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ブログについて
映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。
執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)
ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。
ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』
ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』
デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』
サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』
TVドラマ『ウエストワールド』の中の建築(6)――フランク・ロイド・ライトのミラード・ハウス
インテリア 建築 テレビ・シリーズ / 2022.10.26
アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright, 1867-1959)は、日本でも建築やインテリアが好きな人には、「近代建築の巨匠」などの言い方で良く知られていますね。
実際、日本にも1923年に竣工した東京都千代田区の帝国ホテルの「ライト館」を始め、東京都世田谷区の旧林愛作邸(1917年)、兵庫県芦屋市の旧山邑邸(1923年)、東京都豊島区の自由学園明日館(1926年)といったライトの設計した建物も、近代建築好きの人たちの重要スポットになっていますね。
それに建物だけじゃなくて、ライトのデザインした照明や家具なども、いまだ日本でも根強い人気があるようです。ライトが自宅のために1925年にデザインしたテーブル・ランプの「タリアセン1(Taliesin1)」、1933年のフロア・ランプの「タリアセン2(Taliesin2)」、同年のテーブル・ランプの「タリアセン3(Taliesin3)」などは、日本でも結構いろいろなところで使われているのを目にします。以下の「タリアセン」の画像はいずれもFRANK LLOYD WRIGHT STOREから引用しました。
確かに、形も質感も、日本の一般的ないわゆる「和モダン」的な家に置いてもしっくりくる感じですよね。日本ではヤマギワがフランク・ロイド・ライトの照明を取り扱っているので、普通に購入可能です。他にもいろいろあるので、ぜひヤマギワのオンライン・ストアでご覧ください。
ここで個人的な好みをあえて言うならば、ライトのプロダクト・デザインの中では、上記の照明よりも、1949年の「タリアセン1チェア」と呼ばれるチェアが断然好きです。以下の画像は、arch dailyの‘Frank Lloyd Wright’s Taliesin Chair to Come Back in Production’から引用しました。
実はこの画像のチェアはオリジナルではなく、イタリアの家具ブランドのカッシーナがフランク・ロイド財団とのコラボレーションによって、2018年に新たなヴァージョンを限定商品として復刻したチェアです(以前にも一時期(1986年から1990年)、カッシーナは「タリアセン1チェア」を製造していました)。この2018年のヴァージョンでは、ミッドナイト・ブルー、ペトロール・グリーン、バーガンディの各色が150脚ずつ限定発売されました。
一枚の合板を折り曲げて作られた形状が日本の「折り紙」を思わせることもあることから、「オリガミ(Origami)」ともしばしば呼ばれていますあるようです。それにしても木工品なのにもかかわらず、幾何学的な形状のために、未来的な感じがしませんか? この感じが個人的にはツボなのです。
このチェアのオリジナルは、アリゾナ州スコッツデールのマクダウェル山脈の砂漠のふもとに、ライトが1937年に設計した冬季の別荘兼スタジオである「タリアセン・ウェスト(Taliesin West)」のために、1949年にデザインしました。そして、そのガーデンルームに実際に配置されました。建物の形状と完璧にマッチした以下の写真の中のオリジナルのチェアをご覧ください。画像はFRANK LLOYD WRIGHT FOUNDATION内の‘Taliesin West is Frank Lloyd Wright’s desert laboratory in Arizona’から引用しました。
ところで、カッシーナの新ヴァージョンは、オリジナルに欠けていた座り心地を改良するために、リクライニングを深くし、毛足の短い革張りの下に厚いパッドを敷いたそうです。というのも、realtor.comの中のWhitney Coy氏の記事‘Is This Frank Lloyd Wright Chair a Pain in the Butt’を読むと、オリジナルの「タリアセン1チェア」は、座り心地に関しては、あまり良くなさそうです。Coy氏は、タリアセン1チェアをデザインしたのが、家具デザイナーではなく建築家だったことが問題だと述べ、次のように辛口な評価を下しています。
「タリアセン1がゴージャスな家具であることは誰も否定しないが、機能的かどうかという点についてはかなりの議論がある。ここでの真の問題は、そでが家具デザイナーではなく、建築家によってデザインされたということなのかもしれない……タリアセン1を自宅に置きたいか? それは、あなたがライトの作品をどれだけ評価しているか、そして詰まるところ、快適さの問題をどれだけ快く許容できるかということに尽きる」。
ロイドについてたらたらと脈絡なく書いてきましたが、気がついてみれば、まだ前置きで、本題の『ウエストワールド』の話には入っていませんでした。ですが、もう一つだけ。20世紀の建築史の本には必ず登場するライトが設計したあまりにも有名なペンシルベニア州南西部のローレル高地にある「フォーリングウォーター(Fallingwater)」と呼ばれている(日本では「落水荘」としても知られている)エドガー・J・カウフマン (Edgar J. Kaufmann)のための邸宅も一度は観光で訪れてみたいものです。以下のフォーリングウォーターの画像は、FRANK LLOYD WRIGHT FOUNDATIONの‘Fallingwater’から引用しました。
「フォーリングウォーター」は、2019年に「フランク・ロイド・ライトの20世紀建築(The 20th-Century Architecture of Frank Lloyd Wright)」として、先ほどの「タリアセン・ウェスト」とともにユネスコ世界遺産となった8つの建物の一つにもなっています。見ているだけで、流れる滝の音が聞こえてくる感じがして、いわゆる自然と融合した暮らし的なものが想像できますね。
ちなみに、1959年のアルフレッド・ヒッチコック監督の映画『北北西に進路を取れ(North by Northwest)』でジェームズ・メイソン演じる悪役フィリップ・ヴァンダムの豪華なモダニズムの家は、ライトのこの「フォーリング・ウォーター」に着想を得たことも有名です。以下の『北北西に進路を取れ』の中のヴァンダムの家の画像は、Production Designers Collectiveの中の記事‘Connecting The Dots – THE VANDAMM HOUSE in ‘North By Northwest’’から引用しました。
同記事は、『北北西に進路を取れ』を「モダニストの建築の洗練と豪華さを率直に強調した最初の映画の一つ」であり、「成功した悪役のスタイルに最適なものとしてモダニズムを定着させた」と評しています。しかも、それが後にボンド映画、すなわち007シリーズの悪役の「トレードマーク」となったとのことです。このあたりのことは、個人的にとても興味をそそられる話なので、また機会を改めて掘り下げてみたいと思います。
で、ようやく本題に入ります。今回は『ウエストワールド』の中に登場するフランク・ロイド・ライトの設計した建物について調べてみました。
以下のシーンに映っているのは、『ウエストワールド』のシーズン2のエピソード7に登場するアーノルドの自宅です。
フランク・ロイド・ライトの熱心のファンの方、あるいは近代建築に詳しい方なら、コンクリートのブロックの特徴的な意匠を見た瞬間に、もしやこれはロサンゼルス周辺にライトが設計した4つのテキスタイル・ブロック・ハウスのどれかなのでは、と閃かれたのではないでしょうか。ちなみに、テキスタイル・ブロック(textile block)というのは、型にコンクリート混合物を流し込んで同形のものを作り、そのコンクリートのブロックを鉄筋で補強し、積み上げて壁を作るというライトが1920年代初頭に考案した独自の建築方法です。
さて、実際の建物はと言うと、ライトの設計した有名なテキスタイル・ブロック・ハウスの一つミラード・ハウス(Millard House)です(ラ・ミニアトゥーラ(La Miniatura)とも呼ばれています。日本ではミラード邸とも呼ばれています)。1923年にカルフォルニア州のパサディナに建てられました。
この家を設計するに際して、ライトは当時の新しい建築材料としてのコンクリートをうまく生かすことに目をつけたようです。IN HABITATでのDiane Pham氏の記事’Frank Lloyd Wright’s Iconic “La Miniatura” Millard House Hits the Market for $4.5 Million in Pasadena, California’によると、ライトは「建築界で最も安価で(そして最も醜い)もの」から美しいものを生み出すこと」、そして「同じ材料で低コストの新しい柔軟な建築方式を開発すること」に挑戦したそうです。
以下の写真は、ドラマの中のではなく本物です。以下の2点の画像は、HOME DESIGNINGの中の’Frank Lloyd Wright’s Millard House For Sale’という記事から引用しました。
外壁に近づいた写真で、特徴となっているブロックの柄も見てみましょう。
前述の記事によると、「その敷地にある砂や砂利や鉱物を使ってアーストーンのコンクリート」にすることで、ライトは「建物を自然の景観と融合」させようと意図しました。また、中央に十字があり、各隅に四角形から構成されるブロックで繰り返されているパターンは、「プレ・コロンビアンのモチーフを現代的にした」ものだそうです。さらに、「大量生産されたブロックへ装飾的なデザインを施すこと」ことの狙いとしては、コンクリートが「建築上の美しさの中で大きな多様性を可能にする石造建築の基礎構造」にすることがあったとのことです。
それにしても、最近の日本の住宅で使われている外構用の一般的な安価なブロックは、なんだか味気ないものが多いと思いませんか? 家自体の外壁は無理としても、せめて敷地を囲む外構の部分だけでも、この種の幾何学的なデザインのブロックにしてみたいものです。
それで思い出しましたが、これから家を建てる方、あるいは外構工事をされる方、沖縄独自で使われている建築資材の「花ブロック」を使ってみるのもアリかもですね。以下の画像は、『中川政七商店の読みもの』の小俣荘子氏の記事「「花ブロック」は何が優れているのか?専門家に聞く特徴と歴史」に掲載されている武安弘毅氏の写真を引用させていただきました。
花ブロックを製造販売されている沖縄の会社「山内コンクリート・ブロック」のウェブサイトを見ると、県外からの注文もできるみたいですし。同サイトによると百種類ぐらいあるみたいです。「花ブロックて何?」と気になる方は、前述の「「花ブロック」は何が優れているのか?専門家に聞く特徴と歴史」を、ぜひお読みください。
ところで、ライトの「ミラード・ハウス」の外観は、SFテレビドラマの『スター・トレック――ディープ・スペース・ナイン(Star Trek: Deep Space Nine)』のシーズン2の第39話「血の誓い(Blood Oath)」(本国アメリカでは1994年3月27日に放送)でも、 使われています。画像はTREKNOBABBLEの中の‘Deep Space Nine, Season 2: Blood Oath’から引用しました。
ご覧の通り、クリンゴン戦士たちの背景には、前述の「ミラード・ハウス」の「プレ・コロンビアンのモチーフを現代的にした」デザインのコンクリート・ブロックが、ばっちり映っていますね。
それはそうとして、家の中はどうなっているのでしょうか? ちょっと長くなってしまったので、次回に改めて。
最後に、お勧めの書籍を一冊だけ紹介しておきます。フランク・ロイド・ライトの建築に関心があられる方は、すでにお持ちかとは思われますが、ライトの建築を紹介したFrank Lloyd Wright Building Conservancy, Joel Hoglund, Wright Sites: A Guide to Frank Lloyd Wright Public Places, Princeton Architectural Pressが、斎藤栄一郎氏の訳で『フランク・ロイド・ライト 最新建築ガイド』(エクスナレッジ、2018年)と題して出版されています。もちろん、他にもロイドに関する日本語の良書はあります。ですが、もし実際にライトの建築を見に行く場合、まずは事前の予習として同書をお勧めしておきます。
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