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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』から見た70年代のインテリア・デザインーーガラスとクロムのバウハウス的なコーヒー・テーブルからクノート・へスターバーグのスペース・エイジ的なコーヒー・テーブルまで
映画 インテリア テレビ・シリーズ / 2023.12.10
前回はテレビ・シリーズ『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』の中の70年代を再現した部屋の中を眺めながら、そのフロア・ランプとウォール・ランプについて書いてみました。今回はテーブルに注目してみたいと思います。
前回と同様、『時空刑事1973』のシーズン2の第4話のセットとなった部屋をご覧ください。同シリーズのプロダクション・デザインを務めたマット・ガント(Matt Gant)がウェブ・サイトに掲載してくださっている画像を引用しました。
注目していただきたいのは、2台のソファーの中央に置かれた円形のコーヒー・テーブルはです。ちょっと見ずらいですね。では、こちらの実際の場面をご覧ください。
こちらでもまだ見ずらいですね。先ほどのセットの写真の方の画像を拡大してみましたので、以下をご覧ください。
いかがでしょうか? 円形のガラスの天板とスチールの脚部が組み合わされたコーヒー・テーブルを確認できましたでしょうか?
では、以下のコーヒー・テーブルをご覧ください。
画像はOLD NORTH INTERIORSの商品ページから引用しました。『時空刑事1973』で使われているのと似たタイプではありますが、まったく同じではありません。スチールの脚の形を比較してみてください。似ていますがちょっと違います。こちらでは脚のセグメント同士の間に連結部が二か所ありますが、『時空刑事1973』のテーブルにはありません。さらに、こちらでは脚のフレームがテーブルのサイドを囲む形になっていますが、『時空刑事1973』の方のテーブルの脚はそうなっていません。
OLD NORTH INTERIORSの商品ページによると、このコーヒー・テーブルは、70年代のイタリア製ということですが、デザイナーやメーカーについては記されていませんでしたので詳細は不明です。ヴィンテージなので値段は決して安くはありません。895ユーロでした(2023年12月10日の為替レートで計算すると139,584円)。
もう一つ同タイプの似ているコーヒー・テーブルをご覧ください。
画像はPAMONOの商品ページから引用しました。こちらも1970年代のイタリアのヴィンテージです。
こちらの方が先ほどのよりも『時空刑事1973』のコーヒー・テーブルに近づいています。先ほどのとは違って、脚のセグメント同士の間に連結部が見えません。ですが、こちらはトップの円形のガラスがスチールで縁取られています。一方、『時空刑事1973』の方のコーヒー・テーブルはそうなっていません。
まったく同じものではないとはいえ、こうした金属が加工された脚で支えられた円形のガラスのコーヒー・テーブルというのは、70年代に非常に数多く作られていました。
では、『時空刑事1973』のコーヒー・テーブルと類似のもので、当時のものとしては、おそらく最も洗練された美しさが見られるコーヒー・テーブルを以下でご覧ください。
画像は1stDIBSの商品ページから引用しました。これも脚部のデザインは今まで見てきたのと類似しています。ですが、こちらの方が圧倒的にスタイリッシュに見えます。違いはと言うと、『時空刑事1973』のコーヒー・テーブルも先ほどの70年代の2つのコーヒー・テーブルも、どれも脚がチューブ状でしたが、こちらは平たく加工されています。また、セグメント同士の連結部がなく、それらが直接ぴったりと接合されてきれいな仕上がりになっています。こうしたちょっとした違いによって、こちらのテーブルには、さらなる美しさと上品さが感じられるわけです。
実はこちら、ギリシャ出身のインダストリアル・デザイナーでミッドセンチュリー・モダンのスタイルの家具を数多く生みだしてきたニコス・ゾグラフォス(Nicos Zographos)によってデザインされた1960年代のコーヒー・テーブルなのです。ちなみに、1stDibsでの価格は2,300ドルでした(2023年12月10日の為替レートで計算すると333,339円)。さすがにこちらは高額がつけられていますね。
1stDIBSの商品ページには、このコーヒー・テーブルについて次のような解説が書かれていました。
「1960 年代にニコス・ゾグラフォスによってデザインされたこの簡素で人を惹きつける力のあるフォルムは、彼の会社が生み出した作品の典型である。優れた金属加工によって上質であり、バウハウスの禁欲的な美学にしっかりと準拠している」。
上記の引用にある彼の会社というのは、1964 年にニューヨークに設立されたゾグラフォス自身の会社ゾグラフォス・デザインズ・リミテッド(Zographos Designs Limited)のことです。
また、上記の引用にある「バウハウス(Bauhaus)」というのは、建築家のヴァルター・グロピウス(Walter Gropius, 1883-1969)によって1919年にドイツのワイマールに設立された芸術学校のことです。つまり、ゾグラフォスのこのコーヒー・テーブルは、不必要な装飾を省き、合理主義的で機能主義的な単純なデザインを追求するバウハウスのデザインの理念に基づいているというわけです。
以前にこのブログの中で、ドイツの建築家のルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)とドイツのデザイナーのリリー・ライヒ(Lilly Reich)がデザインした「バルセロナ・チェア(Barcelona Chair)」について言及したことがありますが、ローエの方は1930年から1933年までバウハウスの校長を務めていました。
で、コーヒー・テーブルとは関係ないですが、以下のチェアをご覧ください。画像は、INTERIOR DESIGNの中の記事‘What to Collect Now: Nicos Zographos’から引用しました。
これはニコス・ゾグラフォスが、ミース・ファン・デル・ローエとリリー・ライヒのバルセロナ・チェアを解釈し、1959 年にデザインしたCH28・リボン・チェア(CH28 Ribbon Chair)です。
確かにバルセロナ・チェアと基本コンセプトは一緒です。注目すべきは、このCH28・リボン・チェアの脚部が、先ほどのコーヒー・テーブルと同様の美しい加工がなされている点です。
ここでバルセロナ・チェアと見比べてみましょう。画像は、FLYMEeの商品ページから引用しました。
横から見たバルセロナ・チェアの脚の曲線は本当に美しいですね。CH28・リボン・チェアとバルセロナ・チェア、どちらを選ぶかは好みとなると思いますが、より70年代風のインテリアを目指した部屋なら、ゾグラフォスのCH28・リボン・チェアを置いた方がそれらしくなるのではないかと思います。
なお、バルセロナ・チェアについては以下の過去の記事で言及していますので、どうぞ以下もお読みください。
映画『トロン・レガシー』のセイフ・ハウスのインテリア(1)ーージョセフ・コジンスキー監督のサーブのコンセプト・カー「エアロX」のコマーシャル映像
ミュージック・ビデオの中のジョン・ロートナー設計のシーツ=ゴールドステイン・レジデンス(1)――トレイシー・スペンサーの「イッツ・オール・アバウト・ユー(ノット・アバウト・ミー)」
コーヒー・テーブルの方に話を戻します。先ほども述べたように、70年代にはガラスの天板で脚の部分がクロムという円形のコーヒー・テーブルが多数作られています。ただし、ニコス・ゾグラフォスのようなシンプルなバウハウス的なデザインのコーヒー・テーブルよりも、むしろもっとフューチャリスティックな印象的なデザインのものが多かったりします。ここでは、その中からほんの数点を紹介してみたいと思います。
まずは以下をご覧ください。画像はPAMONOの商品ページから引用しました。
脚の形が先ほどのバルセロナ・チェアを彷彿させるデザインになっていますね。PAMONOの商品ページによると、こちらは70年代のイタリア製だそうすですが、デザイナーやマニファクチャーは不明です。PAMONOでの価格は697ドル(2023年12月10日の為替レートで計算すると101,016円)でした。
もう一つデザイナー不詳の70年代のイタリア製のコーヒー・テーブルをご覧ください。画像はPAMONOの商品ページから引用しました。
どこか可愛らしさを感じる形に思えます。こちらの脚の形から、昭和の子供のお弁当のおかずの定番だったタコに模した赤いソーセージの形を思い出すのは私だけでしょうか? PAMONOでの価格は893ポンド(2023年12月10日の為替レートで計算すると162,374円)でした。
さらにもう一つデザイナー不詳の70年代のコーヒー・テーブルをご覧ください。画像はTHE OLD CINEMAの商品ページから引用しました。
これは宇宙ないし未来を舞台にしたSF映画に出てきそうなフォルムですが、個人的にはかなり好みです。たまたま立ち寄ったインテリア・ショップで実物を見たら、衝動買いしたくなりそうです。とは言ったものの、値段を見たら750ポンド(2023年12月10日の為替レートで計算すると135.372円)でした。まあ、私の金銭感覚では衝動買いは無理な値段でした……。
さらにフューチャリスティックな印象のある70年代のイタリアのコーヒー・テーブルをご覧ください。画像は1st Dibisの商品ページから引用しました。
クロムの脚が複雑なデザインになっていますね。どうやって作られているのか気になります。ぜひとも実物を近くで見てみたいものです。こちらもデザイナーは不詳ですが、1stDibisで価格を見ると群を抜いて高額でした。なんと4,069ドル(2023年12月10日の為替レートで計算すると589,720円)でした。
さて、デザイナーがはっきりしているコーヒー・テーブルも見てみましょう。
まずは、イタリアのカルテル(Kartell)やアルテルーチェ(Arteluce)やザノッタ(Zanotta)などのために数多くのプロダクトをデザインしたジョット・ストピーノ(Giotto Stoppino)による70年代のコーヒー・テーブルをご覧ください。画像は、VNTGの商品ページから引用しました。
ぐっとレトロ・フューチャーな感じがしますね。いわゆるスペース・エイジ的なインテリアが好きな人なんかは好みなのではないでしょうか? こちらはVNTGでは売れてしまっていて価格は記されていませんでした。
ちなみにですが、スタンリー・キューブリック監督の1971年の映画『時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)』の中では、同時期に製作されたジョット・ストピーノのダイニング・テーブルが使われています。以下をご覧ください。画像は、Film And Furnitureから引用しました。
前々回の記事で言及しましたが、『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』の題名はデヴィッド・ボウイの曲「ライフ・オン・マーズ?」に由来しています。そのついでの話をすると、1972年にボウイは『ザ・ライズ・アンド・フォール・オブ・ジギー・スターダスト。アンド・ザ・スパイダース・フロム・マーズ(The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)』というアルバムをリリースします。そして、それに合わせたステージ衣装の一部には、前年に公開された映画『時計じかけのオレンジ』の中の若者たちのファッションの一部が取り入れられています。
『時計じかけのオレンジ』のインテリア・デザインについては、そのうち書きたいと思っていますので、その際、このジョット・ストピーノのダイニング・テーブルの詳細とともにボウイの衣装の話もしてみたいと思います。
続いてイタリアのデザイナーで建築家のオズヴァルド・ボルサーニ(Osvaldo Borsani)のデザインした70年代のコーヒー・テーブルをご覧ください。画像はPAMONOの商品ページから引用しました。
こちらなんかは1966年から1969年に放映されていたテレビ・シリーズの『スター・トレック(Star Trek: The Original Series)』(日本での放映時の題名は『宇宙大戦争』)的な感じがします。こちらはPAMONOで1,811オーストラリア・ドル(2023年12月10日の為替レートで計算すると172,782円)でした。
『スター・トレック』を好きでご覧になっていた方、そのインテリアに注目してみたことはありますか? 実はミッド・センチュリーの個性的な家具や照明がちらほら見られるので、そういう観点から『スター・トレック』を見直すと、改めてかなり楽しめますよ。
『スター・トレック』ということで言えば、もっとそれっぽい感のある以下のテーブルをご覧ください。画像はPAMONOの商品ページから引用しました。
このまさにスペース・エイジ的なテーブルは、70年代ではなく60年代に作られました。ドイツの彫刻家のクノート・へスターバーグ(Knut Hesterberg)がデザインし、ロナルド・シュミット(Ronald Schmitt)社から販売されていました。まさにSF映画に出てきそうなデザインの脚部はアルミニウムで作られています。PAMONOでの値段は、2,057ユーロ(2023年12月10日の為替レートで計算すると320,809円)でした。
60年代にクノート・へスターバーグは、これ以外にも複数のテーブルをロナルド・シュミット社のためにデザインしています。例えば以下の2つのコーヒー・テーブルをご覧ください。画像はDERIVEの商品ページから引用しました。
これもスペース・エイジ的ですね。ニコス・ゾグラフォスのバウハウス的な機能主義的なシンプルなデザインのテーブルも美しいですが、自宅に置くということを前提で好みのものを選ぶという場合、私はこの種のデザインの方にどうしても惹かれてしまいます。さらに以下のコーヒー・テーブルはいかがでしょうか? 画像は1stDIBSの商品ページから引用しました。
上の2つのコーヒー・テーブルを見て、「クノート・へスターバーグという人のデザインはすごく好み!」と思った方がいたとしたら、私と趣味がぴったりです。そんな方は「これだったら高額を払っても買いたい!」なんていう気になりませんか? とは言っても、私なんかは価格を見てひるんでしまいます。
ちなみに、最初の方のコーヒー・テーブルのDERIVEでの価格は2,900ドル、2つ目のコーヒー・テーブルは6,153ドル、つまり2023年12月10日の為替レートで計算すると、それぞれ420,297円、891,754円でした。大型のダイニング・テーブルではなくて、小型のコーヒー・テーブルですよ。インテリアへの強い愛があって、お金のゆとりがある方でなければ、ちょっと手を出しずらい価格ですよね。
クノート・へスターバーグがロナルド・シュミット社のためにデザインした60年代のコーヒー・テーブルは他にもいろいろあります。ですが、全て列挙するときりがないので、最後に私自身が最も好きなへスターバーグのコーヒー・テーブルを2つ紹介しておきます。
まずは一つ目。以下の画像は1st Dibisの商品ページから引用しました。
このプロペラ形の鋭利な脚部のデザインは一度観たら忘れられません。1st Dibisでの価格は1,286ドル(2023年12月10日の為替レートで計算すると186,379円)でした。
もう一つご覧ください。画像はGALERI LIBELLEの商品ページから引用しました。
この無限大の記号を思わせるかのような脚部の形は、まるで現代アートの作品を見ているかのようです。価格は2,200ユーロ(2023年12月10日の為替レートで計算すると334,123円)でした。
私自身は自宅に置くなら、やはりクノート・へスターバーグの最後のコーヒー・テーブルで決まりかなと思っています(今のところ買う予定はありませんので妄想しかできませんが)。
今回は、『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』の70年代を再現した部屋に置かれているヴィンテージのコーヒー・テーブルの話から発展し、私自身が大好きなクノート・へスターバーグの作品の一部を列挙しました。次回も引き続き『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』の中の部屋のインテリア・デザインの別の箇所に目を向けてみます。
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