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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
映画『トロン:レガシー』の「ライト・サイクル」――ダニエル・サイモンのロータスC-01。映画『トロン』のシド・ミードのライト・サイクル。
ここ3回は、映画『トロン:レガシー(Tron: Legacy)』の中のセイフハウス(Safehouse)のインテリアについて書いてきました。今回は、インテリアの話から離れて、同映画の中で最も印象的な場面を作り出している「ライト・サイクル(Light Cycle)」という乗り物のデザインへ目を向けて見ていきたいと思います。
まずは、下のバイクの画像をご覧ください。
バイクにさして関心がないという方も、思わず目を奪われてしまうほどの美しいデザインだと思いませんか? 内部の機構を完全密封するように形作られたカーボンファイバー製のボディが、思わず手を伸ばして、そのラインをなぞりたくなるような滑らかな形状を作り出しています。
WIREDの2014年2月28日のDAMON LAVRINC氏の記事‘The Ridiculous $137K Superbike That’s Too Gorgeous to Ride’では、「これまでに作られたバイクの中で最も美しい一台」とも評されています。
で、本題とのつながりを言うと、このバイクをデザインしたのが、映画『トロン:レガシー』でビークル・コンセプト・デザイナー(Vehicle Concept Designer)としてクレジットされているダニエル・サイモン(Danile Simon)なのです。
バイク・マニアの方ならご存じの方もいらっしゃるかと思われますが、この「C-01」という名の200馬力のスーパー・バイクは、イギリスの有名な自動車会社ロータス(Lotus)が、2014年に発表した初のバイクなのです。
ただし、設計・製造はロータスではなく、ドイツのモーター・スポーツ企業のコデワ(Kodewa)とホルツァー(Holzer)が担当し、そこにダニエル・サイモンがデザイナーとして加わる形となったわけです。
ちなみに、新車時の希望小売価格は137,000ドル。100台のみの製造です。さらにC-01について気になる方は、レスポンスの中の森脇稔氏の記事「英 ロータス、最初の二輪車 「C-01」 発表…200psのスーパーバイク」をご覧ください。
では、ここでダニエル・サイモンがデザインした映画『トロン:レガシー』の中の「ライト・サイクル」の方へと視点を移してみましょう。映画をご覧になっていないという方は、まずライトサイクルが実際に走っている以下の場面からご覧ください。
『トロン:レガシー』のストーリー自体を面白いと思うかどうかは意見が分かれるかもしれません。ですが、この光のラインを描いて疾走するライト・サイクルの映像に関して言えば、抗えない優美さがあることを誰も否定できないのではないでしょうか?
さらに言えば、クラッシュしたライト・サイクルがガラスのように砕け散っていく精緻な最後の瞬間、それを凝視しながら、えも言われぬカタルシスのようなものを感じてしまうのは、私だけでしょうか?
動画で見てしまうと、どうにもつい興奮してしまうので、落ち着いてじっくりと見るには静止画が必要です。ということで、以下をご覧ください。Interesting Engineeringの中のChristopher McFadden氏の記事‘You Can Now Ride Your Very Own ‘Tron’ Light Cycle’から引用しました。
先ほどの動画を観た後だと、静止画なのにもかかわらず、じっと見ているだけで、ライト・サイクルの疾走する音が聞こえてきそうです。
この滑らかな曲線で構成されたライト・サイクルのボディのラインを見ると、先ほどのロータスC-01をデザインしたダニエル・サイモンの美学のようなものと明らかに通じているのが感じられます。とはいえ、実はこのライト・サイクルのデザイン、ダニエル・サイモン自身がゼロから起草したものではありません。
そもそものことを言えば、『トロン:レガシー』自体が、1982年のスティーヴン・リズバーガー(Steven Lisberger)監督のアメリカ映画『トロン』の続編です。で、その『トロン』の方に登場するライト・サイクルが、先ほどのダニエル・サイモンによるライト・サイクルの原型なのです。
1982年の『トロン』をご覧になっていない方は、以下でオリジナルのライト・サイクルのバトル・シーンをご覧ください。
確かに、昔のビデオ・ゲームのような映像ではあります。ですが、それでいいんです。そもそも舞台の設定がコンピューターのサイバー・スペースの中なので。
しかも、大きなスクリーンで見るとさらに実感していただけると思いますが、このライト・サイクルの走りに合わせて展開されていく視野の巧みな移動によって、観ている側の身体がダイレクトに反応してしまうほどのスピード感も迫力も十分にあります。
それでも、現代の最新のCGIの映画に目が肥えた人から見ると、物足りないなとおっしゃられるかもしれません。だとしても、強調して言っておかなければならないのは、1982年の公開時の映画製作と関連するコンピューターやアニメーション技術の状況に目を向けると、この『トロン』の映像は、いろいろな点で驚くべきほど革新的かつ多大な苦労が多かったことが分かります。
この点に関しては、『読むと映画が観たくなる! CINEMORE』の中の記事「『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (前編)」及び「『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (後編)」で、大口孝之氏が、その当時の状況を、非常に詳細かつ明快に解説してくださっています(ちなみに、過去に私が読んだ(英語の記事も含めた)中で、この大口氏の解説が『トロン』の製作を巡る当時の状況を最も丁寧かつ分かりやすく書いてくださっていて、個人的にとても感動したので、ぜひ読んでいただきたい記事です)。
ここで、『トロン』の方のオリジナルのライト・サイクルの姿も静止画で確認しておきましょう。画像はTRON SECTORから引用しました。
動画から離れて、こうして改めて静止画を見てみると、のっぺりとしたカラリングのせいなのかもしれませんが、なんだかとても愛らしいデザインにも感じられます。
ですが、映画として実際に映像化される前のコンセプト・アートを見ると、ちょっと雰囲気が違って見えます。以下をご覧ください。
さて、この原画を描き、初代のライト・サイクルの基本となる形のデザインを定めたのは、数々の映画で比類のない未来のヴィジョンをコンセプト・アートに落とし込んできたデザイナー、シド・ミード(Syd Mead, 1933-2019)です。上の原画は、シド・ミードのオフィシャル・サイトのSYD Mead.comの中の‘Syd Mead TRON Light Cycle Design 01’から引用しました。
シド・ミードは本来インダストリアル・デザイナーですが、1979年の映画『スター・トレック(Star Trek: The Motion Picture)』を始めとして、2017年の『ブレード・ランナー 2049(Blade Runner 2049)』に至るまで、かかわった映画の世界観自体を決定づけるほどの印象的なコンセプト・アートを多数残してきました。
とりわけ、リドリー・スコット監督の1982年の映画『ブレード・ランナー』で、ミードが想像した近未来の折衷主義的な都市の風景は、今もなおSF映画のディストピアの一つの元型となっています。また、日本のアニメ・ファンの間でしたら、1995年『YAMATO2520』や1999年の『∀ガンダム』を通して、シド・ミードの作品を知り、好きになった方も少なくないと思います。
さて、先ほどの映画の中で映像化されたライト・サイクルですが、元のコンセプト・アートと見比べると明らかに、ミードのデザインを完全に実現したものではありません。というのも、当時のコンピューターの処理能力や技術面での制約上、やむなくミードの意図したデザインを簡略化せざるをえなかったのです。
例えば、元の原画では、運転者の姿を見ることができるオープン・コックピットのデザインでした。ですが、当時の技術では、ライダーの全身をレンダリングすることができなかったため、走行する際のライト・サイクルは、キャノピーを閉じたデザインに変更されることになりました。
とはいえ、ライト・サイクルの原型がシド・ミードのデザインに由来することに変わりはなく、『トロン:レガシー』では、ダニエル・サイモンが、その過去の遺産に手を加えて、前掲の新たなライト・サイクルを誕生させることになったわけです。
ただし、細かい話をすると、ダニエル・サイモンが『トロン:レガシー』の製作にかかわる前から、同映画のプロダクション・デザイナーのダレン・ギルフォードが、すでにシド・ミードのライト・サイクルへと敬意を払いながら2Dのコンセプト・ドローイングを始めていました。
FAST COMPANYの中のAustin Carr氏の記事‘How Tron: Legacy Light Cycle Designers Made the Sexiest, Coolest Vehicle Ever’でのダレン・ギルフォードのインタヴューを読むと、ギルフォード本人が60%くらい作り上げたライト・サイクルのデザインが、最終的にダニエル・サイモンへと委ねられることになったそうです。そして、その際にダレン・ギルフォードがダニエル・サイモン求めたのは、ライダーの姿が見えるけれども、バイクとライダーが一体化しているような両者の間の境界線を曖昧にしたデザインでした。
その結果、以下のようなダニエル・サイモンによる新型ライト・サイクルのコンセプト・アートが生まれることになりました。FAST COMPANYの中のAustin Carr氏の記事‘How Tron: Legacy Light Cycle Designers Made the Sexiest, Coolest Vehicle Ever’から引用しました。
今回のダニエル・サイモンのライト・サイクルのコンセプト・アートは、かつて実現されなかったシド・ミードが思い描いたオリジナルのライト・サイクルに沿って、ライダーの姿が見えるデザインになっています。そして、実際に『トロン:レガシー』では、先ほど見た映像や静止画で見たように、このコンセプト・アートに描かれているのとほぼ同様のオープン・コクピットのライト・サイクルが登場することになったわけです。
FROM SCRIPT TO DVD.COMのWilliam Kallay氏の記事‘Steven Lisberger and Joseph Kosinski: Interview’でのインタヴューの中で、『トロン:レガシー』の監督ジョセフ・コジンスキーは、『トロン』の監督スティーヴン・リズバーガーから、密閉型のライト・サイクルが本来の意図ではなく、当時の技術の制約でできなかったのだということを聞いたときのことを次のように語っています。
「その話を聞いたとき、私はこんな感じだった。「ああ、素晴らしいことじゃないか。ライダーが実際にバイクの一部となるオープン・ボディのライト・サイクルにするよう、これから取り組んでいくなんて」。……私たちは、それを完全に新しい世代のデザイナーのための種子にしたんだ」。
この監督ジョセフ・コジンスキーの発言からも明らかなように、『トロン:レガシー』のライト・サイクルは、かつて技術面で不可能だったシド・ミードのライト・サイクルのデザインを、ついに28年後に実現化したものだったわけです。
『トロン:レガシー』が、最初の『トロン』のライト・サイクルを継承している点は、これだけではありません。
ダニエル・サイモンは、『トロン』で映像化された密閉型の初代ライト・サイクルへも敬意を払い、そのデザインを新たな映画の解像度や他の乗り物とも馴染むようにアップデイトし、「ヴィンテージ・ライト・サイクル」と呼ばれる形で復活させました。
以下は、ダニエル・サイモンによるヴィンテージ・ライト・サイクルのコンセプト・アートです。FAST COMPANYの中のAustin Carr氏の記事‘How Tron: Legacy Light Cycle Designers Made the Sexiest, Coolest Vehicle Ever’から引用しました。
この刷新されたヴィンテージ・ライト・サイクルは、『トロン:レガシー』の本編にも現に登場します。
実は、前回見たジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges)演じるケヴィン・フリンのセイフハウスの中に、このヴィンテージ・ライト・サイクルが映っていました。画像は、filmaffinityの中の記事‘Sección visual de Tron: El legado’から引用しました。
画面の奥にはっきりと見えますね。ちなみに、このヴィンテージ・ライト・サイクルの映像はCGIによるもので、模型ではありません。
また、2012年5月18日から2013年1月28日にアメリカのディズニーXDで放映されていたアニメ版の『トロン:ライジング(Tron: Uprising)』にも、ヴィンテージ・ライト・サイクルが「エンコム786(ENCOM 786)」と呼ばれ登場します。以下をご覧ください。下の動画をご覧になっていただけると、55秒のあたりから、ヴィンテージ・ライト・サイクルの姿が見られます。
さて、ここでダニエル・サイモンのライト・サイクルとヴィンテージ・ライト・サイクルの非常に美しく仕上げられたコンセプト・アートを、改めて見てみましょう。
以下の画像は、FAST COMPANYの中のAustin Carr氏の記事‘How Tron: Legacy Light Cycle Designers Made the Sexiest, Coolest Vehicle Ever’から引用しました。
もしどちらも実在する乗り物だったら、近くに駆け寄って、四方八方からから眺め尽くしてみたい。そう思うのは、私だけでないはずです。
そんな私と同類の方々への朗報を。以下の写真をご覧ください。Parker Brothers ConceptsのNeu Tronのページから引用しました。
こちらはコンセプト・アートではありません。なんと驚くべきことにも、これはライト・サイクルにインスパイアされて製作された実在のバイクなのです。
「ニュートロン(Neutron)」と名付けられたこのバイクは、カスタム・バイクやゴーカートを製造・販売しているアメリカのフロリダ州のパーカー・ブラザース・コンセプツ(Parker Brothers Concepts)によって作られました。
驚くべきは、ますデザインの完成度の高さです。とりわけ『トロン:レガシー』の架空のライト・サイクルと同じく、この「ニュートロン」のホイールにもハブがありません。
過去にもパーカー・ブラザース・コンセプツは、スズキの996ccV型2気筒エンジンを搭載した”トロン・バイク”を「ジーナン(Xenon)」という名前で販売していました。上の写真の「ニュートロン」はその改良版で、A/Cインダクション・モーターとリチウムイオン・バッテリー・パックが搭載された電動バイクです。なので、当然のことながら単なる模型ではなく、実際に動くのです。しかも公道を走らせることだって可能です。
以下の動画で、現実に動いている姿をご覧ください。
普通の道路を走っているの見ると、さすがに少々異様な感じがしなくもありません。また、映画の高速で走るライト・サイクルを見た後だと、それと同等の疾走感がこの動画からは伝わってくるわけではないので、ちょっと物足りない感がなきにしもあらずです。とはいえです。現実に目の前で、このバイクが動いているのを見たとしたら、大いに興奮しまくることは間違いありません(少なくとも私は)。
このパーカー・ブラザース・コンセプツのバイクについてご興味のある方は、Primary. Webの記事「近未来を意識しすぎてヘンテコなバイクは映画『トロン』に登場する「Light Cycle」を再現したバイクだった!」もどうぞお読みください。
今回は、この辺で終わりにしますが、最後におまけで、かなり珍しい貴重な映像を掲載しておきます。なんと、最初に紹介したダニエル・サイモンのデザインによるロータスC-01が、この日本で走っている姿が見られます。試乗しているのは、レーシング・ドライバーの谷口信輝氏です。どうぞご覧ください。
この映像をアップしくださっているNOBチャンネル、車好きの方にはおなじみでよね。毎回、普通には乗ることのできない車を谷口信輝氏が試乗し、その生の感想と解説が見られる本当に楽しいチャンネルなので、車好きの方で、まだの方はぜひご登録を!
今回の流れからいくと、次回もダニエル・サイモンの他のデザインにも目を向けていきたいところではあります。ですが、その前に、ひとまず次回は1982年のオリジナルの『トロン』の映像世界の方へ話題を移してみたいと思います。
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