ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

『ツイン・ピークス』の後のジュリー・クルーズ1――ドラマ『サイク/名探偵はサイキック』の「アイ・ノウ・ユー・ノウ」。ノルウェーのハード・ロック・バンド、オードリー・ホーンの「デヴィルズ・ベル」

音楽  ミュージック・ビデオ  テレビ・シリーズ   / 2022.11.28

 前回はデヴィッド・リンチ監督の1986年の映画『ブルー・ベルベット(Blue Velvet)』で使われた記憶に残るジュリー・クルーズ(Julee Cruise)の歌う「ミステリーズ・オブ・ラブ(Mysteries of Love)」と、その曲の着想になったイギリスの4ADレーベルのプロジェクト、ジス・モータル・コイル(This Mortal Coil)の「ソング・トゥ・ザ・サイレン(Song to the Siren)」について書いてみました。

 また、前々回に書いたように、ジュリア・クルーズは「ミステリーズ・オブ・ラブ」でデヴィッド・リンチと作曲家のアンジェラ・バダラメンティとコラボレーションをした後、続けて1990年から1991年に放映されたアメリカの大ヒット・TVドラマ『ツイン・ピークス(Twin Peaks)』の中で「フォーリング(Falling)」を始めとするその他の曲を歌いドリーミーなサウンド・トラックを提供することになりました。で、今回はジュリー・クルーズのブレークスルーのきっかけとなった『ツイン・ピークス』以降の彼女の音楽について書いてみたいと思います。

 まずは以下のちょっと面白い動画をご覧ください。『ツイン・ピークス』のファンだった方なら、面白さが分かるはずです。特に後半の音楽と映像に注目してください。

ドラマ『サイク/名探偵はサイキック?』のシーズン5のエピソード12のオープニング

 お気づきでしょうか? トレモロ・ギター。それから中盤過ぎたあたりに入ってくるストリングス。そう流れている音楽が、まさに『ツイン・ピークス』でジュリー・クルーズが歌った「フォーリング」の完全な焼き直し以外の何物でもありません。それに終盤の映像で流れるアメリカの田舎町の風景。これまた『ツイン・ピークス』のオープニングのパクリじゃないですか!

 実はこれ、2006年から2014年まで放映されていた『サイク/名探偵はサイキック?(Psych)』というアメリカの探偵コメディのドラマのテレビシリーズの中のシーズン5エピソード12「デュアル・スパイアズ(Dual Spires)」(2010年12月1日放映)のオープニング映像なんです。そして、このエピソードは「ツイン・ピークス」のパクリではなくて、いわゆるオマージュないしはトリビュートないしはパロディ作品なのです。この回のドラマの舞台はデュアル・スパイアズという小さな変わった町で、そこに行った主人公たちが10代の少女ポーラ・メラル(Paula Merral)の謎の溺死事件に巻き込まれていくという話です。

 もちろん、このドラマで殺されたポーラ・メラルという少女は『ツイン・ピークス』でのローラ・パーマー(Laura Palmer)のヴァージョン(Paula MerralはLaura Palmerのアナグラムになっています)ですし、この回の題名のDual Spires(二つの尖塔)もTwin Peaks(二つの尖った山)を捩ったものです。

 また、この「デュアル・スパイアズ」の回には、ツイン・ピークス出演者の内の7人がゲスト出演しているそうです。 例えば、『ツイン・ピークス』で、ひときわコケティッシュな魅力を放っていたオードリー・ホーン(Audrey Horne)役を演じたシェリリン・フェン(Sherilyn Fenn)も「デュアル・スパイアズ」に出演しています。以下の画像は、「デュアル・スパイアズ」の中でシェリリン・フェンが登場する一場面です。当時18歳だった『ツイン・ピークス』の頃からおよそ20年経ったシェリリン・フェンです。画像は、TVFANATICの中のCcharles Chandel氏の記事‘Psych Review: From Dual Spires… with Love!’から引用しました。

ドラマ『サイク/名探偵はサイキック?』に登場したシェリリン・フェン

 で、肝心の話、先ほどの「デュアル・スパイアズ」の回のオープニングの曲に戻ります。『ツイン・ピークス』の「フォーリング」のパクリのようにも聴こえた先ほどの曲、これもジュリー・クルーズが実際に歌っています。実はこの曲は、『サイク/名探偵はサイキック?』のオープニングでいつも使われている「アイ・ノウ・ユー・ノウ(I Know You Know)」という曲をスロー・ヴァージョンとしてアレンジしたものです。この曲の作詞作曲は同番組の制作者 スティーヴ・フランク(Steve Frank)、演奏も彼のバンドのフレンドリー・インディアンズ(The Friendly Indians)によるものです。なので、同曲はリンチ&バダラメンティとは、もちろん関係ありません。

 ここで、いつもの『サイク/名探偵はサイキック?』のオープニングでの本来の「アイ・ノウ・ユー・ノウ」を以下の動画でお聴きください。ジュリー・クルーズが歌う気怠いアレンジ版「アイ・ノウ・ユー・ノウ」とは違って、思いっきりハッピーな気分になれそうなパーティ・ソングです。

ドラマ『サイク/名探偵はサイキック?』のオープニング

 また、「デュアル・スパイアズ」では、「アイ・ノウ・ユー・ノウ」とは別にもう一曲ジュリー・クルーズが歌う曲も流れます。彼女の1993年の2枚目のアルバム『ザ・ヴォイス・オブ・ラブ(The Voice of Love)』に収録されている「クール・キャット・ウォーク(Kool Kat Walk)」が、「デュアル・スパイアズ」のエンディングの場面で、コーヒー・ハウスのジュークボックスから流れる音楽として使われています。以下でどうぞ。

ドラマ『サイク/名探偵はサイキック?』でジュリー・クルーズの「クール・キャット・ウォーク」が使われる場面

 『ツイン・ピークス』のファンだった方であれば、上記のコーヒー・ハウスの場面に、いくつもの「オマージュ?」的なパロディを観て、にんまりしてしまうのではないでしょうか?

 ところでこのドラマ、日本でどれだけご覧になった方がいるのでしょう? 実のところ、私自身は残念ながら観てないんです。先ほどの通常のオープニングを観ても楽しそうだし、個人的にアメリカのこの手のコメディは好みなので、ぜひとも観たいと思ったのですが、調べてみたところ、これを書いている現時点(2022年11月28日時点)では、放映も配信サービスも行わていないようです。日本版のブルーレイやDVDも見当たりませんでした(アメリカではDVDが発売されています)。以前はhuluでシーズン3まで観れたようです。

 アメリカではすごく人気があるようで、2014年のシーズン8までシリーズは続きました。さらに2013年には、ミュージカル版の『サイク――ザ・ミュージカル(Psych: The Musical)』が上演されてますし、2017年、2019年、2021年には、それぞれ『サイク――ザ・ムービー(Psych: The Movie)』、『サイク2――ラッシー・カム・ホーム(Psych 2: Lassie Come Home)』、『サイク3――ジス・イズ・ガス(Psych 3: This Is Gus)』と続編がどんどん放映されています。ということからすると、「なんで日本では観られないの?」と思いませんか? まあでもアメリカでは人気なのに、なぜか日本では放映されないドラマというのがときどきありますよね。『サイク』もその一つですね。今後の放映を期待しています。

 今回は本題のジュリー・クルーズの音楽よりも、『サイク/名探偵はサイキック』の中の『ツイン・ピークス』へのオマージュ・エピソードの方に話が寄ってしまいました。次回は改めて『ツイン・ピークス』以降のジュリー・クルーズの音楽と関連するそれ以外の映画を取り上げてみたいと思います。

 最後に本題とは関係ないですが、おまけの話を。

 先ほど述べた『ツイン・ピークス』でシェリリン・フェン演じるオードリー・ホーンの名前をそのままバンド名にしたオードリー・ホーン(Audrey Horne)というバンドをご存じでしょうか? 北欧メタル・ファンの方だったら、すでにお馴染みかとは思われますが、2002年に結成されたノルウェーのハード・ロック・バンドです。しかも2010年の3枚目のアルバムのタイトルも『オードリー・ホーン』です。

 ご興味のある方は、以下の動画で一曲どうぞ。

北欧のバンド、オードリー・ホーンの「デヴィルズ・ベル」

 聴いていただくと分かりますが、80年代中盤のヘヴィ・メタルが好きだった方には、きっと懐かしさが込みあげてくるとともに熱いメタル魂(?)のようなものが蘇ってくるような曲だと思います。

 ここはその手のサウンドが好きだった人向けに書きますが、出だしから始まるツイン・ギターのユニゾンもリフも、ドラムのハイハットの刻み方も、途中の展開も、その頃のアイアン・メイデン(Iron Maiden)を彷彿とさせること間違いなしです(実際にプロモに出てくる化粧をした人が黒のレザー・ジャンパーの下に着ているTシャツもアイアン・メイデンですし、そもそもレザー・ジャンパー自体もその頃のメイデンが着ていたのを思い出させます)。一方でヴォーカルのメロディーは、あのオジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)の感じをちょっと思い出させるんじゃないでしょうか? しかもですよ。曲名も「デヴィルズ・ベル(Devil’s Bell)」!! クラシック・メタル好きの方には文句なしじゃないですか? 本題の話と同じく、こちらもまさしくオマージュですよね。

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