ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

TVドラマ『ウエストワールド』の中の建築(2)――シンガポールのヒーリックス・ブリッジとマリーナ・ワン・レジデンス

建築  テレビ・シリーズ   / 2022.10.09

 前回に続きドラマ版『ウエストワールド(Westworld)』のアーキテクチャについてです。

 『ウエストワールド』のシーズン3の舞台は2058年のロサンゼルスということになっていますが、その美しい近未来的な都市の光景の多くはシンガポールで撮影されたようです。ウェブサイト『Time Out』の記事「11 places in Singapore featured in Westworld Season 3」によると、シンガポールの11の場所が使われているとのことです。

 なんともありがたいことにも、Youtubeのチャンネル『Geek Culture』がアップしている動画「HBO’s Westworld Season3|All Singappore Locations We’ve Found So far」では、現実のシンガポールの場所と『ウエストワールド』の場面を編集して同時に見ることができます。以下でどうぞご覧ください。

HBO’s Westworld Season3|All Singappore Locations We’ve Found So far

 上記の動画にも出てきますが、その中の一つ、シンガポールのマリーナベイエリアにあるマリーナセンターとマリーナサウスを結ぶヒーリックス・ブリッジ(The Helix Bridge)で撮影された場面をご覧ください。画像は『Screenit』内の「Helix Bridge: WESTWORLD」から引用しました。

シンガポールのヒーリックス・ブリッジで撮影された『ウエストワールド』の場面

 暗くて見えずらいですが、映っている人物は、シーズン3から重要な役として登場したアーロン・ポール演じるケイレブ・ニコルスです。アーロン・ポールと言えば、2008年から2013年に放映されていたアメリカのテレビドラマ『ブレイキング・バッド(Breaking Bad)』のジェシー・ピンクマン役を好演し、2010年、2012年、2014年にはプライムタイム・エミー賞のドラマ・ミニシリーズ部門で最優秀助演男優賞を授与されていますね。

 以下の写真は、上記の場面の現実の場所「ヒーリックス・ブリッジ」です。画像は『arc daily』の記事「Helix Bridge / Cox Architecture with Architects 61」から引用しました。

シンガポールのヒーリックス・ブリッジ

 「Helix Bridge / Cox Architecture with Architects 61」によると、ヒーリックス・ブリッジの設計と建築は、オーストラリアの建築会社コックス・アーキテクチャー(Cox Architecture)とロンドンに拠点があるエンジニア会社のアラップ(Arup)とシンガポールのアーキテクツ61(Architects 61)の国際的なチームで行われました。

 また、「ヒーリックス・ブリッジ」というその名(日本語にすると「螺旋橋」)の通り、螺旋状の形状になっています。その形はDNAの二重螺旋構造を表しているとのことです(意図的に通常のDNAの二重螺旋構造とは逆回りにしたそうです)。2010年には、世界建築祭賞(World Architect Festival Awards)で「世界最高の交通ビルディング(World’s Best Transport Building)」賞を獲得したそうです。詳細は「Helix Bridge / Cox Architecture with Architects 61」でご覧ください。

 以下も同じく現実のヒーリックス・ブリッジの写真ですが、実際のものだと知らないと普通に近未来を描いた映画の場面かと思ってしまいそうですね。以下の写真も上記のサイトの記事から引用しましたが、他にも美しいヒーリックス・ブリッジの写真がありますので、ぜひそちらをご覧ください。

シンガポールのヒーリックス・ブリッジ

 もう一つ『ウェストワールド』シーズン3の別のシーンと現実のシンガポールの場所を続けてご覧ください。写真はいずれも『asiaone』の中のBRYAN LIM氏による記事「Peekaboo: Can you recognise Singapore in HBO’s Westworld?」から引用しました。

『ウエストワールド』シーズン3の場面と現実のシンガポールの場所

 ここで使われている場所は、シンガポールのマリーナ・ワン・レジデンス(Marina One Residence)です。おそらくここは、2020年代の世界で最もラグジュアリーなレジデンスの一つなのではないでしょうか? 

 『ウエストワールド』シーズン3の中の同じくマリーナ・ワン・レジデンスの以下のショットは、とても印象的ですね。

シンガポールのマリーナ・ワン・レジデンスの『ウエストワールド』シーズン3の場面

 この構造上の形に関しては、『Rethinking The Future』での記事「The ‘Future’ architecture of Westworld」で建築家のEkam Sahni氏が指摘していることですが、バイオテクノロジーが世界を支配するようになるというこのドラマの主題とも関連する生物模倣(biomimicry)を思わせます。また同時に、未来の建築が、建築上の高度な技術によって、従来の建築手法に縛られることなく、ますます建築家の自由な想像力を表現するものになっていくことも予感させます。Ekam Sahni氏は続けて次のようにも述べています。「未来の建築が重力や私たちの集合的な予想を無視する構造になったとき、さらに冒険的にさえなることが予期される」。

 ところで、『ウエストワールド』の主役の一人ドロレス・アバナーシー役を演じるエヴァン・レイチェル・ウッド(先ほどのマリーナ・ワン・レジデンスで撮影された場面に後ろ姿が写っています)は、2020年7月の『Variety』のインタヴュー記事「Listen: ‘Westworld’ Star Evan Rachel Wood on Her Future on the Show」の中で、興味深いことにも、このドラマの仕事が「私に世界の見方を変化させたのは確かです」と語り、今の世の中にある多くのテクノロジーが急速に進展していく中で、それについていくことは難しく、それがコントロールできなくなることを危惧しています。さらにウッドさんは「私はアレクサも持っていません。シーリーもオフにしています」とも述べています。

 このブログの一つ前の記事で紹介した『ウエストワールド』のシーズン3の冒頭に登場する大邸宅は、ご覧になった方ならお分かりの通り、家中のどこもかしこもが音声コマンドに応答する典型的な近未来の家になっています。言うならば、アレクサ・ファンならば、誰もがまさに夢見るような環境なのです。そこにエヴァン・レイチェル・ウッド演じるドロレスが夜中にやってきて、その大邸宅のコンピューター管理を完全に機能不全にします。『ウエストワールド』は、現在を延長したテクノロジーの発展によるディストピアを描いているわけですから、確かにテクノロジーとの共生という主題について、いろいろ考えさせてくれる題材が満載です。

 それはそうと、『ウエストワールド』のファンなら、「海外旅行するなら、次回はシンガポールで決まりだ!」って気分になりませんか? 私自身はそう心に決めています。次回も『ウエストワールド』のシーズン3に登場する他のシンガポールの場所について、もう少しだけ調べてみたいと思います。

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