ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


※ご質問は伊泉龍一 公式サイトよりお願いします。伊泉龍一公式サイトはこちら

執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

デヴィッド・ボウイの最高のグラム・ロック・バラード「ライフ・オン・マーズ?」とともに1973年へタイム・トラベル:テレビ・シリーズ『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』

音楽  ミュージック・ビデオ  テレビ・シリーズ   / 2023.12.06

 

テレビ・シリーズ『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』

 

 前回からイギリスのテレビ・シリーズ『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』について書いています。前々回の最後に予告したように、このドラマの中の70年代のインテリア・デザインを再現した部屋を見ていきたと思います。

 その前に、主役のサム・タイラーが車にはねられて気を失い、気が付くと2006年から1973年にタイム・トラベルしていたという1話目の場面の動画を改めて掲載しておきます。ご覧になっていない方はどうぞ。

『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』のタイム・トラベルのシーン

 ところで、このタイム・トラベルのシーン自体、いろいろと見どころがあると思いませんか?

 まず面白いのは、事故の後にサム・タイラーの服装が完全に70年代になっていましたね。2006年のときは、きちんとしたスーツを着ていましたが、1973年に目覚めると、シャツの大きな襟を茶色のレザーのジャケットからはみ出させていました。

 それから乗っていた車も、昔の古い車に変わっていました。改めて以下で、1973年の舞台に登場した車をご覧ください。

『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』で使用されたローバーのP6

 車だけなく、同じ場所なのに背景も完全に変わってしまいます。2006年にはハイウェイが走っていたのに対して、1973年には工場とその排煙と廃棄物で荒れた景色が広がっています。この後の場面では、これからハイウェイを建設する予定であることを示す看板が出てきます。それにしても、この場面、ポスターにして壁に飾りたくなるほどいいショットだと思うのは私だけでしょうか?

 で、この車が何かわかりますか? もちろん、英国車マニアの方なら一目でお分かりなのでしょう。IMCDBで調べてみたところ、1966年製のローバー(Rover)のP6シリーズの2000でした。 P6シリーズは1963年に生産が開始され、その後、1967 年にローバーがレイランド・モーターズ(Leyland Motors)に売却された後も、後者によって1977年まで生産されていました。

 たいして車に詳しくない私があれこれここで書くのも何なので、この車の詳細が気になる方は、朝日新聞DIGITALの中のモータージャーナリストの小川フミオ氏の非常に的確な解説「小川フミオのモーターカー」を、ぜひともお読みください。

 さて、もうひとつ目線を引っ張られたのは、2006年の車の中で音楽を再生していたホワイトのipod(アイポッド)です。実際の場面から切り取った以下の画像をご覧ください。

『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』の中の2006年の場面で使用されたiPod

 一定の年齢の世代の音楽好きの方だったら、かつてはこうやって車の中でお気に入りの音楽を聴いていましたよね。2001年からAppleから発売されていたiPodですが、ついに2022年には販売終了になったようです。『時空刑事1973』の2006年の場面に登場する当時最先端だったiPodも今となっては昔懐かしいオーディオ機器になってしまったわけです。

 一方、1973年の場面に登場するローバーのP6の中で音楽を再生していたのは、以下のように8トラック(8-track)のテープでした。

『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』の中の1973年の場面で使用された8トラック

 車の中で、こうした8トラックのカートリッジが使われていたのは、CD(1982年に発売開始)よりも先であることは言うまでもありません。この1973年の数年後には、車用としての8トラックは衰退し、しばらくの間はカセット・テープが主流となっていきました。

 ところで、先ほどのiPodのモニター部には、再生されていた曲名が表示されています。それを見ると、デヴィッド・ボウイのコンピレーション・アルバム、Best of Bowie(UK)の中から「ライフ・オン・マーズ?(Life on Mars?)」という曲をかけていたことが示されています。

 そう、今さら言われなくても分かっていると言われそうですが、このテレビ・シリーズの題名は、デヴィッド・ボウイの「ライフ・オン・マーズ?」に由来しているのです。日本語の題名は『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ』と少々長めですが、英語の原題はシンプルにLife on Marsのみです。

 「ライフ・オン・マーズ?」は題名にまで使われているほど重要な曲なので、その基本的な情報について、ごく簡単に書いておきます。

 「ライフ・オン・マーズ?」は1971年のデヴィッド・ボウイのアルバム『ハンキー・ドリー(Hunky Dory)』の中の曲として最初はリリースされました。その後、イギリスでは1973年(『時空警察1973』のちょうど舞台となる年)の6月22日にRCAレコーズからシングルとして発売され、UKシングル・チャートで最高3位を記録しています。

 また、 このシングルに合わせてプロモーションのためにミュージック・ビデオも製作されました。この当時の若きデヴィッド・ボウイの奇抜な姿を、どうぞ以下でご覧ください。

デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「ライフ・オン・マーズ?(Life On Mars?)」のミュージック・ビデオ

 まさにグラマラスな濃厚なメイクをしたデヴィッド・ボウイが映っていましたね。このポップ・アートを動画にしたような鮮烈な色使いのミュージック・ビデオは、写真家のミック・ロック(Mick Rock)によって監督・撮影されました。

 ちなみにですが、ミック・ロックは前年の1972年には、以下のルー・リード(Lou Reed)のアルバム『トランスフォーマー(Transformer)』の非常に印象に残るカヴァーの写真も撮影しています。

ルー・リード(Lou Reed)の『トランスフォーマー(Transformer)』

 それはそうと、先ほどのミュージック・ビデオの映像を見ながら改めて「ライフ・オン・マーズ?」に耳を傾けてみると、この曲こそが、グラム・ロック・バラードの最高傑作ではないかと言いたくなります。何度聴いてもそのたびに、その壮大でドラマティックな歌のメロディーに心が揺さぶられてしまうのです。デヴィッド・ボウイの生涯に残した曲の中でも、「ライフ・オン・マーズ」は紛れもなくベスト5に入る傑作ではないでしょうか?

 もちろん、これは私個人だけの意見ではなく、批評家やミュージシャンたちの中にも同曲を非常に高く評価している人は大勢います。

 例えば、The Gurdianの中の記事‘David Bowie’s 50 greatest songs – ranked!’では、「ライフ・オン・マーズ?」をボウイの最も偉大な50曲のリストの中の4位に位置付けた批評家のAlexis Petridisが次のように述べています。

 「ロンソンの素晴らしいストリングスのアレンジメントによって増強された、これ以上の疑問の余地のない傑作……これほど歌詞的に理解できない曲がこれほど広く愛されているのは、そのメロディーの純然たる力について多くのことを語っている」(*ロンソンはデヴィッド・ボウイのバンドのメンバーでギタリストのミック・ロンソン(Mick Ronson)のこと。また、確かに歌詞は不可解です)。

 ちなみに、同記事の中で1位に選ばれているのは1977年の「サウンド・アンド・ヴィジョン(Sound and Vision)」 でした。また、2位は1980年の「アッシュズ・トゥ・アッシュズ(Ashes to Ashes)」 、3位は1976年の「スティション・トゥ・スティション(Station to Station)」、5位は1977年の「ヒーローズ(Heroes)」となっています。

 デヴィッド・ボウイの長い音楽活動歴の中でも、1970年代後半の曲の多くが上位に位置しています。確かに、その頃のボウイの活動を振り返ると、創造性が爆発していると言った印象を受けます。ただ、私個人としては1970年代前半の曲の方が好みです。おそらくボウイのアルバムの中で最も繰り返し聴いたアルバムと言えば、「ライフ・オン・マーズ?」が入っている『ハンキー・ドリー』なのではないかと思います。

 ここで自分の翻訳した本を宣伝するようで何ですが、ジェイソン・ヘラー著『ストレンジ・スターズーーデヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』という本では、まさに「70年代」の10年間に焦点を当てたデヴィッド・ボウイの活動の足跡を辿れます。しかも、ボウイだけでなく70年代のロック、プログレ、ファンク、ディスコ、ポスト・パンク、ニュー・ウェイブ、エレクトリック・ポップといったさまざまなジャンルのミュージシャンたちが、いかに同時代のSF映画やSF小説から影響を受けて創作活動をしていたかが詳細に書かれています。70年代の音楽シーンを振り返りたい方、特に音楽だけでなく70年代のSFも好きだった方にはお勧めです。

 ところで、先ほどの2位に選ばれていた曲「アッシュズ・トゥ・アッシュズ(Ashes to Ashes)」は、『時空警察1973』の続編となったテレビ・シリーズの題名になっています(日本語の題名は『キケンな女刑事 バック・トゥ・80s』)。こちらでは、主役の女性が2008年から1981年にタイム・トラベルしますので、80年代初頭のインテリアやファッションの再現が見られます。こちらのテレビ・シリーズについても、機会を改めていろいろと書いてみたいと思っています。

 さて、そろそろ『時空刑事1973』の中の70年代のインテリアを再現した部屋の話に入りましょう。以下をご覧ください。 

『時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ(Life on Mars)』の70年代のインテリアを再現した部屋のセット

 上記の写真は、『時空刑事1973』のシーズン2の4話の撮影に使われた部屋のセットです。プロダクション・デザインを務めたマット・ガント(Matt Gant)が自身のウェブ・サイトに掲載してくださっている画像を引用しました。

 では、さっそく一つ一つチェックしていきしょう、と言いたいところですが、長くなること間違いなしなので、続きは次回ということで。

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