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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
映画『ビッグ・リボウスキ』の中の邸宅――ジョン・ロートナー設計のシーツ=ゴールドステイン・レジデンスとそのオーナーのジェームス・ゴールドステイン。
前回の予告通り、今回はジョエル・コーエン(Joel Coen)監督の1998年のコメディ映画『ビッグ・リボウスキ(The Big Lebowski)』の中で、ベン・ギャザラ(Ben Gazzara)演じるポルノ映画界の大物、ジャッキー・トリホーン(Jackie Treehorn)の大邸宅について、少し調べて書いてみます。まずはこの映画をご覧になっていない方は、以下のトレイラーからどうぞ。
このトレイラーの中でも今回の主題の大邸宅がちらっと映ってはいます。ですが、そのシーンだけを抜き出した動画があるので、以下で改めてじっくりご覧ください。
前回の記事で書いたように、ヘンリー・マンシーニ(Henry Mancini)のムードたっぷりの曲「ルージョン(Lujon)」がバックに流れていますね。
さらに映画『ビッグ・リボウスキ』の中の静止画でもじっくりご覧ください。以下の画像は、realtor.comの中のJudy Dutton氏の記事‘Dude, Check Out the Mansion Made Famous in ‘The Big Lebowski”から引用しました。
で、『ビッグ・リボウスキ』のこの場面で使われた現実の建物はというと、アメリカの建築家ジョン・ロートナー(John Lautner)が設計し、カリフォルニア州ロサンゼルスのビバリー・クレスト地区に1961年から1963年にかけて建てられたシーツ=ゴールドステイン・レジデンス(Sheats–Goldstein Residence)です。ちょうどビバリーヒルズ市街地から坂を上がっていったところにあるようです。
Los Angels TimesでのChristopher Hawthorne氏の記事‘LACMA gets gravity-defying John Lautner-designed home featured in ‘The Big Lebowski’’によると、このレジデンスは、もともとヘレンとポール・シーツ夫妻と3人の子供たちのために建てられましたが、その後、二人のオーナーを間に挟んだ後、1972年に実業家のジェームス・ゴールドステイン(James F. Goldstein)によって購入され、今に至ります。さらにオーナーとなったゴールドステインはジョン・ロートナーとともに、1994年(ロートナーが亡くなった年)まで、家全体を「完璧」にするための大胆な改良作業を継続したそうです。
では、ここで実物をご覧ください。写真は、archdailyの中のRory Stott氏の記事‘John Lautner’s Goldstein House Gifted to LACMA by its Owner ‘から引用しました。
ご覧の通り、リビング・ルームは屋内と屋外の境界を曖昧にするようなオープン・スペースになっていて、とても解放的です。これこそ1年の大半が温暖な気候である南カリフォルニアならではですね。まったく羨ましいかぎりです。
また、何と言ってもこの写真で目を引くのは、天井の格子状のデザインですよね。dezeenのAlan G Brake氏の記事‘John Lautner’s Big Lebowski porn house gifted to the Los Angeles County Museum of Art’によると、天井は格間に750個の小さな天窓があるコンクリート屋根になっているそうです(天窓については、それが見える別の写真を後ほど掲載します)。
以下の写真をご覧ください。この家を1972年に購入したオーナーのジェームス・ゴールドステインが自邸をバックにして映っています。以下の写真はLos Angeles TimesのChristopher Hawthorne氏の記事‘LACMA gets gravity-defying John Lautner-designed home featured in ‘The Big Lebowski’’から引用しました。
「この長い白髪の男。一体何者なの?」と思ってしまうほど、オーラありまくりの独特の風貌じゃないですか? それこそ、そのまま『ビッグ・リボウスキ』に出演できそうなぐらいのただならぬ雰囲気がありますよね。
このとてもインパクトのある外観から、この人のことが気になって仕方がなかったので調べてみたら、ご本人のウェブサイトがありました。そこに掲載されているどの写真を見ても、いつもカッコいいハットを被り、一見してすぐわかるハイブランドの個性的なファッションで完璧に決まっています。
このジェームス・ゴールドステインという人、本国アメリカでは「ミステリー・マン」として、結構有名な方のようです。さらに調べてみると、Interviewの中に‘Who the Hell is James Goldstein?’(ジェームス・ゴールドステインとは一体何者なのか?)と題したDerek Blasberg氏によるインタヴュー記事もありました。
やはりゴールドステインは謎の富豪らしく、いろいろな噂もあるようで、同インタヴューの中では「トレーラーパークを売って 大金を得たとか、 70年代にポルノ監督をしていたとか? どれが真実なんですか?」とも尋ねられています。ゴールドステインの答えは、いずれにもノーでした。
結局、このインタヴュー記事を読んでも正体はあまり明らかではないのですが、とりあえずスタンフォード大学で数学と物理学を専攻し、UCLAでMBAを取得したということは分かりました。で、財を成したのは、どうも不動産投資関連のようです。
それとバスケット・ボールの超がつくほどのファンであることも分かりました。シーズンには毎日飛行機に乗って見に行くほどで、NBAの関係者の間では知らない人がいないほどの有名人で、試合後の記者会見にもしばしば出席しているそうです。
また、ファッションへの愛も並々ならないものがあるようです。無数のファッション・ショーの常連でもあり、友人でもあるジャン・ポール・ゴルチエに「彼はファッションへの真の愛を持っている」と言われるほどだそうです。同インタヴューで「お気に入りのデザイナーは誰ですか? 今日はガリアーノを着ているのは分かりますが」と尋ねられて、「その通り。ジョン・ガリアーノは大好きだよ。グッチ、ディオール、ロベルト・カヴァッリも買うね。ドルチェ&ガッバーナも時々買うかな」とも答えています。
オーナーのジェームス・ゴールドステインという人が、つい気になって仕方がなかったので、本題自体から逸れてしまいまたしたが、同インタヴューには建築と関係ある話も出ていました。それによると、ゴールドステインは建築家のフランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)から大きな衝撃を受けたそうです。
実はゴールドスタインが購入した今回の邸宅を設計したジョン・ロートナーは、建築がお好きな方ならご存じかもしれませんが、若い頃にフランク・ロイド・ライトのもとで学んだ人なのです。フランク・ロイド・ライトについては、このブログでも映画との関連で少し前に数回にわたって話題にしました。ちなみに、1943年にジョン・ロートナーは、ロイド設計のエニス・ハウス(Ennis House)のリデザインの監督を務めています(エニス・ハウスについては、以前の「映画の中のフランク・ロイド・ライト設計のエニス・ハウス」という記事の中で触れています)。
さて、ここでリビング・ルームの中を少し覗いてみましょう。以下の2枚の写真はいずれもADのMayer Rus氏の記事‘Tour John Lautner’s Historic Sheats-Goldstein House’から引用しました。
このアングルからの眺めは『ビッグ・リボウスキ』にはなかったので、想像もできなかったと思いますが、遠くにロサンゼルスの夜景が広がっているのが見えますね。
以下のリビング・ルームの写真では、先ほどちらっと述べたように、天井には小さな天窓がついているのが分かります。
『ビッグ・リボウスキー』でジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges)演じるジェフリー・“デュード”・リボウスキ(Jeffrey “The Dude” Lebowski)が、カクテルのホワイト・ルシアンの入ったグラスを手に持って、ふんぞりかえって座っていた70年代を思い出させるソファーも見えます。ガラスとコンクリートのテーブル、そしてそれを取り巻く形に配置されたクッションをレザーで覆ったソファーも、ジョン・ロートナーによってデザインされたとのことです。建物自体の幾何学的な形状が、この家具の方でも繰り返されているわけです。
1994年に建築家ジョン・ロートナーは亡くなってしまいますが、その後もゴールドステインはロートナーの弟子であるダンカン・ニコルソン(Duncan Nicholson)とともに、建物をさらに増設しています。nprの中のSusan Stamberg氏の記事‘This House Is A Work Of Art, So The Owner Is Donating It To A Museum’によると、その建物内の「クラブ・ジェームス」と名付けられたナイトクラブでは、シンガーソングライターで女優のリアーナ(Rihanna)の27歳の誕生日パーティー(ジェイ・Z、ミック・ジャガー、レオナルド・ディカプリオなども出席したとのこと)を始め、セレブリティの集まるさまざまなパーティも行われているようです。また、2016年のグラミー賞の前のパーティーも、そこで開かれたそうですよ。
以下の動画では、ジェームス・ゴールドステイン自身の語りとともに、上記の写真以外のシーツ=ゴールドステイン・レジデンスの各所が見られますので、ぜひともご覧ください。
ゴールドステイン氏、この動画の中の落ち着いた語り口から判断すると、はじけた感じの単なるパーティ好きの人とはまったく違う感じの人でした。その派手な外見とは異なり、むしろ物静かな雰囲気の人物であるという印象がありました。しかも彼の話からは、この家や建築そのものへの愛情もしっかりと伝わってきます。
もう一つ以下の動画もよろしければ。こちらは建物そのもというよりも、ゴールドステイン自らが自身のことを語っています。ですが、こちらの動画にも建築的な見どころがあります。その一つは、1分25秒あたりのところで、ベッドルームの中で画面に背を向け、ロサンゼルスの景観を眺めながら、「私はチャンレジを喜んで受け入れるよ」と語るゴールドステインの前のガラスの扉が、自動で左右に開いていく場面です。
白いハットと白いパンツの後ろ姿。まるで映画のシーンのようじゃないですか?
この動画の途中で、クラシック・カーを本人が運転している姿が映っています。調べてみたところ、彼が自身で運転して日常使いしているというこの車は、1961年製のロールス・ロイス・シルヴァー・クラウド(Rolls-Royce Silver Cloud)のドロップヘッドのクーペでした。すごくないですか? だって、こんな車を日常使いですよ! 維持費もすごくかかりそうなのに。
以下は、ジェームス・ゴールドステインの家のガレージに停まっているご本人の愛車の後ろ姿です。The Driveの中のBrett Berk氏の記事‘Los Angeles Museum Inherits a Classic Rolls-Royce Convertible’から引用しました。
同記事によるとゴールドステインは、この1961年製のロールス・ロイスを、この家を購入する前の年に買ったそうです(ということは、1971年のことですね)。この車について、本人は次のようにも述べています。「それ以来、私の唯一の車になっている。私が運転したい唯一の車なんだよ」。
ビバリーヒルズ周辺のお金持ちと言えば、高級車を何台も所有しているイメージがありますよね。ですが、このクラシック・カーを本当に愛して長年大事にしているという点で、ゴールドステインさんの好感度が勝手にすごく上がってしまいます。
ちなみにですが、ジェームズ・ボンド・シリーズの14作目の1985年の映画『007/美しき獲物たち(A View to a Kill)』にも、ロールス・ロイス・シルヴァー・クラウドが登場します。今思いましたが、映画の中に登場する名車とかについても、そのうちいろいろと書いてみたいところです。以下の『007/美しき獲物たち』の一場面をご覧ください。ロジャー・ムーア演じるジェームズ・ボンドがロールス・ロイス・シルヴァー・クラウドの後部座席から降りてきます。
さて、シーツ=ゴールドステイン・レジデンス自体の話に戻します。実のところ、映画やドラマの中でシーツ=ゴールドステイン・レジデンスが見られるのは、『ビッグ・リボウスキ』だけではありません。例えば、マックG(McG)監督の2003年のアメリカの映画『チャーリーズ・エンジェル; フルスロットル(Charlie’s Angels: Full Throttle)』の撮影場所にも使われています。
映画ではありませんが、ラッパーのファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)をフィーチャリングしたスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)の2004年にリリースされた曲「レッツ・ゲット・ブロウン(Let’s Get Blown)」のミュージック・ビデオの撮影にも使われています。そのビデオでは、先ほどのジェームス・ゴールドステインの動画の1分25秒あたりで観られたベッドルームの開いていく窓もばっちり映っています。
ということで、次回はそれらも含めて、ジョン・ロートナー設計のシーツ=ゴールドステイン・レジデンスが登場する、その他の映画や映像などについて、もう少し調べて書いてみたいと思います。
最後によろしければ、トロントのラグジュアリーなライフスタイル・マガジン『ドルチェ(DOLCE)』誌がジェームス・ゴールドステインを『ミスターLA――エキセントリック・ミリオネア&スタイル・アイコン(JAMES GOLDSTEIN “MR. L.A.” – THE ECCENTRIC MILLIONAIRE & STYLE ICON)』として紹介している動画をご覧ください。家の各所を本人が語っていて、これもなかなか面白いですよ。
先ほど言及したセレブリティの集まる「クラブ・ジェームス」やロサンゼルスを見渡せる屋外のテニス・コートなども出てきました。それにしてもゴールドステインさん、いろいろと注目の人なんですね。
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