ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


※ご質問は伊泉龍一 公式サイトよりお願いします。伊泉龍一公式サイトはこちら

執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。

『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』

ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

映画『トロン』(1982)製作前のスティーヴン・リズバーガー監督のアニメーション映像と映画『ファンタスティック・アニメーション・フェステエィバル』――ピンク・フロイドの曲「ワン・オブ・ズィーズ・デイズ」のアニメーション映像。

映画  音楽  アニメーション   / 2023.01.14

 4回に渡って、2010年のジョセフ・コジンスキー(Joseph Kosinski)監督の映画『トロン:レガシー(Tron: Legacy)』について書いてきましたが、今回は、前回に少しだけ言及した、その原点である1982年の映画『トロン』の方に焦点を当ててみたいと思います。

 とはいえ、その当時の映像製作を巡る状況などは、前回述べたように、すでに大口孝之氏の記事「『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (前編)」及び「『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (後編)」での丁寧な解説がありますので、そちらをお読みいただければと思います。

 では、何について書こうと思っているのかというと、映画『トロン』よりも前に、監督のスティーヴン・リズバーガー(Steven Lisberger)が製作した70年代のアニメーション映像についてです。

 自分でこう言うのも何ですが、これって明らかに読んでくださる人が少なそうなニッチな話題だと思います。ですが、そもそもこのブログを始めようと思ったのは、自分が気になったことを調べた後の備忘録としてというのが第一の目的なので、別に多くの人に読まれなくてもいいんです。

 とは言ったものの、自分が面白いと思ったのを人に伝えて共有したいという気持ちもあります。ですので、今回の主題にあまり興味が沸かないという方でも、ひとまず以下の動画を、ちらっとでもご覧になってくださると嬉しいです。

スティーヴン・リズバーガーとエリック・ラッドによって製作されたアニメーション映画『コズミック・カートゥーン』

 この『コズミック・カートゥーン』と題されたアニメーションは、スティーヴン・リズバーガーが、まだタフツ大学に在学中だった頃に設立したリズバーガー・スタジオで、エリック・ラッド(Eric Ladd)とともに1973年に製作した短編映画です。

 このストーリーが特にあるわけではない不可解な作品は、おそらくアート志向を持って作られたとは思われますが、正直なところ、どう評していいのか分かりません。まあ一つ言えるのは、とにかく催眠性の強い音と映像だということです。

 何と言っても、当時のプログ・ロックとも通底するような異次元へと誘うシンセサイザーのサウンド。そして、それを背景として、ただひたすらとりとめもなく展開していく60年代末風のサイケデリックな光景。さらに6分を過ぎたあたりから海の上を裸体で軽やかに踊る女性から始まり、そこから次第に70年代のニューエイジのスピリチュアルな世界観を表現しているかのような宇宙的映像へと向かい終わりを迎えます。

 このスティーヴン・リズバーガーの『コズミック・カートゥーン』は、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)が同年から開催するようになった、大学や専門学校の映画製作者を対象としたコンテスト、「スチューデント・アカデミー・アワーズ(The Student Academy Awards)」のアニメーション部門にノミネートされました。

 さらに、1977年に劇場公開されたアンソロジー映画『ファンタスティック・アニメーション・フェスティヴァル(Fantastic Animation Festival)』の中にも含められることにもなりました。

 ところで、この『ファンタスティック・アニメーション・フェスティヴァル』ですが、実際に今改めて観て見ると、いくつかの点で、なかなか興味深いアンソロジーだと言えます。もちろん、先ほどの『コズミック・カートゥーン』もそうですが、今日の感性に合致するような洗練された完成度の高いアニメーションを期待するならば、正直なところ、厳しい評価とならざるをえないでしょう。ですが、商業主義から離れたところで、アニメーションの可能性を模索しながら、製作者各自が自身の感性をためらうことなく自由に表現している作品であるからこそ、生まれてくる面白さがあるのです。

 ブログPopCultの中でRudy Panucci氏は、記事‘Sunday Evening Video: The Fantastic Animation Festival’の中で、『ファンタスティック・アニメーション・フェスティヴァル』のことを次のように評しています。

 「『ファンタスティック・アニメーション・フェスティバル』」は、ほとんどの人がアニメーションをひどい出来で、安っぽい見た目で、使い捨ての子供向けの娯楽と思っていた時代に、アートの形態としてのアニメーションの真の可能性を示した並外れたサイケデリックなイメジャリーのごた混ぜだった」

 確かに『ファンタスティック・アニメーション・フェスティバル』に含まれている諸作品には、その時代独特の雰囲気と同時に、今観ても、あるいは今観るからこそなのか、各々に固有の強い独創性を感じられます。また、アニメーション技術に拙さが感じられたとしても、そのことを上回る、作り手側のエナジーも十分に伝わってきます。 

 こう書いていているうちに、『ファンタスティック・アニメーション・フェスティバル』の中の他の作品も紹介したくなってしまいましたので、その中からいくつかを以下で見ていきたいと思います。

 とはいえ、いざどれを選ぶかとなると悩むところです。どの作品も各々個性が際立っていて、なかなか甲乙つけがたいのです。

 ひとまず、ここはインパクト勝負ということで、1969年にマーヴ・ニューランド(Marv Newland)によって製作された『バンビ・ミーツ・ゴジラ(Bambi Meets Godzilla)』を紹介しておくとしましょう。一分半ほどのごく短い作品なので、よろしかったらどうぞご覧ください。

マーヴ・ニューランド製作の『バンビ・ミーツ・ゴジラ』

 「一体なんなの、これ」としかいいようがない無慈悲な終わり方の作品でしたね。

 最初は、スイスの伝統的な民謡「ラン・デ・ヴァッシュ(Ranz des Vaches)」のメロディーが流れる中、鼻をぴくぴくさせている可愛らしいバンビが草原に立っているという、のどかな雰囲気でした。ですが、始まって57秒のあたりで、あまりにも突然の衝撃がやってきます。そして終わりには、「我々は東京都に感謝の意を表する。この映画のためにゴジラを調達する協力をしてくれた」という意味不明のクレジットが現れます。

 そこにどういう意味が込められているのかはさておき、この作品の映像には、アニメーションならではの一つの可能性を感じられるように思います。何を言いたいかというと、当たり前の話ではありますが、バンビがゴジラに踏みつぶされるの見ていられるのは、アニメーションであるがゆえだということです。そもそも 実写の場合だと、さすがに笑えないどころか、見るに耐えない映像になってしまいますよね?

 この『バンビ・ミーツ・ゴジラ』に関しては、UMA(未確認生物)研究家で怪獣マニアの天野ミチヒロ氏が、『BOOK STAND』の連載記事「第22回 『バンビ、ゴジラに会う』」で面白く紹介してくださっていますので、どうぞこちらもお読みください。

 『バンビ・ミーツ・ゴジラ』とはまったく趣向の違う『ファンタスティック・アニメーション・フェスティバル』の中の別の作品も紹介しておきます。

 これは70年代初頭のフォーク・ミュージックが好きな方のために、選びました。イギリスのシンガー・ソングライターのキャット・スティーブンス(Cat Stevens)(現在はユスフ・イスラム(Yusuf Islam)の名前で活動中)の1971年に大ヒットしたアルバム『ティーザー・アンド・ザ・ファイアキャット(Teaser and the Firecat)』からのシングル「ムーンシャドウ(Moonshadow)」を基にした短編アニメーションです。

キャット・スティーヴンスの曲「ムーンシャドウ」を使ったアニメーション

 ほのぼのとした映像なので、この作品だったら、お子様にも安心して見せられますね。

 冒頭の静止画は、アルバム『ティーザー・アンド・ザ・ファイアキャット』のジャケットが使われています。物語は、月が空から落ちてきた音で、少年ティーザーと彼のペットのファイアキャットのその静止画が動き出すところから始まります。中盤で月が浮かび上がると同時に「ムーンシャドウ」のアコースティック・ギターのイントロが流れ始めます。そして、キャット・スティーヴンスの優しい歌声と甘いメロディーをバックに、月の上に乗ったティーザーとファイアキャットが各地を飛び回る摩訶不思議な旅へと向かいます。そして最後は、月が再び天へと戻り、めでたしめでたしで終わります。

 このアニメーションを監督したのは、チャールズ・ジェンキンス(Charles Jenkins)という人で、これより前に、ビートルズの音楽を使った1968年のアニメーション映画『イエロー・サブマリン(The Beatles: Yellow Submarine)』でヴィジュアル・エフェクツを担当しています。また、独特の声でナレーションを行っているのは、アイルランドのコメディアンのスパイク・ミリガン(Spike Milligan)です。

 それにしても、最後の最後での終わり方どう思いました? クロージングのクレジットが流れて終了と思った瞬間、物語の最初の場面と同様、月が落ちてきます。それによって、始まりに戻ることが暗示されてるようにも思えます。そこにある種の不気味さを感じてしまったのは私だけでしょうか? だって、考えても見てください。再び始まりに戻り、そして同じことが繰り返された後、終わったと思ったら、また月が落ちてきて……。そう、まるで永遠にループし続けて抜け出せない夢のようで恐くないですか?

 もう一つ別の作品を紹介します。今度は、70年代のプログ・ロック好き方のために選びました。ピンク・フロイドの1971年のアルバム『メドル(Meddle)』(日本では『おせっかい』という邦題でも知られています)のオープニングの曲「ワン・オブ・ズィーズ・デイズ(One of These Days)」を使ったアニメーション作品です。

ピンク・フロイドの曲「ワン・オブ・ズィーズ・デイズ」を使ったイアン・イームズ監督のアニメーション作品『フレンチ・ウインドウズ』

 風の音が鳴っている中、初期のピンク・フロイドのサウンドではお馴染みの「ビンソン・エコレック(Binson Echorec)」(イタリアのビンソン(Binson)社のエコー・マシーン)を使用したベース・ギターのイントロが始まりました。そして、体内リズムを一瞬で同調させてしまうような、その3連符のエコー音がベースとなっているサウンドに乗って、幾何学的な形や物体が次から次へと現れ、その奇妙な空間の中で、人間たちがバレエのような踊りをひたすら続けていきましたね(途中でテナガザルたちも登場します)。

 この『フレンチ・ウィンドウズ』と名付けられた作品を製作したのは、とりわけ70年代のプログ・ロック・ファンの間では良く知られているであろうイアン・イームズ(Ian Eames)です。後にイームズは、ピンク・フロイドの最高傑作との評判も聞かれる1973年のアルバム『ザ・ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン(The Dark Side of the Moon)』の曲への実験的な映像作品を製作し、その名を一挙に知られるようになります。で、そこへ至る最初の一歩となったのが、実はこの『フレンチ・ウィンドウズ』なのです。

 IMDbの中のイアン・イームズのバイオグラフィーによると、イアン・イームズは、1967年にブリストルのウエスト・オブ・イングランド・カレッジ・オブ・アートに通うになった18歳の頃、当時のLSDカルチャーに触れることになり、ジミ・ヘンドリックスやピンク・フロイドといったサイケデリックな音楽に影響を受けたそうです。

 また、イアン・イームズがピンク・フロイドの曲「ワン・オブ・ズィーズ・デイズ」を使った映像を実際に作ることを思い描くことになったのも、マリファナの煙が充満する部屋の中でピンク・プロイドが流れて来た、ある夜のパーティーでのことだったそうです。IMDbバイオグラフィーの中に、イームズの次のような発言が引用されています。

 「部屋の中は、そこにただ立っているだけで受動的にストーンさせられるほどマリファナの煙が充満していた。誰かがピンク・フロイドのアルバム『メドル』から「ワン・オブ・ズィーズ・デイズ」をかけると、その全体像が目の前に浮かんできた。私はストーリーボードを描くために、急いで家に帰ったんだ」。

 こうした本人の発言からも、この1972年に製作された「フレンチ・ウィンドウズ」が生まれてくる過程には、60年代後半のマリファナやLSDを中心としたサイケデリック・カルチャーからの強い影響があったことが分かりますね。

 と、ここまで書いてきて思いつきました。次回もスティーヴン・リズバーガーの『トロン』以前のアニメーションの話題を続けようと自分の中では思っていたのですが、急遽変更することにしました。次回は、ピンク・フロイドとのコラボレイションも含め、イアン・イームズの初期の映像作品について、もう少しだけ書いてみたいと思います。

 今回はこれにて終わりとしますが、最後に前述の4つの作品も含む『ファンタスティック・アニメーション・フェスティバル』のフル・ビデオを掲載しておきます。1時間48分と長いですが、アニメーション好きで、なおかつお時間のある方は、どうぞごゆっくりお楽しみください。

『ファンタスティック・アニメーション・フェスティバル』

 次回は、先ほども述べたように、イアン・イームズとピンク・フロイドの話を書きます。で、自分に言い聞かせるためにも書いておきますが、その後で、すぐにリズバーガーと『トロン』の話題へと戻ります。

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