ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。

『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』

ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

史上最もサンプリング使用されたドラム・ビーツ。レッド・ツェッペリンの「ホウェン・ザ・レヴィー・ブレイクス」(2)――チャプターハウスの「パール」

音楽  ミュージック・ビデオ   / 2023.04.23

 前回は、70年代を代表するイギリスのハード・ロック・バンド、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)の曲「ホウェン・ザ・レヴィー・ブレイクス(When the Revee Breaks)」のドラム・ビーツが史上最もサンプリングされているということから、その一例として1995年のビョークの「アーミー・オブ・ミー(Army of Me)」を取り上げました。

 で、今回は「ホウェン・ザ・レヴィー・ブレイクス」のドラム・ビーツが使われている、ちょっと意外な曲を選んでみたいと思います。ということで、イギリスのロック・バンド、チャプターハウス(Chapterhouse)の「パール(Pearl)」という曲を選んでみました。

 何が意外かと言えば、レッド・ツェッペリンのようなブルースを基にした70年代のハード・ロック・バンドに対して、1990年台初頭の脱力しまくったサウンドの代名詞のような「シューゲイザー(Shoegazer)」というカテゴリーに入れられていたチャプターハウスは、一見したところ相性が悪そうに思えます。ということからすると、ツェッペリンの曲のドラム・ビーツをチャプターハウスのようなバンドが使うというのは意外じゃないですか?

 そもそもツェッペリンのシンガーのロバート・プラント(Robert Plant)の異様なハイ・トーンのダイナミックな歌声とチャプター・ハウスのシンガーのアンドリュー・シェリフ(Andrew Sherriff) の声域を狭めた一本調子の静的な歌い方とは、まったくかけ離れています。

 それはそうと、そもそもチャプター・ハウスをご存じない方もいらっしゃると思うので、まずは以下で、彼らの1991年のファースト・アルバム『ワールプール(Whirlpool)』 からのシングルとなった「パール(Pearl)」のミュージック・ビデオをご覧ください。

チャプターハウスの「パール」のミュージック・ビデオ

 こんなことを言うと、チャプターハウスのファンの方には怒られそうですが、ミュージック・ビデオの映像自体に関して言えば、基本的にアンドリュー・シェリフが淡々と歌っている顔をひたすら映し出しているだけです。彼の特別なファンとかでもなければ、面白みはありません。まあ、そんなことよりも、ともかく肝心の曲自体へ注目してみましょう。

 イントロからすぐにツェッペリンの「ホウェン・ザ・レヴィー・ブレイクス」のインパクトのある力強いドラム・ビーツが入ってきて、グルーヴィーなリズムへ引き込まれます。一方で、シューゲイザーのバンド特有の情感が抑制され、まるで力のこもってない歌とぼんやりと漂うメロディーと優美な残響音に包まれながら、歌詞の中にある「グリーンの深い海(Green deep sea)」の中にどこまでもどこまでも沈みこんでいきたくなります。なのにもかかわらず、やはり強制力のあるリズムにつられて身体の方は踊りたくなっています。

 相反するはずのものの一致とでも言えばいいのでしょうか? その絶妙にブレンドされた全体のサウンドスケープは、まさに「液化した真珠(liquid pearl)」のようです。一心に耳を傾けながら、音の洪水に身を委ねてみてください。すると、メスメライズされたかのように、まぶたが下がってきて、想像の中でそのアストラルなイメージの世界へとさまよい出ていくような感じに襲われるはずです。

 やはり90年代初頭のシューゲイザーの一つの極致とも言える名曲ですね。で、その重要な鍵となっているのが、改めて言うまでもなくレッド・ツェッペリンの「ホウェン・ザ・レヴィー・ブレイクス」からサンプルされたドラム・ビーツなわけです。

 それにしても、なぜチャプターハウスのような霞の世界を生きているようなシューゲイザーのバンドが、レッド・ツェッペリンのような官能的なバンドのドラム・ビーツを使用することになったのでしょうか? 冒頭にも書いたように、かなり意外な気がします。

 今回改めてクレジットを確認してみたところ、この曲をプロデュースしているのは、ラルフ・ジェザード(Ralph Jezzard)でした。「なるほど、そういうことか」という気もします。というのも、この頃のラルフ・ジェザードは、イギリスのロック・バンドのEMFの1990年のシングル「アンビリーバブル(Unbelievable)」もプロデュースしています。

 そう、あの強烈なビートと舌足らずな感じのけだるい歌で、当時の多くの若者たちを踊らせた大ヒット曲です。UKシングル ・チャートで 3 位に、アメリカのビルボード・ホット100では 1 位となる大ヒットとなりました。以下で、そのミュージック・ビデオをご覧ください。

EMFの「アンビリーバブル」のミュージック・ビデオ

 今回改めて聴いて思いましたが、同曲を作ったイアン・デンチ(Ian Dench)のギター・プレイがなんと言っても素晴らしいですね。終盤の方では、突如覚醒したかのようにイアンのギターがうなりを上げ、見事なクライマックスを迎えさせてくれます。

 チャプターハウスの「パール」に話を戻すと、昔、この曲を最初に聴いたときに、ふと疑問に思ったことがありました。何かと言うと、同年にリリースされたイギリスのロック・バンド、スージー・アンド・ザ・バンシーズ(Siouxsie and the Banshees)の「キス・ゼム・フォー・ミー(Kiss Them for Me)」という曲のリズム・トラックの中に、あまりにも似ている部分があるのは、一体どういうことなのかということでした。

 当時は、その疑問を追求することなく放置して、いつしか忘れてしまっていたのですが、今回こうしてチャプターハウスの「パール」のことを書いていて、ふとそのことを思い出しました。で、せっかくだからついでにと思い、このことを少し調べてみて分かったのは、自分的に予想外の理由でした。

 あ、でもこの話、興味を持ってくれる人はとても少ないような気がします。そもそもこのブログは、自分の備忘録の役目をかねてのものなので、そんなことは気にせず、次回そのことについて続きを書きます。

 最後に、今回調べていて発見したことを一つだけ。エフエム山形のJOEV-FMの高取信哉氏がパーソナリティを務める『西口のレコ屋』という番組で「オリジナルシューゲイザー特集」が組まれていました。しかも比較的最近(2023年2月24日)の放送では、チャプターハウスの「パール」が取り上げられていました。ちなみに、今月(2023年4月)の特集はライド(Ride)になっています。シューゲイザーをよく聴かれていた方はちょっと気になりませんか? ぜひチェックしてみてください。さほどシューゲイザーに詳しくない私もradikoで聴いて、改めて勉強させていただきます!

 

 

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