ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

ネオ・ノワールなスーパーヒーロー映画『ウォッチメン』――ジミ・ヘンドリックスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が映画の中で使われている過去最高の場面はこれだ

映画  音楽  テレビ・シリーズ   / 2023.11.28

 

 前回の記事の終わりで、次回は映画『ウォッチメン(Watchmen)』について書くと言いましたので、そのつもりですが、その前にひとこと。もしかすると、「『ウォッチメン』て、アメリカのスーパーヒーロー映画でしょ? まったく興味ないよ」と思っている人はいませんか? まあ、でもそうだとしたら、そもそもこの記事を1文字たりとも読まない可能性は高いですが。

 こんなことをあえて書いているのも、アメリカのスーパーヒーロー映画が嫌いな人の気持ちも分からないでもないからです。実際に自分の友人にも、スーパーヒーローが出てくるアメリカ映画はまったく見る気がしないと言われたことがあります。「スーパーヒーローものとか、ごく普通の若者が特殊能力に目覚めて活躍する的な話とかには心底うんざり」なのだそうです(冒頭に掲載したスーパーヒーローたちの姿を一目見ただけで映画を観る気がしなかったそうです)。

 ですが、そんな友人に「だまされたと思ってテレビ・シリーズの『ザ・ボーイズ(The Boys)』をアマゾン・プライムで観てよ」と勧めたら、シーズン1の1話目からはまってしまったそうです。その後、「ちょっと昔の映画だけど、ザック・スナイダー監督の『ウォッチメン』も観てみたら」と勧めたら、こちらもかなり気に入ってくれました。結果、友人はこう言ってくれました。「アメリカのスーパーヒーロー映画が嫌いな人こそ、『ザ・ボーイズ』と『ウォッチメン』は見るべきだ」。

 DCコミックスがお好きな方ならご存じの通り、アマゾンとソニー・ピクチャーズ・テレビジョンによって製作されたテレビ・シリーズの『ザ・ボーイズ』は、アメリカのコミックス・ライターのガース・エニス(Garth Ennis)が原案を執筆し、アメリカの画家ダリック・ロバートソン(Darick Robertson)がデザインとイラストを担当し、DCコミックス傘下のワイルドストーム(Wildstorm)から出版されたコミック・ブックのシリーズが基になっています。

 ひとまず、ご覧になっていない方にも、いかに『ザ・ボーイズ』が型破りなスーパーヒーローのドラマなのかをわずかでも感じていただきたいので、トレイラーを掲載しておきます。

テレビ・シリーズ『ザ・ボーイズ(The Boys)』のトレイラー

 トレイラーの10数秒過ぎたあたりのところで、異様な高速で移動するスーパーヒーローが大変なことをしでかしましたね。で、スーパーヒーローは動揺しながら、一般人に向かって「止まれなかったんだよ。止まれなかったんだよ」と弁解しています。もうこの時点で、いかに普通のスーパーヒーローの話とは違うかが分かるはずです。

 アメリカでのレヴューを見ていると、しばしば『ザ・ボーイズ』と『ウォッチメン』を比較して論じている記事が目につきます。その理由として挙げられているのが、従来のスーパーヒーローの多くの(全てではないにしても)物語に通底している、どうしようもなくアメリカ的な正義感や価値観に対して、どちらの話も痛烈な批判を浴びせているからです。

 ここで思い出しましたが、あのバラク・オバマ元大統領も『ザ・ボーイズ』と『ウォッチメン』(オバマが実際の言及していたのは映画『ウォッチメン』の続編となるテレビ・シリーズの方ですが)のどちらも気に入ったそうですよ。Entertainmentの2020年12月15日のインタヴュー記事‘Barack Obama on the pop culture (and more) that inspired A Promised’で、休憩が必要な時に見るテレビ番組は何かと尋ねられ、「人種、資本主義、企業権力とマスメディアの歪んだ影響に関する問題を露わにするためスーパーヒーローの因習を覆した」『ウォッチメン』と『ザ・ボーイズ』だと答えてます。

 ついでに言うと、同インタヴューで、このふたつ以外にも『ベター・コール・ソウル(Better Call Soul)』と『グッド・プレイス(The Good Place)』を観ていたとオバマは述べています。前者を「素晴らしい登場人物たちとアメリカン・ドリームの暗い側面の考察」、後者を「愚かなコメディと大きな哲学的な問いの思慮深くも愉快で魅力的な組み合わせ」だと評していますが、個人的にまったく同感です。

 『ベター・コール・ソウル』と『グッド・プレイス』どちらもストーリーが単に面白いというだけでなく、それを通して何が善で何が悪かという道徳的・倫理的な問題をつきつけてきます。その点では、『ウォッチメン』や『ザ・ボーイズ』とも共通するところがあります。テレビ・シリーズの『ウォッチメン』と『ザ・ボーイズ』と『ベター・コール・ソウル』と『グッド・プレイス』については、また別の機会に書きます。

 では本題の映画『ウォッチメン』についての話に移ります。『ウォッチメン』は、1980 年代に書かれた DC コミックを基にザック・スナイダー監督によって撮影され、2009年に公開されたスーパーヒーロー映画です。ご覧になっていない方は、ひとまずトレイラーをどうぞ。

映画『ウオッチメン(Watchmen)』のトレイラー

 このトレイラーでは、1分14秒のあたりから、イギリスのロック・バンドのミューズ(Muse)の2006年のアルバム『ブラック・ホールズ・アンド・レヴェレイションズ(Black Holes and Revelations)』のオープニング曲「テイク・ア・バウ(Take A Bow)」のミニマルに反復するイントロが流れてきます。そして、やがてその情感を高ぶらせていく歌が、エンディングへと向かう興奮を盛り上げてくれますね。しかも、「堕落/お前は堕落させる/触れるものすべてを堕落させる(Corrupt/You corrupt/Bring corruption to all that you touch)」と始まる歌詞が、この映画の勧善懲悪を無化していく物語を暗示しているかのようです。


 ところで、実際に映画『ウォッチメン』を観た方の中に、こう感じた人はいませんか? これは確かにスーパーヒーロー映画ではあるけれども、いわゆる「ネオ・ノワール」的な作品じゃないかと。

 というのも、私自身は映画『ウォッチメン』を最初に観たとき、冒頭の数分ですぐに「これはスーパーヒーロー版のネオ・ノワール」だと感じました。そこで映画『ウォッチメン』をネオ・ノワール映画と評している見解がないかと探したら、やはり見つかりました。

 例えば、Noir, The Blogの中の2017年12月15日の記事‘The Watchmen as a Neo-Noir‘と題した記事の中で、Shannon Swingley氏は「この物語は多くの理由からネオ・ノワールの素晴らしい一例だと思う」と述べています。その理由として、「日誌による出来事の説明」、「ナレーションに依存するストーリーテリング」、「カメラのトリック」、「衣装デザイン」、「白黒」(ロールシャッハが登場する多くのシーンがほとんどセピア色か、または非常に暗いため、まるで黒か白であるかのように見える)、「全体的な 40 年代の美学」といった点などが挙げられています。

 先ほどのトレイラーでも、ハットを被ってコートを着た姿、つまり昔の探偵を思わせるかのような姿のスーパーヒーロー、ロールシャッハの語りが何度も効果的に使われていました(以下のロールシャッハの後ろ姿のシルエットをご覧ください)。

映画『ウオッチメン(Watchmen)』の登場人物ロールシャッハの後ろ姿

 本編では、このロールシャッハのナレーションが複雑な状況や出来事の説明を補うために全編に渡って使われています。映画の冒頭で起こった殺害事件について語るロールシャッハの暗くシニカルな口調だけでも、十分にネオ・ノワール的な雰囲気が感じられるように思えます。

 また、BACKSTAGEの中のSUZY WOLTMANN氏の‘Neo-Noir: A Full Guide to the Genre’(ネオ・ノワールーーそのジャンルへの完全ガイド)という記事の中では、『ウォッチメン』とテレビ・シリーズの『ジェシカ・ジョーンズ(Jessica Jones)』を「スーパーヒーロー・ノワール(superhero-noir)」の作品の例として挙げていました。ついでに言うと、同記事ではノワールとSFの要素を組み合わせたジャンルをテク・ノワール(tech-noir)と呼んで、その作品の例として映画『ブレード・ランナー(Blade Runner)』と映画『ターミネータ(The Terminator)』を挙げていました。

 ちなみにですが、ネオ・ノワール(neo-noir)と言う言葉は、1940 年代から1950年代頃の「フィルム・ノワール(film noir)」と呼ばれる一連の映画の雰囲気や表現方法を彷彿させるような、あるいは現代にアップデイトしたような映画について言及する際、よく使われています。

 ついでに言うと、そもそもフィルム・ノワールは、映像的な面で言えば、照明が控えめで薄暗く、影が強調され、さらにストーリー的にも音響的にも、その語の通り「暗い映画」です。また、その脚本としてはハードボイルドの犯罪小説を翻案したものや心理スリラー的なものが多かったりします。大雑把な説明ですが、こうしたフィルム・ノワールの現代版がネオ・ノワールだということになるわけです。

 と、ネオ・ノワール云々について書いていて気づきましたが、「じゃあ、ネオ・ノワールと呼ばれる映画には具体的にどんなものがあるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。ひとまず、ここではRanker VOTE ON EVERYTHINGの中の‘The 60+ Best Neo-Noirs’に掲載されている一般人からの投票によって作られた2023年10月25日時点でのネオ・ノワール映画のベスト10を以下に紹介しておきます。

1位 『チャイナタウン(Chinatown)』、ロマン・ポランスキー監督、1974年

2位 『ブレード・ランナー(Blade Runner)』、リドリー・スコット監督、1982年

3位 『ファーゴ(Fargo)』、ジョエル・コーエン監督、1996年

4位 『メメント(Memento)』、クリストファー・ノーラン監督、2000年

5位 『ブラッド・シンプル(Blood Simple)』、ジョエル・コーエン、1984年

6位 『ユージュアル・サスペクツ(The Usual Suspects)』、ブライアン・シンガー監督、1995年

7位 『マルホランド・ドライブ(Mulholland Drive)』、デヴィッド・リンチ監督、2001年

8位 『ドライヴ(Drive)』、ニコラス・ウィンディング・レフン監督、2011年

9位 『ダーク・シティ(Dark City)』、アレックス・プロヤス監督、1998年

10位 『シン・シティ(Sin City)』、ロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー監督、2005年

 ここではネオノワール映画のランキングに、ジョエル・コーエン監督の作品が二つ(『ファーゴ』と『ブラッド・シンプル』)が入っていますね。

 別のサイトstudiobinderの中の2019年11月18日のDAVID OLSSON氏の記事‘Top 30 Best Neo-Noir Films, Ranked for Filmmakers’の方でもベスト・ネオノワール映画を確認すると、トップ10位は以下の通りでした。

1位 『チャイナタウン(Chinatown)』、ロマン・ポランスキー監督、1974年

2位 『パルプ・フィクション(Pulp Fiction)』、クエンティン・タランティーノ監督、1994年

3位 『ブルー・ベルベット(Blue Velvet)』、デヴィッド・リンチ監督、1986年

4位 『タクシー・ドライバー』、マーティン・スコセッシ監督、1976年

5位 『殺しの分け前/ポイント・ブランク(Point Blank)』、ジョン・ブアマン監督、1967年

6位 『ダーク・ナイト(Dark Night)』、クリストファー・ノーラン監督、2008年

7位 『ロジャー・ラビット(Who Framed Roger Rabbit )』、ロバート・ゼメキス監督、1988年

8位 『マルホランド・ドライブ(Mulholland Drive)』、デヴィッド・リンチ監督、2001年

9位 『ドライヴ(Drive)』、ニコラス・ウィンディング・レフン監督、2011年

10位 『ロング・グッドバイ(The Long Goodbye)』、ロバート・アルトマン監督、1973年

 1位が『チャイナ・タウン』という点は先ほどと一緒ですね。また、どちらにも『マルホランド・ドライブ』と『ドライヴ』がトップ・テン内に入っています。クリストファー・ノーラン監督の作品が先ほどの方では『メメント』が、こちらでは『ダーク・ナイト』が入っています。デヴィッド・リンチ監督の作品は『マルホランド・ドライブ』だけでなく、こちらでは『ブルー・ベルベット』も入っています。

 それにしても、こうしてネオ・ノワールとして列挙された、あまりにも多様な作品の数々を見てみると、そもそもネオ・ノワールというジャンル分けが果たして有効なのかという疑問も出てこないでもありません……。

 それはそうとして、ここでスーパーヒーロー映画は興味がないという理由で、映画『ウォッチメン』を見逃していた方に向けて言います(とはいえ、そんな方は、そもそもここまで読んでくださってくれている見込みは少なそうですが)。

 もし、上記にあるネオ・ノワール映画をいくつか観て、その雰囲気に酔いしれたことがあるという人であれば、映画『ウォッチメン』を試しに観てみる価値はあると思いますよ。

 さらに個人的な見解を付け加えれば、上記のネオ・ノワールのいくつかの作品以上に、ある意味、映画『ウォッチメン』の方が昔のフィルム・ノワール本来の雰囲気を濃厚に感じられるのではないかと思います。

 さて、ここでやっとのこと前回の記事で予告した話に移りたいと思います。

 このブログの前々回の記事では、1994年のアメリカ映画『フォレスト・ガンプ/一期一会(Forest Gamp)』の中で、あの偉大なギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの1968年のシングル曲「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー(All Along the Watch Tower)」が流れてくる場面を観ました。また、このブログのその前の記事では、映画『ヴェガス・バケーション』で同曲が使われている場面を観ました。『ヴェガス・バケーション』のその場面では、完全に笑いを誘う曲になってしまいました。

 ですが、今回の映画『ウォッチメン』で「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」が流れるシーンは笑いの要素とは無縁です。むしろ、映画のクライマックスへと向かって緊張が高まっていく重要な段階で、その場面の意味を象徴するのにふさしい見事な形で使われています。

映画『ウオッチメン(Watchmen)』の中でジミ・ヘンドリックスの「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー(All Along the Watchtower)」が使われている場面

 これはオジマンディアスことエイドリアン・ヴェイトの南極にある研究施設へ向かって、ロールシャッハとナイトオウルことダニエル・ドライバーグがオウルシップ(Owlship)に乗って向かい、そして途中、冷気によってエンジンが凍り、雪の中に不時着するまでのシーンです。

 最後の方(2分11秒あたりから)の場面に映し出されるように、地球上で起こっている無数の出来事を常に監視しているオジマンディアスが隠れ家としている、いわば「見張りの塔」に向かおうとしているシーンなわけですから、まさしく「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」はぴったりなわけです。

 しかも、この曲の終わりの部分の歌詞はこうなっています。「二人の騎手が近づいてきた/風がうなり声を上げ始めた(Two riders were approaching/The wind began to howl)」。そして、ロールシャッハとナイトオウルが「見張りの塔」に歩いて向かっていく姿が、オジマンディアスが見ているモニターに映し出される場面で、その歌詞が聴こえてきます。その瞬間、この歌詞があたかも次の展開を暗示しているかのようにも思えて、観ている方の期待をよりいっそう高めてくれるわけです。もしかすると、これこそが「オール・アロング・ザ・タワー」が映画の中で使われている過去最高の場面なのではないでしょうか?

 ところで、先ほどの映画『ウォッチメン』のトレイラーに話は戻ってしまいますが、その最初の方で、男(スーパーヒーローの一人、エドワード・ブレイク ことコメディアン)が窓をぶち破って建物から放り出されるという激しい暴力シーンが映っていましたね。実は、映画を観ていたとき、その殺害の場面の舞台となった部屋のインテリアがなかなか魅力的だったため、ついついそちらに目がいってしまいました。

 ということで、次回は映画『ウオッチメン』のコメディアンの部屋のインテリアに注目してみたいと思います。

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