の2010年のアルバム『エチョ・マノ(Echo a Mano)』の中から「ボレロ・リッミコ(Bolero Rítmico)」をお聴きください。

J・J・マックギーハンの「エチョ・マノ」

 プロデューサーとなったマックギーハンのこうした音楽性のおかげで、2002年のジュリー・クルーズのアルバム『ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール』は、ボサノヴァ的なジャズがエレクトロニカへ混ぜ合わされたサウンドになっています。その結果、それこそ90年代のブリストルを中心として展開された、いわゆる「トリップ・ホップ(Trip Hop)」を彷彿させるような曲も中には含まれています。とりわけスパイ映画的な雰囲気とエレクトロニカを融合させたポーティスヘッド(Portishead)、あるいはキャバレー的な雰囲気を漂わせながらのエレクトロニカを聴かせてくれたゴールドフラップ(Goldfrapp)(特に2000年のファースト・アルバム『フェルト・マウンテン(Felt Mountain)』)あたりを好きで聴いていた人だったら、もしかすると中には割と好みの曲もあるのではないかと思われます。

 では、まずジュリー・クルーズのアルバム『ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール』の一曲目「ユア・ステアリング・アット・ミー(You’re Staring at Me)」をお聴きください。

ジュリー・クルーズの「ユア・ステアリング・アット・ミー」

 いかがですか? それこそ昔の映画に出てくるキャバレーの場面を彷彿させるような雰囲気にブラジリアンなサウンドが加わった感じで素敵じゃないですか?

 さらにアルバムのタイトル曲の「ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール(The Art of Being a Girl)」もお聴きください。

ジュリー・クルーズの「ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール」

 先ほどの曲もこちらの曲も以前のアルバムとは違い、末尾に軽いヴィブラートを効かせた歌い方によって深みと艶が加わった、よりいっそう魅力的な声になっていると思いませんか?(前にもこのブログ内の記事で述べていますが、『ツイン・ピークス』の頃の「天使的」な中空をひたすら漂っているような声は、リンチ&バダラメンティの曲に合わせて作られた歌声でした)。

 このアルバムのほとんどの曲は、マックギーハンとジュリー・クルーズの共作となっていますが、この曲「ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール」には、ドイツのフランクフルト・アム・マイン出身のミュージシャンでDJでレーベル経営者のカーン(Khan)(本名はカン・オラル(Can Oral)で、カーンを含め、複数の名義で音楽活動をしています)が加えてクレジットされています。ジュリー・クルーズは、すでにカーンの1999年のアルバム『1-900-ゲット-カーン(1-900-Get-Khan)』や2001年のアルバム『ノー・コンペルド(No Comprendo)』で、ヴォーカルを提供しています(ちなみに、カーンについての簡潔なプロフィールは、ドイツ語のサイトですが、ここに出ています)。カーンとジュリー・クルーズのコラボレイションがどんな感じなのか気になる方もいるかもしれないので、カーンのアルバム『ノー・コンペルド』の中のジュリー・クルーズが歌う「セイ・グッドバイ(Say Goodbye)」という曲を紹介しておきます。

カーンのアルバム『ノー・コンペルド』の中でジュリー・クルーズが歌う「セイ・グッバイ」

 『ジ・アート・オブ・ビーイング・ア・ガール』に話を戻すと、このアルバムの中のもう一つの聴きどころは、ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)の1961年のアルバム『ミスター・ラッキー・ゴーズ・ラテン(Mr. Lucky Goes Latin)』に収録されている「ルージョン(Lujon)」という曲のカヴァーだと思います。

 マンシーニと言えば、映画のサウンドトラックに興味のある方にはお馴染みだと思われますが、いつまでもメロディーが耳に残る忘れがたい映画音楽を数多く生み出している作曲家ですね。特にアメリカの映画監督ブレイク・エドワーズ(Blake Edwards)の作品のための楽曲――例えば1961年の映画『ティファニーで朝食を(Breakfast at Tiffany’s)』の中で女優オードリー・ヘップバーンが歌う「ムーン・リバー(Moon River)」、1963年のコメディ映画『ピンクパンサー(The Pink Panther)』の主題曲など――は、ことさら映画ファンでなくても、知らぬ間にどこかで耳にしたことがあるほど有名な曲なのではないかと思われます。

 また、ブレイク・エドワーズ原案の1958年から1961年にアメリカで放映された有名なTVドラマ『ピーター・ガン(Peter Gunn)』の主題曲もヘンリー・マンシーニ作曲です。ついでに言うと、ちょうど前回『バレエ・カンパニー(The Company)』の話をしましたが、その監督のロバート・アルトマンも1961年4月24日に放映された『ピーター・ガン』のシーズン3のエピソード28「ザ・マーダー・ボンド(The Murder Bond)」を監督しています。

 「ピーター・ガン」という曲名を知らないという方でも、実際の曲を聴いたら、おそらくどこかで耳にしたことがあるメロディーだと思いますよ。以下でドラマのイントロととともに「ピーター・ガン」のオープニングをどうぞ。

ドラマ『ピーター・ガン』の主題曲が流れるオープニング

 これから始まる犯罪&探偵ドラマの世界へと導いていくには最高の曲ですね。

 「ピーター・ガン」には数多くのカヴァーがありますが、その中でもカルト的な人気のあるジョン・ランディス監督の1980年の映画『ブルース・ブラザース(The Blues Brothers)』での「ピーター・ガン」のカヴァーが、とりわけ有名なんじゃないでしょうか。同映画の人気の理由の一つは、紛れもなくそのサウンドトラックの魅力にあると言っていいでしょう。全般に渡って流れるリズム&ブルースやソウル・ミュージックのサウンドトラックが心を浮き立たせてくれますし、さらにジェームス・ブラウン、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、ジョン・リー・フッカー等々、数多くの大物ミュージシャンたちが実際に登場してくるのも目が離せません。『ブルース・ブラザース』は、音楽ネタの宝庫なので、別に改めて書いた方がよさそうですね。

 「ピーター・ガン」のカヴァー曲の話についても、いろいろ書いてみたいところです。1959年のアメリカのトランペット奏者レイ・アンソニー(Ray Anthony)のヴァージョンとか、同年のアメリカのロックンロールのギタリストのデュアン・エディ(Duane Eddy)のヴァージョンとかは個人的には大好きなのですが、それについて書き始めると本題から逸れ過ぎてしまいますので、これもまた別の機会に。

 ここでは本題へと戻る前に、「ピーター・ガン」にインスパイアされたちょっと変てこりんで面白い曲を以下の動画で紹介しておきます。これはカヴァーというよりも、「ピーター・ガン」のリフないし音型の繰り返しをアレンジし、そこに歌詞をつけて歌ったアメリカのニュー・ウェイヴ・バンド、B-52’sの「プラネット・クレア(Planet Claire)」という曲です。この曲は1979年のデヴュー・アルバム『ザ・B-52’s(The B-52’s)』からのセカンド・シングルとして同年7月にリリースされました。

B-52sの「プラネット・クレア」

 50年代ないし60年代のSF映画を思わせるような宇宙音から始まり、「ピーター・ガン」のリフとパーカッションが入ってきて、その後にシンディ・ウィルソン(Cindy Wilson)の「アーーーアーアーーー」という声とキーボードの音が被さっていく2分半ほどの長いイントロの後に、ようやくシンガーのフレッド・シュナイダー(Fred Schneider)による当時のポスト・パンク・バンドに特徴的なメロディー感のないヴォーカルが入ったかと思うと、その後、さしたる展開もなくパタッと終わる、かなり奇妙で面白い曲です。当時のほとんどのニュー・ウェイヴ・バンドのファッションやメイクはとてつもなく奇抜ですが、その中でもB-52’sは、それこそ「キッチュ」とでも表現すればいいのでしょうか、格別に際立ったバンドの一つですね。

 実はここでB-52’sを紹介したのは、1990年に同バンドのシンガーの一人シンディ・ウィルソンが同バンドを離れた後、彼女抜きでリリースされた1992年の『グッド・スタッフ(Good Stuff)』の後のツアーに、ジュリー・クルーズがシンガーとして一時期参加しているからです。

 以下の動画は、1999年の夏のカリフォルニア州マンティーカでのB-52’sのライブです。シンディが戻った後ではありますが、このライブにもジュリー・クルーズは参加しています(向かって左側にいる女性がジュリー・クルーズです)。B-52’sの1989年のアルバム『カズミック・シング(Cosmic Thing )』のからのシングルでUSトップ10に入ったヒット曲「ロウム(Roam)」を、ジュリー・クルーズがバンドと一緒になって楽しそうに歌っているのが見られます。

B-52’sのライブに参加しているジュリー・クルーズ

 本題に戻って話を続けたいところですが、ひとまず今回はこの辺りで終わりにします。話を振っただけで終わってしまったジュリー・クルーズが歌う「スロー・ホット・ウィンド」については、また次回改めます。

 最後におまけとして、日常を忘れて、どこか夢の世界へ連れて行ってくれるような以下の曲をよかったらどうぞ。

https://youtu.be/3_TMMtQhT-0
『NBCミステリー・ムービー』のオープニング

 これは1971年から1977年までアメリカのNBCが放映していたTVドラマのアンソロジーのシリーズ『NBCミステリー・ムービー(The NBC Mystery Movie)』のオープニングで使われていた主題曲ですが、これもヘンリー・マンシーニ作曲です。日本でも当時NHKで放映されていたドラマ『刑事コロンボ(Columbo)』のオープニングに、この曲が使われていたので、70年代後半にテレビをよく観ていた世代の人だったら聞き覚えがあるのではないかと思います。

 それにしても、この時代のこの種の音楽を聴くと、強烈なビートと刺激的な電子音で身体を直撃してくる曲が多い21世紀現在のポピュラー・ミュージックとは異なる力、つまりメロディーそのものが働きかけてきて、身体よりも心の方を動かす力を感じませんか?

 今日のブログを書いていて、70年代頃の探偵・刑事ドラマを無性に観たくなってしまいました。あ、決めました。今日の夜は、当時の日本のお父さんたちのようにビールと枝豆でも用意して、テレビの前で70年代の刑事ドラマか映画でも観ることにします! 何がいいでしょうか? クリント・イーストウッド主演の『ダーティー・ハリー(Dirty Harry)』とかかな……。 この時代の刑事ものの映画やドラマを今さらながら再鑑賞してみると、ジャズ系のサウンドが使われていることも多く、そのクオリティの高さで本当に驚かされます。『ダーティー・ハリー』もジャズ・ピアニストのラロ・シフリン(Lalo Schifrin)が作曲していて、いきなり冒頭の場面から映像にいっそうの緊迫感を与えると同時に、同映画の方向性を決定づけると言ってもいい秀逸したサウンドトラックが流れてきます。この辺りのことも、また別のときに書いてみたいものです。

 

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