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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
『ツイン・ピークス』の後のジュリー・クルーズ(3)――ユーリズミックスの「スウィート・ドリームス」のカヴァー曲。
音楽 ミュージック・ビデオ / 2022.12.07
デヴィッド・リンチ(David Lynch)監督のドラマ『ツイン・ピークス(Twin Peaks)』で「フォーリング(Falling)」を歌って有名になったジュリー・クルーズ(Julee Cruise)のその後の音楽を、前回と前々回に書いてきました。今回は、前回の最後で予告したように、その後の他のアーティストとの間で生まれた作品について書いてみたいと思います。
前回述べたように、1996年の往年のホラー映画のメタ解釈をして人気を得たホラー映画『スクリーム(Scream)』のサウンドトラックに使われた曲「アーティフィシャル・ワールド(Artificial World)」は、ディー・ライト(Deee-Lite)のドミートリー・ブリル(Dmitry Brill)とイタリアのテクノやハウス系のDJでプロデューサーのDJシルヴァ(D.J.Slver)とのコラボレーションでした。その後も、彼らとのコラボレーションによって、ちょっと面白い曲が生まれています。
まずはDJシルヴァの1999年のアルバム『ドント・パニック(Don’t Panic)』からの最初のシングル曲となったジュリー・クルーズが歌う「スウィート・ドリームス(Sweet Dreams)」です。以下でお聴きください。
この曲は、80年代のいわゆる「洋楽」を聴いて育った人たちにはおなじみのイギリスのシンセ・ポップ・デュオ、ユーリズミックス(Eurythmics)の1983年のアルバム『スウィート・ドリームス(Sweet Dreams)』からの同名のシングルで、UKヒット・シングル・チャートで2位、USビルボード・ホット100で1位となった曲のカヴァーです。
ユーリズミックスの超有名となったオリジナル曲の方は、シンガーのアニー・レノックス(Annie Lennox)の深い厚みのある声が前面に迫ってきて「甘い夢」の欺瞞を無理やり目の前に突き付けられているような気になりますが、DJシルヴァ&ジュリー・クルーズのカヴァーの方は、気の抜けたキュートな声で「甘い夢」から目覚めなさいといたずらっぽく囁いているようにも聴こえてきます。また、前者はローランドのSH-101のベース・ラインとともにリズム・マシーンのバシッと響くスネアの音が聴こえる80年代前半の典型的なサウンドになっていますが、後者はより乾いた音のリズム・マシーンがよりシャープなビートを刻む90年代末最新のサウンドになっていて、続けて聴くと時代の明瞭な変化を感じられます。
ということで、この違いが気になるという方は、1983年のユーリズミックスの「スウィート・ドリームス」のミュージック・ビデオをご覧ください。
オレンジ色の髪を短く刈り上げたトランス・ジェンダー的な外観のアニー・レノックスが、画面からこちらに視線を向けて歌う姿は、やはり圧倒的な存在感を放っていますね。MTVの初期の時代に放映されたミュージック・ビデオは、現在改めて観ると正直しょぼいものも少なくなく、また観ている方が恥ずかしくなりそうなものもいろいろありますが、このミュージック・ビデオに関して言えば、映像技術的な面では当然のことながら時代の古さを感じさせるとはいえ、今もなお新たに人を魅了する力が十分にあるように思えます。
ところで、90年代半ばのMTVをよく観ていた人だったら、「スウィート・ドリームス」と言えば、マリリン・マンソン(Marilyn Manson)の1995年のカヴァー・バージョンの方をよく聴いていたという可能性もありますね。
当時、MTVでガンガン流れていたマリリン・マンソンの「スウィート・ドリームス」のミュージック・ビデオの映像は、ファンの方にはたまらないのでしょうけれども、ごく普通の良い子からすれば、まさにおぞましき「悪夢」以外の何物でもないと思われるでしょう。以下のマリリン・マンソンの「スウィート・ドリームス」のミュージック・ビデオは、怖いものが苦手な人は閲覧注意です。怖い物も平気な方は、どうぞお楽しみください。
ご覧になられた方、これマジで怖くないですか? ちなみに、The Ageの2010年11月1日の記事‘The scariest music video ever made’によると、マリリン・マンソンの「スウィート・ドリームス」のミュージック・ビデオが、ハロウィンと関連するオンライン投票によって「マイケル・ジャクソンの「スリラー(Thriller)」を打ち負かして、これまで作れられた最も怖いビデオ」になったそうです。でも、私としては、ちょっと待ってと言いたくなります。というのも、1位と2位の怖さの次元が違い過ぎはしないでしょうか?
マイケルの「スリラー」のミュージック・ビデオを知っている人なら、誰もが同じように思ってくれるのではないかと思いますが、マリリン・マンソンの「スウィート・ドリームス」の怖さと比べれば、「スリラー」なんかもはや子供だましにしか思えません(マイケルの「スリラー」のミュージック・ビデオのクオリティをけなしているわけではありませんよ。あくまで怖さの評価です)。それにしても何が怖いって、マリリン・マンソンのいかれたバレリーナ姿ですよ。
ついでに言えば、先ほどの記事によると、3位はエイフェックス・ツイン(Aphex Twin) の「カム・トゥ・ダディ(Come to Daddy)」(1997)でした。「カム・トゥ・ダディ」をご覧になったことがある方なら、これもうなずいていただけると思いますが、はっきり言ってかなり怖い映像です。というか、個人的な感想を正直に言えば、あまりにも怖すぎます。マリリン・マンソンの「スウィート・ドリームス」以上に、できれば観たくないというべきでしょうか。なので、ここには載せないでおきましょう。ぜひとも観てみたいという怖いもの知らずの方は、どうぞ検索してご覧ください。
ところで、マリリン・マンソンの極めつけのダークな「スウィート・ドリームス」のミュージック・ビデオを監督したのは、アメリカの写真家でもあるディーン・カー(Dean Karr)です。念のために言うと、ディーン・カーは怖い映像ばかりを撮っているわけではありません。例えば、前年にはラブ・アンド・ロケッツ(Love & Rokets)の曲「スウィート・ラヴァー・ハングオーヴァー(Sweet Lover Hangover)」のスタイリッシュで文句のつけどころなくカッコいいミュージック・ビデオの監督もしています。本題とはまったく関係ないですが、よろしければラブ・アンド・ロケッツの曲「スウィート・ラヴァー・ハングオーヴァー」を気分転換にどうぞ。
光と影のコントラストが素晴らしいビデオだと思いませんか? 巧みな光の取り入れ方の効果で、特に終盤になっていくと、ピクトリアリズムと言ってもいいような絵画的に表現されたモノクロ写真を、次々と連続して見ているような美しい映像になっていますね。もちろん、曲自体も素晴らしい出来栄えです。パーカッションのリズムとともに思わず体を横にゆすりたくなるようなミドルテンポのグルーヴ感、それにセクシーと形容したくなるダニエル・アッシュ(Daniel Ash)のフィードバックするギター・サウンド。ただ観て聴いているだけで、それこそまさしく「ハングオーバー」してしまいそうです。
話のついで言うと、ラブ・アンド・ロケッツは、80年代初頭のポスト・パンクやゴシック・ロックのファンの間で絶大なるカリスマ性を誇ったイギリスのバンド、バウハウス(Bauhaus)の元メンバーの三人によって結成されたバンドです。以前にこのブログ内の記事「映画『ブルー・ベルベット』でジュリー・クルーズが歌う「ミステリーズ・オブ・ラブ」とジス・モータル・コイルの「ソング・トゥ・ザ・サイレン」」で4ADというイギリスのインディペンデント・レコード・レーベルの話に少しだけ触れましたが、バウハウスも1980年のファースト・アルバム『イン・ザ・フラット・フィールド(In the Flat Field)』を同レーベルからリリースしています。
それにしても、マリリン・マンソンのようなダークな世界観や公序良俗に反しそうなタブーをあからさまに表現するアーティストまでもが、アンダーグランドで支持を得るのみならず、メジャーへと進出して脚光を浴びるようになっていく90年代後半は、サウンド的にも映像的にもポピュラー・ミュージック界の一部での歯止めの効かない過激化が加速していった時代ですね。それに伴いMTVで流れるミュージック・ビデオも子供には刺激的過ぎるように思われる内容のものが増えていきました。MTV自体については、いろいろ書いてみたいことがあるので、また別の機会に。
過激と言えば、こちらの映像もかなり過激です。マリリン・マンソンのヴァージョンの「スウィート・ドリームス」を基に作ったミュージック・ビデオで、ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)が黒とクリーム色のコルセットを着て、SM的な乱交パーティーのような場所を練り歩き、長椅子の上で体をくねらせます。これは2009年3月から11月にかけて行われたブリトニーのツアー「サーカス(Circus)」のために製作されたものです。
こうしたセクシュアルに挑発的で刺激過多のミュージック・ビデオは、今となってはさほど珍しくもありませんね。というか、むしろ主流の一つになっていると言ってもいいぐらいです。ですが、MTVが始まったばかりの1981年の頃だったら、ブリトニー・スピアーズの「スウィート・ドリームス」は、おそらく真面目な大人たちの間で物議をかもし出し、放送禁止になっていた可能性すらあります。
何と言っても、1981年に大ヒットしたデュラン・デュラン(Duran Duran)の曲「ガールズ・オン・フィルム(Grils On Film)」のミュージック・ビデオも、フルバージョンは放送禁止となり、まるで『プレイボーイ』誌を彷彿させるかのような当時過激だと思われた一部のシーンを削除して放送されましたからね(このあたりのことについて詳しくは、私が翻訳させていただいたデヴィッド・ヘップワース著『アンコモン・ピープル――ロック・スターの誕生から終焉まで』という本の中に書かれています)。
デュラン・デュランの「ガールズ・オン・フィルム」のミュージック・ビデオは、以下でどうぞ。
サイモン・ル・ボン(Simon Le Bon)の独特の粘り気のあるくせになる声。ジョン・テイラー(John Taylor)のファンキーなベース。アンディ・テイラー(Andy Taylor)の絶妙なギターのカッティング。ロジャー・テイラー(Roger Taylor)のエフェクトのかかったディスコ的なドラム。ニック・ローズ(Nick Rhodes)のスペイシーな広がりのあるキーボード・サウンド。それらが組み合わさって、当時「ニュー・ロマンティック(New Romantic)」と呼ばれていたムーヴメントのバンドの中でもとりわけ有名になった初期デュラン・デュランの唯一無二のサウンドになっていますね。
ちなみに、「ガールズ・オン・フィルム」のミュージック・ビデオの撮影は、イギリスのロック・バンド、10ccのメンバーだったケヴィン・ゴドレイ(Kevin Godley)とロル・クレーム(Lol Creme)によって行われました。ケヴィンとロルは、デュラン・デュランの「ガールズ・オン・フィルム」のミュージック・ビデオの製作する際、それぞれファッション・ショーと泥レスリングを見ていことから、それらを合体させるという案を生み出したようです。
なおケヴィンとロルは、1980年代初期に多数の斬新なミュージック・ビデオの監督をしています。例えば、当時のニュー・ロマンティックのムーヴメントの中で、とりわけ大きな影響力があったヴィサージ(Visage)の「フェイド・トゥ・グレイ(Fade To Grey)」もケヴィンとロルが監督しています。以下をご覧ください。当時のニューロマンティックの奇抜なファッション面をまさしく象徴するミュージック・ビデオになっています。
このメイクやファッションは、はたしてクールなのか? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。人によって感性はいろいろなので。ですが、「フェイド・トゥ・グレイ」のミュージック・ビデオの中で、とりわけシンガーのスティーヴ・ストレンジのメイクなどを見ると、70年代前半のグラム・ロックの頃のデヴィッド・ボウイを明らかに彷彿させます。
実際、スティーヴ・ストレンジは、80年代初頭の頃、デヴィッド・ボウイとはいろいろ深いつながりがあり、1980年のボウイの「アッシュズ・トゥ・アッシュズ(Ashes to Ashes)」のミュージック・ビデオにも出演しています。以下でご覧ください。
この「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」のミュージック・ビデオは、デヴィッド・マレット(David Mallet)監督によって25万ポンドの費用をかけて撮影されたました。当時としては最も高額なミュージック・ビデオとして知られています。また、超現実的な雰囲気をもたらす黒の空、ピンクの海などの映像は、「ペイントボックス(Paintbox)」という当時最新のコンピュータ・プログラムを使って処理が施されています。この辺りのことは、またしても自分の翻訳した本の宣伝のようで書くのが気が引けますが、ジェイソン・ヘラー著『ストレンジ・スターズ――デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』という本の中に詳しく書かれています。いずれにせよ、このボウイの「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」だけでひとつ記事になるぐらいのさまざまな話があるので、詳しくは機会を改めて書いてみたいと思います。
あまりにも大きく脱線してしまいましたが、そろそろジュリー・クルーズに話を戻します。
前述のDJシルヴァの1999年のアルバム『ドント・パニック』の中では、「スウィート・ドリームス」以外にも「アイム・ユア・ガール(I’ m Your Girl)」という曲をジュリー・クルーズは歌っています。
この曲のクレジットには、前回触れた元ディー・ライト(Deee-Lite)のドミートリー・ブリルの名前も見られます(DJ Dmitryと記載されています)。デヴィッド・リンチ&アンジェロ・バダラメンティとの頃と変わらぬドリーミーな雰囲気が残っていますが、背後のサウンドはエレクトロニカになっていますね。また、ジュリー・クルーズの声の出し方にも少し変化が感じられます。
いつものごとく本題から大きく逸れる話が非常に多くなってしまいましたが、今回はひとまずこの辺で。次回も引き続き、『ツイン・ピークス』以後のジュリー・クルーズの音楽について書いてみます。
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