ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

映画『初体験/リッチモンド・ハイ』のアーケード・ビデオ・ゲーム『テンペスト』――映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』と終末ホラー映画トップ10。

ビデオ・ゲーム  映画  ミュージック・ビデオ   / 2023.04.02

 では、アーケード・ビデオ・ゲーム『テンペスト(Tempest)』の話を始めたいと思います。

 と、いきなり始めたのは、前回の記事で、1982年の映画『初体験/リッチモンド・ハイ(Fast Times at Ridgemont High)』の冒頭に映し出されるアーケード・ビデオ・ゲームの話ができないまま終わってしまったため、今回へと持ち越したからです。

 そもそもアーケード・ビデオ・ゲームの話をしているのは、このブログの記事で、1982年の映画『トロン(Tron)』が、当時のアーケード・ビデオ・ゲームの流行を背景として誕生したというところから始まりました。その流れから、その舞台がアーケードのシーンから始まっている同年の青春コメディ映画『初体験/リッチモンド・ハイ』へと目を向けてみました。そうすることで、いかにアーケード・ビデオ・ゲームが、当時のティーンの日常へとどれほど溶け込んでいたのかを、少し振り返ってみようと思ったわけです。

 すでに前々回、映画『初体験/リッチモンド・ハイ』の中に登場する2つのゲーム――『ゴーフ(Gorf)』と『プレアデス(Pleiades)』――について紹介しました。今回は、同映画のアーケードのシーンで映っている、アメリカのアタリから1981年にリリースされたアーケード・ビデオ・ゲーム『テンペスト(Tempest)』を見ていきたいと思います。

 ここでもう一度、映画『初体験/リッチモンド・ハイ』の冒頭のアーケードのシーンを、以下に掲載しておきます。

映画『初体験/リッチモンド・ハイ』のアーケードのシーン

 ほんの一瞬ですが、確かに『テンペスト』が映っていました。と言っても、当時のビデオ・ゲームに詳しい人でないかぎり、どの画面が『テンペスト』だったか分からないはずです。なので、実際の『テンペスト』のプレイ画面を、まずは以下でご覧ください。

アタリのアーケード・ビデオ・ゲーム『テンペスト』

 爪のような形をした「ブラスター」を左右に動かし、幾何学的な形状を構成する複数のレーンから近づいてくる敵を撃ちまくって破壊する、という単純なゲームです。そして全て破壊すると、プレイヤーはフィールドを下り、その奥の空間に移動し、次のレベルへと「ワープ」します。

 それにしても、めまぐるしく速いスピードでの戦いですね。観ているだけでも非常にスリルを感じます。

 『テンペスト』の考案者デイヴ・サーラー(Dave Theurer)によると、当初は「ファースト・パーソンの『スペース・インベーダー』」を作ろうと思っていたそうです。つまり、プレイヤーの視点から広がるフィールドで行われるシューティング・ゲームにしようとしたわけです。ですが、実際に出来上がってみると、あまり面白いゲームにはならなかったようです。

 そこで変更を加え、今の『テンペスト』への製作に向かうことになるのですが、その際、モンスターたちが地面の穴から出てくるという自身の悪夢から、その着想を得たそうです。

 上記のことは、以下の動画でデイヴ・サーラー本人が語ってくれています。

製作者デイヴ・サーラーが語るアーケード・ビデオ・ゲーム『テンペスト』

  『テンペスト』を改めて見てみると分かりますが、画面上で近づいてくる敵はモンスターではなく、単純で抽象的な形状になっています。ですが、自身の悪夢に由来する穴から出現するというアイデアは、線形の3次元的な空間で戦闘のフィールドを表現した形として実現しているわけです。

 それはそうと、日本のアーケード・ビデオ・ゲーム好きの人たちの中で『テンペスト』の評価はどうなのだろうか、とふと気になったので調べてみると、『おにたま(オニオンソフト)のおぼえがき』の中の2010年5月29日の「ゲームレジェンドにTEMPEST持ち込み」という記事によると、おにたま氏は同年5月23日に開催されたゲーム・レジェントというイベントに参加し、『テンペスト』の「アップライト筐体」を展示されたそうです。

 さらに、おにたま氏が言うには、『テンペスト』は「本国アメリカでヒットしたものの、日本ではほとんど出回っていないため会場で初めて見たという人が大半ではないかと思います」とのこと。

 やはりそうだったのですね。私自身も実際に当時の筐体でプレイした経験はありません。

 また、総合ゲーム情報サイトの4Gamer.net方も覗いてみると、「早苗月 ハンバーグ食べ男」氏の記事「レトロンバーガーOrder 40:嵐の季節だから「Tempest 4000」でぐるぐるする。Atari「Tempest」から37年を経てのシリーズ第4作だよ編」で、『テンペスト』の後継機種について、とても詳しく紹介されていますので、気になる方はどうぞこちらも合わせてお読みください。

 ところで話は変わりますが、トム・エバーハード(Thom Eberhardt)監督の1984年の映画『ナイト・オブ・ザ・コメット(Night of the Comet)』というSFホラー・コメディ映画を、ご覧になったことはありますでしょうか?

  実は、こちらの映画の中でも、プレイ中の『テンペスト』の画面がはっきりと使われています。以下でご覧ください。

映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』の中でアーケード・ビデオ・ゲーム『テンペスト』のがプレイされている場面

 キャサリン・メアリー・スチュワート(Catherine Mary Stewart)が演じるレジーナ・「レギー」・ベルモント(Regina “Reggie” Belmont)が、映画館のロビーに置かれている『テンペスト』を熱中してプレイしています。そして、ハイスコアを獲得し、自身のイニシャル「REG」をゲーム機へと満足気に記録します。

 ここで『ナイト・オブ・ザ・コメット』を観たことがない方のために言っておきます。これは、いわゆるゾンビ映画です。

 恐竜を絶滅させた彗星が、6,500万年ぶりに地球に接近するところから話は始まります。その結果、地球上の人々のほとんどが粉塵かゾンビのどちらかになってしまいます。そして、この世の終わりと化したロサンゼルスの街を舞台に、たまたま生き延びた二人の姉妹(80年代のカリフォルニアのアッパーミドルクラスの典型的なギャル、いわゆる「バレー・ガール(Valley Girl)」)を中心として、ストーリーが展開していきます。

 ついでに言っておくと、チアリーダーの姿をして登場するサマンサ・「サム」・ベルモント(Samantha “Sam” Belmont)を演じるケリー・マロニー(Kelli Maroney)は、『初体験/リッチモンド・ハイ』にも出演していて、そちらでも同じくチアリーダー役のシンディ(Cindy)を演じていました。

 以下に映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』のトレイラーを掲載しておきます。ホラー嫌いという方のために言うと、全編に渡ってスラップスティックに支離滅裂な物語が展開していくコメディ映画ですので、あまり怖くありませんよ。 

映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』のトレイラー

 暗い赤味を帯びた空とゴーストタウン化した都市の光景。それを一目見ただけで、その終末感漂う世界へ引き込まれていってしまう……と言って、共感してくれる方はどれぐらいいるのでしょうか?

 自分でもその理由が分からないのですが、子供の頃から、この世の終わりを描いている映画には、強く引きつけられてしまうのです。そのせいで、その種の映画というだけで、低予算のB級映画であろうが、評判の悪い映画だろうが、つい何でも観てしまいます。

 ちなみに、今(2023年3月26日)から10年以上前(2009年10月26日)の少々古い記事ではありますが、Bloddy Disgusting‘The Top 10 Doomsday Horror Films!’では、『ナイト・オブ・ザ・コメット』が、Chris eggersten氏の選んだ終末ホラー映画トップ10の中の第10位となっていました。

 ちなみに、9位から1位を載せておくと、

9位 『ハプニング(The Happening)』 (2008年)

8位 『SF/ボディ・スナッチャー(Invasion of the Body Snatchers)』(1978年)

7位 『28週後…(28 Weeks Later)』 (2007年)

6位 『プラネット・テラー in グラインドハウス(Planet Terror)』 (2007年)

5位 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(Night of the Living Dead)』(1968年)

4位 『ミスト(The Mist)』 (2007年)

3位 『ゾンビ(Dawn of the Dead)』 (1978年)

2位 『ショーン・オブ・ザ・デッド(Shaun of the Dead

)』 (2004年)

1位 『28日後…(28 Days Later)』 (2002年)

 上記の映画を全て観たという方は、なかなかの終末映画マニアなんじゃないですか? そもそも「終末映画マニア」なんて言葉があるかどうか不明ですが。で、私はと言えば、もちろんもれなく全部見ていますよ。

 念のために言っておくと、映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』は、本国でカルト的な一部の人気があるとはいえ、実際のところ話も何もかもめちゃくちゃですので、普通に映画好きの人が普通に観た場合、まったく面白くなかったと思われてしまいかねません。なので未見の方にお勧めできるかと言われれば、正直なところ、ちょっと気が引けます。

 ですが、先ほど述べた言い方をもう一度使うなら「暗い赤味を帯びた空とゴーストタウン化した都市の光景」、それを目にしただけで、映画へと没入できるという方であれば、もちろんお勧めします。要するに「終末映画」への愛(?)のようなものがある方であれば、それなりに楽しい時間を過ごせるのではないかと思うわけです(たぶん、ですが)。 

 映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』から離れて 『テンペスト』自体の話に戻ります。

 IMDbTempest Connectionsで確認すると、『テンペスト』のプレイ画面が、カナダのロック・バンド、ラッシュ(Rush)の 1982 年のアルバム『シグナルズ(Signals)』の中からのセカンド・シングル「サブディヴィジョンズ(Subdivisions)」のミュージック・ビデオの中にも映っているということなので、実際に観てみました。

 ラッシュの「サブディヴィジョンズ」のミュージック・ビデオはまったく見た記憶がなかったので、改めてじっくり視聴してみました。すると、『テンペスト』の使われ方には、なかなか興味深いものがありました。

 以下に「サブディヴィジョンズ」のミュージック・ビデオを掲載しておきます。4分47秒あたりから、『テンペスト』に熱中している若者たちの姿がプレイ画面とともにはっきりと映ります。

ラッシュの曲「サブディヴィジョンズ」のミュージック・ビデオ

 このミュージック・ビデオは1982年ということもあり、同年の映画『初体験/リッチモンド・ハイ』と同様、ハイスクール、オープン・カーのシート、バー、ショッピング・モールといった場所を背景として、ティーンエイジャーたちの日常の姿が映し出されます。ですが、こちらの方に漂う雰囲気は、曲調からだけでも明らかですが、ハッピーな感じではないですね。

 実際、『テンペスト』をプレイしている若者の表情も無邪気に楽しんでいるというよりも、やり場のないフラストレーションをぶつけているかのようにも見えます。そして、最後には『テンペスト』の「インサート・コイン」と「ゲームオーヴァー」の画面を映し出すことで、どうしようもない空しさが表現されているようにも思われます。

 確かに、ラッシュの「サブディヴィジョンズ」の歌詞へと耳を傾けてみると、その当時の郊外に住んでいるティーンを取り巻く社会環境への風刺と憂鬱が歌われています。例えば、歌の中の一節を取り上げると、

あらかじめ決められた未来(The future pre-decided)
分離され細分化されている(Detached and subdivided)
大量生産品に取り巻かれた中で(In the mass production zone)
夢を見る人、もしくは不適応者には、これほど孤独な場所などない(Nowhere is the dreamer/Or the misfit so alone)

 ここでは、未来へと夢や希望を見出すことのできない若者を取り巻く状況が歌われていますね。その後の歌詞も追っていくと、例えば以下の部分などは、さらに痛烈です。

細別(Subdivisions)
ハイスクールのホールの中で(In the high school halls)
ショッピング・モールの中で(In the shopping malls)
順応するか、さまもければ追放されるか(Conform or be cast out)
細別(Subdivisions)
地下のバーの中で(In the basement bars)
車の後部座席の中で(In the backs of cars)
クールでいるか、さもなければ追放されるか

 こうして歌詞の一部をかいつまんでみると明らかですが、この曲では、80年代の大量消費社会の中の差異化によって絶えることなく生み出される欲望に突き動かされた若者たちが、競争社会に適応するか否かを迫られるとともに、どちらに行ったとしても自身の夢を未来に思い描くことなど決してできないような閉塞感が歌われているわけです。

 ラッシュの「サブディヴィジョンズ」がリリースされたのは、映画『初体験/リッチモンド・ハイ』と同年ですし、ティーンを主題にしている点は共通していますが、両者を比較すると、その時代を見る眼差しが一見対照的なようにも思えます。ですが、どちらにしても、そこに映し出されている若者の姿には、生きることの意味を探し求めることも、大志を抱くことも、ましてや社会変革を訴えることも全く見られないという点では一致しているのではないでしょうか。

 映画『初体験/リッチモンド・ハイ』、映画『ナイト・オブ・ザ・コメット』、ラッシュの「サブディヴィジョンズ」のミュージック・ビデオ。これらはいずれも80年代初頭の典型的なティーンの気分を、それぞれの異なる形で表現しています。ですが、いずれにもショッピング・モールが出てくることから、それがいかにその時代を映し出す象徴的なモチーフであるのかを、改めて強く実感させられます。

 今回こうして書きながらふと思いましたが、80年代をその当時の若者を描いた映像作品から振り返ってみると、よくある言い方かもしれませんが、明るい華やかさと実存的な空虚さの入り混じった雰囲気が、どんな場面であれ、常にそこに漂っているように感じずにはいられません。

 ラッシュの「サブディヴィジョンズ」のシリアスな歌詞に触発されて、つい話題を80年代的なメランコリーへと傾けてしまいました。

 完全に余談ですが、「サブディヴィジョンズ」も含め、ラッシュの曲のほとんどの歌詞を書いているのは、ドラマーのニール・パート(Neil Peart)です。自分で翻訳した本の話になりますが、ジェイソン・ヘラー著『ストレンジ・スターズーーデヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』という本には、70年代後半のラッシュの音楽が、どれほどサイエンス・フィクションの強い影響によって作られていたかが、ニール・パートの創作の過程を中心にかなり詳しく書かれています。

 宣伝になってしまっているのを承知で、あえて言いますが、『ストレンジ・スターズ』は、70年代のロックやファンクも聴くし、かつSF小説や映画も好きという人には絶対お勧めです。当時のロックやファンクなどのミュージシャンたちが、少年の頃からSFが大好きだったこと、そのことが70年代のポピュラー・ミュージックにかなりの影響を与えていたのだということを、改めて強く実感していただけるはずです。

 この辺で今回はひとまず終わりにしますが、次回もまた映画『初体験/リッチモンド・ハイ』の中に出てくる別のアーケード・ビデオ・ゲームやサウンドトラックについて、あれこれ調べながら書いてみたいと思います。

 

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