ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。

『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』

ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のミーリーンの宮殿のデザイン――フランク・ロイド・ライト設計のエニス・ハウスとホリーホック・ハウス

インテリア  建築  テレビ・シリーズ   / 2022.11.20

 HBO製作の大人気テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』。2011年から始まって2019年までですから、なんとも長大でした。さらにまた2022年8月から、その前日譚『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン(House of the Dragon)』も始まりました。

 とか言ってはみたものの、実は私自身、『ゲーム・オブ・スローンズ』を、いまだ全話通して観たわけではありません。ですが、前回と前々回、同じくHBO製作のテレビドラマ『ウエストワールド』のシーズン2で、かのフランク・ロイド・ライトの設計した「ミラード・ハウス」が使われていたことについて書いた流れから、今回は『ゲーム・オブ・スローンズ』の架空の都市ミーリーンの宮殿のデザインに目を向けてみることにしました(前回の途中で述べましたが、実はミーリーンの宮殿のデザインには、フランク・ロイド・ライトからの影響があるからです)。

 まずは『ゲーム・オブ・スローンズ』のミーリーン宮殿のシーンをご覧ください。画像は、FRANK LLOYD WRIGHT FOUNDATION‘Game of Thrones Set Designer Finds Inspiration in Frank Lloyd Wright’s Work’から引用しました。

『ゲーム・オブ・スローンズ』のミーリーン宮殿(Photo courtesy of Helen Sloan/HBO)

 確かに、ミーリーン宮殿のデザインの要として、フランク・ロイド・ライトのファンの方なら一目で分かる、テキスタイル・ブロックや幾何学的なステンドグラスなど、ライト特有のモチーフが見られますね。

 季刊誌『フランク・ロイド・ライト・クォータリー(Frank Lloyd Wright Quarterly)』の2019年春号の「タイムレス――フランク・ロイド・ライト+現代のポップ・カルチャー(Timeless: Frank Lloyd Wright + Contemporary Pop Culture)」でのインタヴューで、『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン4からプロダクション・デザイナーを務めたデボラ・ライリー(Deborah Riley)氏が、いかにライトの作品から着想を得たかを語っています。また、FRANK LLOYD WRIGHT FOUNDATION‘Game of Thrones Set Designer Finds Inspiration in Frank Lloyd Wright’s Work’には、その抜粋が掲載されています。

 ちなみに、デボラ・ライリー氏は、オーストラリア出身のプロダクション・デザイナー、アート・ディレクターです。『ゲーム・オブ・スローンズ』以前には、映画『マトリックス(The Matrix)』(1999年)のセット・デザイナー、『アンナと王様(Anna and the King)』(1999年)のアシスタント・アート・ディレクター、『ムーランルージュ(Moulin Rouge)』(2001年)のアシスタント・アート・ディレクター、『21グラム(21 Grams)』(2003年)のアート・ディレクターを務めています。また、2000年のシドニー夏季オリンピックの開会式の演出も担当しています。そして、2015年には『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン5の第3話「雀聖下(High Sparrow)」で、プロダクション・デザインの部門でエミー賞(Outstanding Production Design For A Narrative Contemporary Or Fantasy Program (One Hour Or More))を受賞しています。

 前述のインタヴュー記事でライリー氏は、ミーリーン宮殿を製作する際、フランク・ロイド・ライトの設計したエニス・ハウス(Ennis House)とホリーホック・ハウス(Hollyhock House)から着想を得たと述べています。

 では、まずエニス邸の方からご覧ください。画像は、AD‘Frank Lloyd Wright’s Ennis House Is Officially the Most Expensive Wright-Designed Home Ever Sold’から引用しました。

フランク・ロイド・ライト設計のエニス・ハウス

 荒っぽい印象を与えがちなコンクリートの壁面が、テキスタイル・ブロックになっていることと幾何学的なパターンの装飾のあるガラスのおかげで優雅な雰囲気となり、かつ置かれている木製の家具とラグのおかげで、全体として落ち着く佇まいとなっていますね。しかも、丘の上に建てられているので見晴らしも良く、窓から見える景色を想像するだけで、心がどこまでも広く解き放たれそうな気持になります。

 ここでエニス・ハウスからの見事な夜景もご覧ください。テキスタイル・ブロックと都会の光との対比が、古代と未来が同時に存在するかのような不思議な美しい世界を作り出しています。以下の画像はFLANK LLOYD WRIGHT FOUNDATIONから引用しました。

フランク・ロイド・ライトのエニス・ハウス

 続いてホーリック・ハウスもご覧ください。画像は、THE JOURNALISTの中のLizbeth Scordo氏の記事‘A look inside Frank Lloyd Wright’s Hollyhock House’から引用しました。

フランク・ロイド・ライト設計のホリーホック・ハウス

 こちらの写真は、どことなくアジア的な雰囲気すら感じませんか? 勝手な想像ですが、ハリウット映画の中に登場する古代史や考古学の研究家が住んでそうにも思えます。太古世界への探求の飽くなき情熱に突き動かされ、古代文字の解読などに集中している姿が想像できます。

 それにしても、ロイドのこうした建築がミーリーンの宮殿のデザインに影響を与えているのは一目瞭然ですね。前述のフランク・ロイド・ライト・ファウンデーションの季刊誌のインタヴューの中で、デボラ・ライリー氏は、ミーリーン宮殿のセットをデザインするに当たって、数年前にメキシコシティを訪れときにマヤのピラミッド建築を撮影した写真を見返していたときに、「ふとフランク・ロイド・ライトと1920年代のマヤ・リバイバル期を思い出したのです」と述べています。

 ライリー氏が述べている「マヤ・リバイバル期(Mayan Revival Period)」というのは、1920年代から1930年代にかけてアメリカで流行した建築様式のことで、その名が示唆するように、コロンブス以前のメソアメリカ文明の建築や装飾を模倣したデザインが取り入れられています。エニス・ハウスもホリーホック・ハウスも、まさにマヤ・リバイバル期に設計された建物です。前者は、1924年にカリフォルニア州ロサンゼルス近郊のロス・フェリズに、ホリーホック・ハウスは1921年に同じくロサンゼルス近郊のイースト・ハリウッド建てられています。ちょうどこれらが建てられたのは、いわゆるアール・デコの時代の頃ですね。

 ちなみに、フランク・ロイド・ライト設計で1923年に竣工した東京都千代田区の帝国ホテルの「ライト館」もマヤ・リバイバル期の様式に則り、メソアメリカのピラミッドの形をしていました。残念なことにも、ライト館は1967年11月15日に閉鎖され、翌年の3月までに取り壊されてしまいました。ただし、資材は保管され、その後の1985年に愛知県犬山市の博物館明治村に中央玄関のみが再建されたましたので、建築好きの方ならご存じのように今でも見ることができます。以下の画像は、博物館明治村のウェブサイトから引用しました。

博物館明治村に再建されたフランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルの中央玄関

 ところで、先ほどの『ゲーム・オブ・スローンズ』のミーリーン宮殿内の場面には、古代風のチェアが使われていました。チェアがもっとはっきり写っている別の写真を見てみましょう。画像はADの中のJordi Lippe-Mcgraw氏の記事‘Frank Lloyd Wright Inspired This Game of Thrones Set’から引用しました。

『ゲーム・オブ・スローンズ』のミーリーン宮殿(Photo: Helen Sloan/HBO)

 こうしたアンティークな趣のあるチェアが好きな人は、現代でも意外と多いみたいです。改めて調べてみると、このタイプのチェアは、かなりの種類が今もなお商品として販売されています。例えば、1stDibsでは「デンマークのサヴァナローラ・スタイルと「ゲーム・オブ・スローンズ」タイプのチェアのペア(’Pair of Danish Savonarola style and ‘Game of Thrones’ type Chairs)」と題した以下のチェアが販売されていました。画像は同サイトから引用しました。

デンマークのサヴァナローラ・スタイルと「ゲーム・オブ・スローンズ」タイプのチェアのペア

 このチェアのようにX字型のフレームを持つチェア、いわゆる「Xチェア(X-chair)」は、かつて古代エジプト、古代ギリシャ、古代ローマの頃から使用されていたようです。とりわけイタリア・ルネサンス期に作られていた、この折りたたみ式のチェアは、今では15世紀後半のイタリアのドミニコ会の修道士ジローラモ・サヴォナローラ(Girolamo Savonarola)にちなんで「サヴォナローラ・チェア(Savonarola Chair)」とも呼ばれています。 

 現代の日本の一般的な住宅には、なかなか合わせずらいタイプのチェアだとは思いますが、『ゲーム・オブ・スローンズ』の熱心なファンの方なら、ちょっと欲しくなりませんか? 1stDibsで「サヴォナローラ・チェア」を検索すると、他にもいろいろ出てきますよ。気になる方は、ここを見てください。

 それはそうと『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するシグネチャーともなっているチェアと言えば、以下の「鉄の玉座」ですよね。画像は、Voxの中のEmily St. James氏の記事‘Who won the Game of Thrones — and why it matters — explained’から引用しました。

『ゲーム・オブ・スローンズ』の鉄の玉座

 この『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界観を象徴するすさまじいチェア、調べてみると、なんと等身大のレプリカが売られていて驚きました。アメリカのテキサス州のPrimeandPrecisionが、Etsyで販売しています。ただし、レプリカのチェアの方は鉄ではなく、木とプラスチックで作られています。商品の説明によると、「頑丈でしっかりしていて」、「本物らしく見えるだけでなく、座り心地もよい」とのことです。気になる方は、こちらをどうぞ。

 この「鉄の玉座」のレプリカを普通の日本の家に置くのはさすがに難しそうですが、『ゲーム・オブ・スローンズ』の熱心なファンの方であれば、自宅にその世界観をちょっと取り入れて見たくはありませか? そんな人であれば、オンラインのデザイン会社Modsyによって2019年にデザインされた『ゲーム・オブ・スローンズ』からインスパイアされた5つの部屋のインテリアが参考になりそうですよ。その中でも個人的に最も目を引き付けられたのが「ホワイト・ウォーカー」から着想を得た以下の部屋です。以下の画像はapartment therapyの中のMAGGIE FREMONT氏の記事‘5 Interiors Inspired by Your Favorite ‘Game of Thrones’ Characters’から引用しました。

 

『ゲーム・オブ・スローンズ』のホワイト・ウォーカーから着想を得たインテリア・デザイン

 いかがですか? 家具全体がシンメトリックに配置されていて、中心部の天井から吊るされたシャンデリアが、いわゆるフォーカル・ポイントとなっていますね。また、ただ単独で置いてあるだけだど少々平凡になりがちなモダンな二つのソファーのサイドに置かれた二つの木のサイドテーブルが、いわゆる「ラスティック」な感じを加味しているのもいいですね。しかも厚手のラグがふんだんに使われているため、「ホワイト・ウォーカー」にふさわしく冷たい色調の部屋なのにもかかわらず、暖かな印象も与えてくれます。日本の住宅でも少し天井を高め(3メートルぐらい)に作ってもらえれば、ある程度、この感じは再現できそうな気がします(それに加えて欲を言えば、窓の形は日本の住宅に多い横長ではなく、縦に高さがある方が断然合いますね)。

 ちなみに、ここで使われているシャンデリアは、west elmで販売されている’Grand Waterfall Cascading Chandelier’という商品です。上記の写真だとわかりずらいですが、商品説明によるとシャンデリアは鉄とガラスで作られています。以下の画像は、west elm商品ページから引用しました。

 さらに中央のテーブルですが、こちらはZ GALLERIEで’Sequoia Coffee Table’という商品名で販売されています。以下の画像はZ GALLERIE商品ページから引用しました。

 商品説明によると、テーブルの下の有機的な脚の部分は、樹脂を多段階で成型し、銀箔で仕上げたそうです。

 写真の中央奥に置かれている二脚のファーのチェアもZ GALLERIEで’Axel Fur Accent Chair’という商品名で販売されています。以下の画像はZ GALLERIE商品ページから引用しました。

 Modsy社は、他にもスターク家、ターガリエン家、ラニスター家、タイレル家からインスパイアされた4つの部屋をデザインしているので、気になる方は、こちらをご覧ください。

 いつものように話が本題から大きく逸れてしまいましたが、今回取り上げたフランク・ロイド・ライト設計のエニス・ハウスは、『ゲーム・オブ・スローンズ』だけでなく、それ以前の有名な映画にも着想を与えています。次回は、エニス・ハウスを中心として、それと関連する映画について書いてみたいと思います。

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