ブログについて

映画やTVドラマなどを観ていて、その中で流れてくる音楽、撮影に使われた建築やセットのデザイン、舞台の背景となるインテリア、登場人物が手にしているガジェットやプロダクトなどが気になったことはありませんか?
このブログでは、映画やTVドラマの中に登場するさまざまなものを調べて紹介していきます。そうしたものにも目を向けてみると、映画やTVドラマが今まで以上に楽しくなるはずです。映画、TVドラマ、音楽、建築、インテリアのどれかに興味がある方に、また自分と同じようにそのどれもが寝ても覚めても好きでたまらないという方に、面白いと思ってくれるような記事を発見してもらえたらという思いで書いています。


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執筆者:伊泉龍一(いずみりゅういち)

ブログ以外には、以下のような書籍の翻訳をしたり、本を書いたりもしています。

『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』

ドン・ラティン著 伊泉 龍一訳
『至福を追い求めて ―60年代のスピリチュアルな理想が 現代の私たちの生き方をいかに形作っているか』


60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール
ロバート・C・コトレル 著 伊泉 龍一 訳
『60sカウンターカルチャー ~セックス・ドラッグ・ロックンロール』


ドン・ラティン 著
『ハーバード・サイケデリック・クラブ ―ティモシー・リアリー、ラム・ダス、ヒューストン・スミス、アンドルー・ワイルは、いかにして50年代に終止符を打ち、新たな時代を先導したのか?』



デヴィッド・ヘップワース 著
『アンコモン・ピープル ―「ロック・スター」の誕生から終焉まで』



サラ・バートレット 著
『アイコニック・タロット イタリア・ルネサンスの寓意画から現代のタロット・アートの世界まで』



ジェイソン・ヘラー 著
『ストレンジ・スターズ ―デヴィッド・ボウイ、ポップ・ミュージック、そしてSFが激発した十年』



ピーター・ビーバガル 著
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ -いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』

TVドラマ『ウエストワールド』の中の建築(5)――建築家リカルド・ボフィル設計のラ・ファブリカ

インテリア  建築  テレビ・シリーズ   / 2022.10.12

 前回の記事で取り上げた『ウエストワールド』のシーズン3で撮影に使われたスペインのバレンシアの芸術科学都市には、近未来の巨大なテック系の本社の舞台とするにはふさわしく。アップル製品を連想させる白色の施設が立ち並んでいました。今回はそれとは一転して、豊かな緑樹に包まれたスペインのもう一つの撮影場所を調べてみました。

 以下には『ウエストワールド』シーズン3でタンディウエ・ニュートン演じるメイヴ・ミレイが映っていますね。ここはヴァンサン・カッセル演じるアンゲロン・セラックの「ファクトリー(The Factory)」と呼ばれる秘密の屋敷の中です。画像は『Sceenit』の「La Fábrica: WESTWORLD」から引用しました。

『ウエストワールド』シーズン3の「ファクトリー」

 この撮影場所がどこなのかを調べてみたところ、バルセロナ郊外のサン・ジュスト・デスベルンにある建築家リカルド・ボフィル(Ricardo Bofill)の自宅兼スタジオの「ラ・ファブリカ」でした。『House and Garden』の記事「Remembering architect Ricardo Bofill and La Fábrica, the cement factory that became his astonishing home」に詳しく述べられていますが、この場所はボフィルが1973年に見つけて改築する以前は、スペインで最も古いセメント工場の一つでした。

 『ELLE DECORATION』の中のDOMINIC BRADBURY氏の記事「LA FÁBRICA IS AN ENDURING REMINDER OF ARCHITECT RICARDO BOFILL’S MASTERY OF MONUMENTAL BUILDS」の中で引用されているボフィル自身の言葉によると、「廃墟と修道院の中間のようなものを作りたかったのです」。また「放置され、半ば廃墟と化した建造物は、驚くべき超現実的(surereal)な要素が入った魔法の箱だったのです」。

 それが今や四方をヤシ、オリーブ、ユーカリの木が茂る緑豊かな庭園に囲まれた快適な自宅兼仕事場になっているわけです。確かに『ウエスト・ワールド』で上記の画像のシーンを観ていたときも、この緑豊かな隠れ家は、ヤシのおかげか、どこか暑い南国のリゾート地を想像してしまいました。

 また上記の『ウエストワールド』の画像に映っている上部にある非常に印象的な大きな鐘のようにも見える物体は、元々の工場だったときものをそのまま残しているようです。以下が実際の写真です。写真は『designboom』の「la fabrica – ricardo bofill’s time capsule factory renovation」から引用しました。

「ラ・ファブリカ」

 この建物が産業用だった頃の面影を残す未加工のままの古い部材などがあっても、ご覧の通り、全体的なインテリアの仕上がりは非常に落ち着く雰囲気となっていますね。『domus』の中のJuli Capella氏の記事「Ricardo Bofill and the continuous transformation of La Fábrica」の中では、ボフィルの次のような言葉が引用されています。 

 「採用したアプローチはミニマリスティックで非常にシンプルで、使っているのは安価な素材です。私は自分のデザインがラグジュアリアスに見えることを好みません。ラグジュアリーはライフスタイルから、空間それ自体からもたらされます。高価な素材を使うこととは関係ありません。プチブルジョアジーによって従来的に好まれる家を、私は好きになったことがないのです」。

 『ウエストワールド』のシーズン3での「ラ・ファブリカ」の別の場面をご覧ください。画像は『Sceenit』の「La Fábrica: WESTWORLD」から引用しました。

『ウエストワールド』シーズン3

 以下の写真で実際の「ラ・ファブリカ」も見てください。『designboom』の「la fabrica – ricardo bofill’s time capsule factory renovation」から引用しました。

『ウエストワールド』シーズン3で使われた実際のスペインの場所:「ラ・ファブリカ」

 まず壁中に並んでいる上部がアーチ状の縦長の窓に目が奪われますよね。このデザインとして生かされているずらりと並んで美しいパータンを作り出している窓も、実は元々の工場だったときのものを残しています。 

 それからナチュラルな色合いの天井や柱に対して、白いカーテン、白い床、白いソファー、白いプランター。この組み合わせ、いいですね。特に天井から床までのとても丈の長い柔らかな白いカーテンと白い床を配したことで、無骨な素材だけでは出せない洗練された感じが見事に加味されていますよね。しかもですよ、先ほどの『ウエストワールド』のシーンを見ると、タンディウエ・ニュートン演じるメイヴ・ミレイのワンピースまでも白。部屋の天井や壁の色だけでなく、彼女自身の浅黒い肌の色に対しての白い衣服のコントラストが、なんとも魅力的な絵を作り出していますね。

 「ラ・ファブリカ」の他の箇所は、『arch daily』の「La Fábrica by Ricardo Bofill Highlighted in New Video by Spirit of Space」に掲載されている以下の美しい動画で、ぜひともお楽しみください。

『ウエストワールド』シーズン3で使われた実際のスペインの場所:「ラ・ファブリカ」

 もう一つ続けて動画をどうぞ。ボフィル氏の設計会社RBTAがアップしている動画「In Residence Ep 14: “Ricardo Bofill” by Albert Moya – NOWNESS」です。

『ウエストワールド』シーズン3で使われた実際のスペインの場所:「ラ・ファブリカ」

 ところで、この「ラ・ファブリカ」をリデザインした建築家リカルド・ボフィル氏は、2022年1月14日に82歳で亡くなられました。日本でも2022年9月21日(水)から2022年10月20日(木)に豊洲キャンパスの有元史郎記念校友会館の交流プラザで「リカルド・ボフィル追悼回顧展 未来の豊かな記憶を育む空間の創造」が開催されました(今これを書いている2022年10月12日は、まさに開催中です)。

 調べてみると、日本にもボフィル氏がかかわった建築がありました。てっとり早くウィキペディアの「リカルド・ボフィル」のページから引用すると、東京都渋谷区にある「ユナイテッドアローズ原宿本店」(1992年)、東京都港区にある「明治安田生命青山パラシオ 」(1999年)、東京都中央区にある「東京銀座資生堂ビル 」(2001年)、神奈川県川崎市にある「ラゾーナ川崎プラザ 」(2006年)。

 ボフィル氏に関する本もいくつか出ています。最近のものでは、ご存じの方はお読みになっていると思いますが、谷口江里也氏による著書『リカルド・ボフィル作品と思想 (RBTAの仕事を通して知る建築的時空間創造)』 未知谷 2017)があります。まだの方で、ご興味のある方は、ぜひご一読を。

 最後に付け加えておくと、ボフィル氏が設計した他の建築も映画に使われています。フランスのノワジー・ル・グラン(Noisy-le-Grand)にあるポストモダン建築「アブラクサス館(Les espaces d’Abraxas)」は、未来のディストピアを描いた1985年の映画『未来世紀ブラジル(Brazil)』の中で撮影に使用されています。また、2015年の『ハンガー・ゲーム(Hunger Games) 』三部作の最終章でも舞台に使われたようです(こちらは実際に映画を観ていませんが)。

 以下の実際の「アブラクサス館」の写真は、『Messy Nessy』の中の記事「Inside the Real-Life “Hunger Games” City: A Decaying Parisian Utopia」から引用しました。

「アブラクサス館」

 次回も『ウエストワールド』を続けますが、今度はシーズン3からシーズン2へと目を向けてみようと思っています。というのも先に言ってしまうと、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)の設計した有名な家が、シーズン2では撮影に使われているので、ちょっとそれについて書いてみたいと思っています。

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