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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
映画『トロン・レガシー』のセイフ・ハウスのインテリア(1)ーージョセフ・コジンスキー監督のサーブのコンセプト・カー「エアロX」のコマーシャル映像。イームズ・ラウンジ・チェア
インテリア コマーシャル映像 車・バイク / 2022.12.30
前回は、ファッション・ブランドのサンローランの企画で、フランスのエレクトロ・ミュージックのデュオ、ダフト・パンク(Daft Punk)が、建築家ジョン・ロートナー(John Lautner)が設計したシーツ=ゴールドステイン・レジデンス(Sheats–Goldstein Residence)で撮影された話について書きました。その流れから、今回はダフト・パンクがサウンドトラックを担当した2010年のSF映画『トロン:レガシー(Tron:Legacy)』について書いてみたいと思います。といっても、ダフト・パンクの音楽というよりも、そのセットやプロダクトのデザインの方に注目していきます。
そこで重要となるのが、監督のジョセフ・コジンスキー(Joseph Kosins)です。これを書いている今(2022年12月30日)だと、コジンスキーと言えば、今年日本でもヒットしたトム・クルーズ主演の『トップガン マーベリック(Top Gun: Maverick)』を監督した人と言えば、多くの人に通じやすいのかもしれませんね。
ということで、あえての言い方をしますが、2010年の『トロン:レガシー』は、2022年の世界的大ヒット作『トップガン マーベリック』の監督ジョセフ・コシンスキーの初監督した長編の映画作品なのです。『トロン・レガシー』をご覧になったことがない、あるいはあまり興味がわかないという方も、これで少しはこの記事を読む気になってくれたでしょうか?
まあ、とりわけ今回の記事に関して言えば、SF映画好きで、かつインテリアや建築や家具やプロダクト・デザインが気になって仕方がない人、要するに自分と似たような少数の人しか読む気にならない内容だと思いますので、ことさら煽ってみても無意味ですね。
何はともあれ、『トロン:レガシー』の話題に入る前に、まずはジョセフ・コジンスキーの他の映像作品をご覧ください。
以下の動画は、2007年にコジンスキーが監督して製作されたGMグループのサーブ(Saab)のコマーシャルです。当時としては最先端の未来的なデザインの車が雪景色の中を颯爽と走り抜けていく洗練された映像が見られます。
女性の動きと車の動きが、最初から最後まで同期して進行し、最後に女性が窓ガラスから外を眺めると車が到着していて、そして両者が窓ガラスに映し出されて重なり合うという巧みな流れになっていますね。
このサーブのコマーシャルは2007年の作品ですから、映画『トロン:レガシー』の3年前に製作されています。つまり、ジョセフ・コシンスキーは、『トロン:レガシー』に先んじて、すでに見事に洗練された未来的な映像を撮影していたわけです。
映っている車は、かなりの車好きの方であれば、ご記憶にあるかもしれませんが、2006年2月28日の第76回ジュネーブ・モーターショーで、スポーツ・クーペのコンセプト・モデルとして発表された「エアロX(Aero-X)」という車です。
2000年代半ばということもあり、いまだエアロXは、いわゆる電気自動車ではありません。SAAB planet.comの中の記事‘The Creator of the Saab Aero X Will Be Ford’s New Chief Designer’によると、バイオエタノール仕様の2.8LのV6ツインターボ・エンジンを搭載しています。
それにしても、オープン・カー好きの人からすると、先ほどの動画に映っている車の開閉の動き方は、ぞくぞくしますよね。ドアと一体となった運転席のキャノピーが上方へと開きながら前方へスライドしていきました。この航空機を思わせるキャノピーは、サーブが元々はスウェーデンの航空機メーカーの自動車部門として1945年に設立されたことを思い出させる形状となっています。
エアロXの後方からの印象的な眺めをご覧ください。 画像は、DRIVEの中のThanos Pappas氏の記事‘Design Review: Saab Aero-X Concept (2006)’から引用しました。
前述のThanos Pappas氏の記事によると、エアロXのデザイン・チームは、GMヨーロッパ・アドバンスド・デザインのディレクターである香港出身のアンソニー・ロー(Anthony Lo)を中心に、リード・エクステリア・デザイナーをドイツ出身のアレックス・ダニエル(Alex Daniel)が、実際のプロト・タイプの製作はトリノのGストゥディオ(G-Studio)が担当したそうです。
ちなみに、エアロXを製作したGストゥディオについては、『レスポンス』の中の「【イタリアのデザイン・ラボラトリー】Gストゥディオ : コンセプトカーを支える“影のマジシャン”」という大矢アキオ氏の記事が非常に丁寧な解説をしてくださっているので、どうぞそちらをお読みください。
車の話はこれぐらいにして、先に進まないと映画『トロン:レガシー』の話に入れませんね。ですが、先ほどのサーブのコマーシャル映像を離れる前に、もう一つだけ。
インテリア好きの方だったら、冒頭ですぐに目に留まったと思われますが、先ほどのサーブのコマーシャル映像には、とても有名な家具がたびたび映っていました。
最初の場面から登場するのは、1930年にドイツ出身のモダニズムを代表する建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)がデザインした「バルセロナ・デイ・ベッド(Barcelona Day Bed)」です。以下をご覧ください。画像はKnollのウェブサイトから引用しました。
サーブのコマーシャル映像では、白いカーテンがかけられた窓の前に置かれた、この白いバルセロナ・デイ・ベッドの上に、白い服を着た肌の浅黒い女性が心地よさそうに仰向けの姿勢で横たわっていました。
このバルセロナ・デイ・ベッドをデザインした建築家ミース・ファン・デル・ローエについては、このブログの以前の記事でも言及しました。その際に取り上げたミースとリリー・ライヒ(Lilly Reich)がデザインし、1929年に発表された「バルセロナ・チェア(Barcelona Chair)」も、最後の方にはっきりと映っています。以下のバルセロナ・チェアの画像は、PALETTE AND PARLORの商品ページから引用しました。
前置きが長くなっているので、映画『トロン・レガシー』の話はまだなのか、と思われている人がいるかもですが、いよいよここから本題へと入って行きます。
以下の画像をご覧ください。これは映画『トロン・レガシー』の中の場面です。注意して見てください。上記とまったく同じ白のレザーのバルセロナ・チェアが映っているのが使われているのが分かりますでしょうか? 以下の画像は、Film And Furnitureの中の記事‘Barcelona chair’から引用しました。
これは『トロン・レガシー』の中でジェフ・ブリッジス演じるケヴィン・フリンが住んでいる「セイフハウス(Safehouse)」の室内です。
このブログの以前の記事で、ジェームズ・ボンド・シリーズの2006年の『007/カジノ・ロワイヤル(Casino Royale)』で、クラシカルなホテルの中に置かれたバルセロナ・チェアの画像を掲載したことがありますが、今回はまさにその真逆と言ってもいい超未来的な部屋です。何と言っても、ガラス・パネルの床が下からの照明で光っていますからね。ですが、ここでもバルセロナ・チェナは、すんなりと馴染んでいます。
ちなみに、Los Angeles Timesの中のDavid A. Keeps氏の記事‘Set Pieces: The look of ‘Tron: Legacy’’によると、その床は、スーパーバイジング・アート・ディレクターのケビン・イシオカとコンストラクション・コーディネーターのヤン・コビルカが考案したスチールの構造物の上に、6×6フィートの照明付きガラス・パネルを設置したとのこと。そして、それぞれのパネルには、上向きのライトを独立して制御できるような仕組みになっているそうです。
映画をご覧になっていない方は、以下の場面をどうぞご覧ください。セイフハウスのインテリアをじっくり観ることができますよ。
いかがでしたか? 床のガラス・パネルからの白い光と悪役たちの黒と黄色のコスチュームとの対比によって、明暗さが鮮明に生み出されています。それによって、悪役たちの邪悪さが視覚的にも際立って見えますね。
さらにセイフハウスの中の他の家具にも目を向けてみましょう。
先ほどの静止画像だと向かって右側の奥にある(動画だと1分4秒のあたりに映ります)チェアにも注目してください。以下のチェアと同じものであることが分かりますか? 画像は、HermanMillerの‘Eames Lounge Chair and Ottoman’のページから引用しました。
これまたインテリアが好きな人には超有名な「イームズ・ラウンジ・チェア(670)(Eames Lounge Chair(670))」と「オットマン(671)(Ottoman(671))」です。アメリカのチャールズ&レイ・イームズ(Charles & Ray Eames)がデザインし、1956年にアメリカのハーマンミラー(Herman Miller)社から発売されました。
先ほどのバルセロナ・チェアもそうですが、このイームズ・ラウンジ・チェアも、その他の映画やドラマの中で使われているのをしばしば目にします(このことはまた別の機会に)。バルセロナ・チェアもイームズ・ラウンジ・チェアのどちらも、ユニヴァーサルに美しいデザインであることは言うまでもなく、さまざまなタイプのインテリア・デザインの部屋に合わせられるということが、好んで使われる理由のひとつになっていることは間違いないでしょう。そもそもシートの張地を何色にするのか、またレザーにするのかファブリックにするのかで、がらりと印象も変わりますからね。
例えば、『トロン:レガシー』のセイフハウスとはまるで異なるインテリアとなっている以下の部屋をご覧ください。フレームがウォールナットで張地が黒のレザーのイームズ・ラウンジ・チェアが、昔の日本の家の室内を彷彿させる部屋の中にも見事に溶け込んでいますね。画像は、Vitra.の中のLounge Chair & Ottomanのページから引用しました。
また、少しだけ話が逸れてしまいますが、上記の部屋ではイームズ・ラウンジ・チェアの上部に、通称「ゴールデン・ベル(Golden Bell)」と呼ばれている有名なペンダント・ランプが吊り下げられています。
これは、いわゆる北欧家具好きの人たちにはお馴染みであろうフィンランドの建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)が、1937年にヘルシンキのサボイ・レストランのインテリアのために制作し、同年のパリ万博のフィンランド・パビリオンにも展示された「A330S」というランプです。現在はフィンランドのアルテック(Artec)社から2017年に復刻されたものが発売されています。
シェードの下部の周縁には小さなスリットが開いています。それもまたゴールデン・ベルのデザインを特徴づけています。夜になって暗くなった時間帯に、ゴールデン・ベルの灯りをつけた部屋――とりわけ、家の外が雪景色の北国の冬の夜に、その柔らかな光で照らされている部屋など――を想像してみてください。 現代だったらバイオエタノール暖炉の揺らめく炎とともに、このランプの小さな穴から漏れる光の環で作られる優しい明るさが、体だけでなく心からも暖めてくれそうじゃないですか? 以下の画像は、artek Japanの商品ページから引用させていただきました。
拡大して見ると、真鍮のシェードの艶やかな美しさが、一気に目に飛び込んできますね。
アルテックの商品説明によると、仕上げにクリア塗装をせず、真鍮そのままの魅力を活かしているそうです。ということは、この輝きは時間とともに次第に薄れていくのは間違いありません。ですが、アルテックいわく
「無塗装の真鍮は、生産された直後から酸化が始まり、年月を追うごとに美しい「パティナ」、すなわち経年変化による痕跡が刻まれていきます」。
確かに、先ほどのイームズ・ラウンジ・チェアとともにゴールデン・ベルを吊るしている家なんかだと特に、シェードの真鍮が少しくすんだ味わいのある色合いぐらいになった方がより合いそうですね。
日本の住宅のリビング・ルームでは、床や扉の建具を濃い茶色の木材ないしは木質感のフローリング材を使っていることも多いと思われます。そもそも茶色だけだと、どうしても地味な印象になりがちですが、そこに上質な真鍮やゴールドの色合いのランプや飾りなどで、さりげなく明るい輝きが加味されていると、部屋に入った瞬間の印象が随分と違いますよね。
「少しだけ話が逸れてしまいますが」なんて言いましたが、アルヴァ・アアルトの名作ランプの魅力につられてしまって、だいぶん逸れてしまいました。では、話を戻して『トロン:レガシー』の中の他の家具にも目を向けていきましょう。と言いたいところではありますが、このまま続けるとまだまだ長くなりそうなので、残りは次回に見送ります。
最後に、これまた本題とは直接的に関係あるわけではないですが、ちょっと以下の車をご覧ください。画像は、designboomの中の記事‘lincoln celebrates 100 years of greatness with the ‘model L100 concept”から引用しました。
どうですか? これは私自身が2022年に最も目を奪われた車のひとつです。それにしても、現在の自動車が未来の乗り物へと進化していくトレンドを強く予感させてくれる強烈なインパンクのあるデザインとなっていますね。そして間違いなく、今現時点で思い描かれる最大限に未来的な電気自動車のひとつの姿なのでしょう。
ですが、どうでしょう、ここまで無機質なデザインになると、なんだかちょっと恐ろしさすら感じてしまうのは私だけでしょうか? なんてことを言っていること自体が、もしかして感性が遅れていることを表してしまっているのでしょうか?
でも、思い出してください。従来の一般的な車は、ヘッド・ランプとフロント・グリルがあったおかげで、顔のように見えて、あくまで人間の側からの勝手な擬人化でしかないとはいえ、何か表情のようなものが感じられたじゃないですか。だから、車を正面から眺めながら、「この車、いかついよな」とか「かわいい顔しているな」なんて言葉も口にできたわけです。
つまりですよ、この車からなんとも言えない不気味さを感じてしまうとすれば、そういう意味での顔がないがゆえに感情がないように見えるからなのかもしれません。
とは言っても、やはりすぐ先の未来の車はこうなっていくんですかね? そもそも電気自動車になったら、大きなフロント・グリルはいらなくなりますからね。近々日本でも道路を走っているのを見かけるようになるであろう(これを書いているのは2022年12月30日です)テスラのサイバートラック(CYBERTRUCK)とかも、すでに早くもそうなっていっていますし。
以下でサイバートラックのご覧ください。画像は、テスラ・ジャパンのウェブサイトから引用させていただきました。
それはそうと、先ほどの未来的な車が何なのかと言うと、フォードが2022年8月18日に発表したコンセプト・カーです。designboomの中の記事‘lincoln celebrates 100 years of greatness with the ‘model L100 concept”によると、これはリンカーン初の高級車である1922年式モデルLへのオマージュだそうです。で、モデルLからの100周年ということで、「モデルL100」と名付けられたわけです。
実のところ、ここでモデルL100を取り上げた理由は、今回の記事で先に書いたこととの関連もあるからです。
何かと言うと、前述のエアロXをデザインしたのはは、当時GM・ヨーロッパ・アドバンスド・デザインのディレクターだったアンソニー・ローが率いていたデザイン・チームでした。で、そのアンソニー・ローが現在フォードのチーフ・デザイン・オフィサーとなり、このモデルL100を送り出してきたのです。
ここでは、このモデルL100の詳細については省きますが、代わりにひとまず以下の動画で、その驚くべき姿をご覧ください。
「単なる始まりに過ぎない」。まるで映画のトレイラーのごとく、動画ナレーションが、そう言って最後を締めくくっていますね。電気自動車や自動運転の開発が進む中、よく言われているように、今まさに自動車のデザインやあり方自体が大きく変化していっていることが、確かに感じられます。
動画をご覧になって、さらにモデルL100のことを知りたくなったという方は、『TEXAL』の中のmasapoco氏の記事「リンカーンが未来的すぎるデザインの自動運転電気自動車コンセプトモデル「L100」を発表」を、どうぞお読みください。
それにしても、動画の最後で少し離れた位置からモデルL100の姿を撮影したショットどう思いました? 夕暮れのような薄暗い背景でLEDの光を放っているモデルL100が、ドアとトップをオープンするシーンです。それこそ、まるで映画『トロン:レガシー』そのものに見えませんか?
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