ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

映画『トロン:レガシー』の「セイフハウス」のインテリア(3)――ロココ・スタイルのアクリル製の家具。フィリップ・スタルクの「ルイ・ゴースト・チェア」と「ビクトリア・ゴースト・チェア」

映画  インテリア   / 2023.01.07

 前々回から映画『トロン:レガシー(Tron: Legacy)』の中のインテリアに関連する話を書いていますが、今回もその続きです。

 これまで『トロン:レガシー』について何の説明もなく書いてきましたが、ご覧になっていない方のために、ひとつだけ言っておくと、その主な舞台となるのは、現実の世界ではありません。コンピューター内部の仮想空間でストーリーは展開していきます。

 ですので、前回に引き続き今回も見ていく「セイフハウス(Safehouse)」と呼ばれる建物とその内部の部屋は、あくまでデジタルの世界の中で作られた場所なのです。そして、その場所を作り出しのが、コンピューター内部に転送されてしまったジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges)演じるケビン・フリンです。

 と、説明を一応は書いてはみましたが、観ていない方には、「何を言っているのか意味わからない」と言われそうな気もしなくもありません。ですが、ここでの主題は、映画の内容の解説ではなく、映画のセットのインテリアの話をすることなので、拙い説明でお許しください。

 ということで、まずは『トロン:レガシー』のセイフハウスの部屋を改めてご覧ください。画像は、Decorsedの中の記事
‘Tron Legacy – Furniture, Home Decor, Interior Design & Gift Ideas’から引用しました。

映画『トロン:レガシー』のセイフハウス

 画面には、前回と前々回で確認したミッドセンチュリーを代表する家具たちが映っていますね。向かって右側に白い「バルセロナ・チェア」が4脚。中央から少し左のあたりの奥に白い「イームズ・ラウンジ・チェア」とそれを上から覆うような形で見えるオーバーヘッド・ランプ、「アルコ」が置かれています。

 それにしても、これらのとても有名な家具が、なぜわざわざコンピューター内部の仮想空間のインテリアに使われているのか?映画のセットの家具選びという点において、あまりにも安易なのではないか? そんな風に思われた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、それには意図的な理由があるようです。

 Los Angeles Timeの中のDavid A. Keeps氏の記事‘Set Pieces: The look of ‘Tron: Legacy’’によると、こうした分かりやすい要素は、セイフ・ハウスを生み出した劇中の人物ケビン・フリンの現実世界についての遠い過去の記憶に由来しているそうです(ケビン・フリンはコンピューター内部の世界に入る前は、現実世界の中で生きていた人間です)。

 映画『トロン:レガシー』のプロダクション・デザイナーを務めたダレン・ギルフォード(Darren Gilford)は次のように述べています。

 「フリンはもともと人間であり、また自分自身の追放された環境を作り出す能力を持っているため、自身の個人的な美的感性を示すために、これらの馴染みのある備品を選んだのです」(Los Angeles Timeの中のDavid A. Keeps氏の記事‘Set Pieces: The look of ‘Tron: Legacy’’より引用)。

 なるほど、と納得していただけましたでしょうか? 何にせよ、ご覧になっていない方には、やはり分かりずらい説明かもしれませんね。

 まあ、あまり細かいことは気にせず、今回もセイフハウスのインテリアの別の要素を見ていきましょう。

 まずはバルセロナ・チェアの横に置いてあるテーブルです。といっても先ほどの画像だと小さすぎて、かなり見えずらいですよね。こちらの角度からの画像ではいかがでしょうか? 向かって左端にぎりぎり映っています。一緒に見えるのは、イームズ・ラウンジ・チェアのオットマンです。以下は、TRON Wikiの中の‘Flynn’s Safehouse/Gallery’から引用しました。

映画『トロン:レガシー』のセイフハウス

 これでも、まだ見えずらいですよね。では、次の画像もご覧ください。向かって左奥にイームズ・ラウンジ・チェアの横に置かれえているテーブルが見えますでしょうか? 以下は、TRON Wikiの中の‘Flynn’s Safehouse/Gallery’から引用しました。

映画『トロン:レガシー』の中のセイフハウス

 やはりこちらでも、見えずらいことに変わりはないですね。ですので、結論を言ってしまいます。このテーブルは、こちらの商品です。

Traditional Aluminum Round Accent Table

 実のことを言うと、このテーブルについては、私もぱっと見では、まったく検討がつきませんでした。そこで、ちょっと調べてみたら、Decorsedの中の記事‘Tron Legacy – Furniture, Home Decor, Interior Design & Gift Ideas’が教えてくれました。

 で、こちらのテーブルは、前回と前々回とは違って、有名家具ではありません。Deco 79というブランドから出ている「トラディショナル・アルミニウム・ラウンド・アクセント・テーブル(Traditional Aluminum Round Accent Table)」という商品で、アメリカのamazon.comでも販売していました。上の写真は、amazon.comの商品ページから引用しました。

 これまでの高額な「名作家具」とは違って、こちらはかなりお財布に優しい感じです。現在(2023年1月7日)の価格は$62.99でした。

 形的にはクラシカルですが、素材のアルミニウムがシルバーポリッシュ仕上で輝きがあるため、コンテンポラリーな雰囲気も感じられます。これは、多少エレガントさを好みながらも、遊び心を求める女性の部屋のインテリアとかにも、ひょっとして合うのではないでしょうか? 

 ちなみに、Deco 79から出ている家具や雑貨は、このテーブル以外にも、安価ながら結構面白いものが多々あります。例えば、同じくシルバー色のテーブルでは、こんなのもあったりします。写真は、amazon.comの商品ページから引用しました。

 こちらの溶けていくようなデザインのテーブルは、さすがに置く部屋を少し選びそうです。80年代風のポストモダンな雰囲気のある鮮やかな赤や青の色の壁の部屋とかには、もしかして合いますかね? また、イメージの連想が合っているのどうか自信はないですが、バッドマンのようなダークなヒーローを好む子供部屋に置いてもクールかもしれません。

 

 さらに、セイフハウスの中の別の家具にも目を向けてみましょう。

 バルセロナ・チェアの前に置かれているテーブルをご覧ください。前々回に掲載したのと同じ画像を、改めて掲載します。以下の画像は、Film And Furnitureの中の記事‘Barcelona chair’から引用しました。から引用しました。

映画『トロン:レガシー』のセイフハウス

 どこの商品なのか、これまた見当もつかなかったのですが、再びDecorsedの中の記事‘Tron Legacy – Furniture, Home Decor, Interior Design & Gift Ideas’が教えてくれました。それによると、下のアメリカのアクリリック・ファニチャー(Acrylic Furniture)というメーカーのアクリル・テーブルのようです(下の写真のテーブルは、『トロン:レガシー』に映っているテーブルとはサイズ違いです)。

アクリリック・ファニチャー

 これと同じようなアクリル・テーブルは、日本でも探せば見つけられそうな気もします。実際、下のテーブルなんて、かなり近い感じじゃないですか? ディノスで販売している「Gel/ジェル アクリルネストテーブル 3台セット」という商品です。写真は、ディノスの商品ページから引用しました。

ディノスの「Gel/ジェル アクリルネストテーブル 3台セット」

 ところで、前回の記事では、ロココ・スタイルを取り入れたインテリアの話についても少しだけ触れました。実は、それが今回生きてきます。

 というのも、セイフハウスのインテリアには、モダニズムの家具だけでなく、以下に映っているチェアやテーブルのように、明らかなロココ・スタイルのデザインの家具も使われているのです。filmaffinityの中の記事‘Sección visual de Tron: El legado’から引用しました。

映画『トロン:レガシー』のセイフハウス

 18世紀フランスの貴族たちの華麗な邸宅へ憧れを持っている方だったら、前回と前々回に見てきたモダニズムの家具なんかよりも、このタイプの家具の方が断然気になるのではないでしょうか? 

 さらに下の画像を見てください。オリヴィア・ワイルド(Olivia Wilde)演じるクオラ(Quorra)が足を延ばして乗っかっている以下のソファなんかはどうでしょう。画像は、Shelternessの中の記事‘PICTURE OF TRON INTERIORS’から引用しました。

映画『トロン:レガシー』のセイフハウス

 ご覧の通り、これらの家具のフレーム部分には透明な素材が使われています。ということからお分かりいただけるように、当然、ロココ・スタイルの本物のアンティークではありません。

 「それでも、とても素敵! いったいどこの製品なの? 買えるものなら買いたいけど」とロココ好きの心をくすぐられた方も中にはいらっしゃるかもしれません。ですが、残念なことにも、これら全て既製品ではなく、映画用にカスタムされた家具なのです。

 Los Angeles Timeの中のDavid A. Keeps氏の記事‘Set Pieces: The look of ‘Tron: Legacy’’によると、家具のアクリルで作られている部分は、コンピューター制御のフライス盤を使って数週間かけて製作されたそうです。

 で、ダイニング・チェアのフレームの方は、白い塗料で塗られ、そこにシルバーの模様が入った布地が張られています。また、ソファにはメタリックな布地がダイヤモンドの形にスティッチで張られています。

 セイフハウスを見ても分かるように、アクリル素材で作られたロココ・スタイルの家具のクラシカルな形状が、ミニマリズムな部屋の冷たさを和らげつつも、同時に未来的な雰囲気を失わない程度のエレガントさを加味するアクセントとなっているのではないでしょうか。

 映画『トロン:レガシー』のセットの中で使われているアクリル素材のロココ・スタイルのチェアは商品ではないので入手できませんが、それにちょっとだけ近い既製品ならないわけではありません。

 日本でも販売されているイタリアのカルテル(Kartell)社の以下のチェアです。画像はKartellの商品ページから引用しました。

カルテルの「ルイ・ゴースト・チェア」

 いかがでしょうか? 見ての通り、『トロン:レガシー』のチェアのような布張りがされてはいるわけではありません。ですが、現代的な透明素材でありながら、背もたれの丸いメダリオン型やアームの曲線といった形状が間違いなくクラシカルな雰囲気を醸し出しています。

 これはフランスの建築家でデザイナーのフィリップ・スタルク(Philippe Starck)によってデザインされ、2002年にカルテルから発売されている「ルイ・ゴースト(Louis Ghost)」というチェアです。

 このチェアは、見た目が印象的であるにもかかわらず、透明であるため、それこそゴースト(幽霊)のようなシルエットだけを残し、周囲に溶け込んでいくようにも見えます。そのため、存在感はあるのに圧迫感を与えることはありません。ということからすると、広くない部屋にも間違いなく適しているはずです。

 だとすると、日本の決して広いとは言い難い一般的な住宅事情の要求にも合わせることができますね。というか、実際、自宅に置かれている方も案外多いのではないかと思います。

 Chairishの中の記事‘The Ghost Chair: A History’によると、ルイ・ゴースト・チェアの特徴的な形の原型となったのは、ギリシャ・ローマの古典的なデザインへの関心が高まったルイ16世とその妃マリー・アントワネットの治世に作られていたスタイルのチェア、すなわち後に君主の名を冠して「ルイ16世チェア」とも呼ばれるようになったチェアです。

 もちろん、従来の「ルイ16世チェア」は木枠と布張りで作られていました。それをフィリップ・スタルクは、革新的なプラスチック製品で有名なカルテルのために、リデザインしたわけです。そして、同社との共同により、ポリカーボネートを一つの型で射出し成形し、接合部の一切ない透明なチェアを完成させることになりました。

 クラシックなシルエットを20世紀の新素材で形成し、伝統と現代を融合させたルイ・ゴースト・チェアには、いわゆる「ポストモダン」的な雰囲気が漂っているせいか、多様なインテリアのスタイルに合わせられそうです。

 例えば、白い小ぶりのテーブルと組み合わせた下の写真をご覧ください。CURATED INTERIORの中の記事’15 Gorgeous Ghost Chairs’から引用しました。

カルテルの「ルイ・ゴースト・チェア」

 見ているだけで、自然と顔がにっこりなりそうな軽やかで明るい雰囲気の部屋になっていますね。 これだったら、日本の広くない部屋でも参考にすることが可能な組み合わせではないですか? で、ここで想像してみてください。もし、これが伝統的な木と布地で作られた「ルイ16世チェア」タイプのものが置かれていたらどうでしょう。 間違いなく、床の濃い色と同化して、全体的にもっと重たい印象になってしまうと思いませんか?

 それにしても、この写真の部屋、色の組み合わせがとても上手です。ゴールドの花瓶と置物、黒のシェードのテーブル・ランプが、ぼんやりとしがちな白い壁の部屋を引き締めてくれています。それに薄いブルーのルイ・ゴースト・チェアと壁に飾ってある絵画の色合いが調和して、全体的な統一感も生まれています。さらに壁付で置かれているミラー素材のコンソール・テーブルが、部屋に明るさとモダンな雰囲気を加味しています。

 以下のインテリアはいかがでしょう? 日本の住宅では、なかなか真似できなさそうですが、この十二分にこってりとしたクラシカルな部屋にもルイ・ゴースト・チェアはしっくりきています。画像は、AMBIENTE DIRECT内の商品ページから引用しました。

カルテルの「ルイ・ゴースト・チェア」

 それにしても、このチェアの透明さが、視線を奥へ通過させるがゆえに、まるでゴーストのように周囲へと溶け込んでいるように見えて、不思議な感じです。

 ちなみに、2006年にはカルテルから「ビクトリア・ゴースト(Victoria Ghost)」というアームのないゴースト・チェアも出ています。以下をご覧ください。画像は、panikの商品ページから引用しました。

カルテルの「ビクトリア・ゴースト・チェア」

 このコンパクトなダイニング・ルームのシックな印象を与えながらも、心躍らせるインテリア・デザインは、自宅があまり広くないという方でも参考になりますよね。

 まず簡素にしか見えないはずのキッチンの設備であるにもかかわらず、光沢のあるテーブルの黒い天板とペンダント・ランプの黒いシェードのおかげで、どこかしら高級感のようなものが全体的に漂っています。

 ですが、それに対して、もし黒一色の床だったらどうでしょう。キッチンも濃い色なので、ちょっと全体的に重たくなりすぎそうですね。

 では、逆にもし白一色の床だったとしたらどうでしょう。その場合は、それほど悪くはないと思いますが、面白みは欠けてしまうでしょう。

 そこでです。白と黒のチェッカード・パターンの床が、全体の印象をさらに決定づける重要なポイントになっているわけです。しかもご覧の通り、即座に目を引き付けるそのパターンが、ビクトリア・ゴースト・チェアの上品さと透明な美しさを引き立ててくれています。

 ちなみに、この写真に写っている存在感のある黒いペンダント・ランプは、カルテルのフライ(FL/Y)という商品です。画像は、カルテルの商品ページから引用しました。

カルテルの「フライ」

 また、ビクトリア・ゴースト・チェアと相性が抜群のテーブルもカルテルのトップトップ(TOPTOP)と言う商品です。画像は、カルテルの商品ページから引用しました。

カルテルの「トップトップ」

 こちらのテーブルのサイズは、商品ページで確認したところ、W190/D90/H72cmでした。4人家族とかの場合だと、ちょうどいいサイズ感のテーブルになりそうですね。

 だんだんカルテルの商品を宣伝するような内容になっきてしまいましたが、今回はこの辺りで終わりにします。

 次回も引き続き映画『トロン:レガシー』と関連する話を続けますが、少し視点を変えて、同映画の最も重要な要素の一つ「ライト・サイクル(Light Cycle)」という乗り物をデザインしたダニエル・サイモン(Daniel Simon)の作品へ焦点を当ててみたいと思います。

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