TVドラマ『ウエストワールド』の中の建築（4）――スペインのバレンシアの芸術科学都市

建築  テレビ・シリーズ   / 2022.10.11

　引き続きHBO製作の人気テレビドラマ『ウエストワールド』の話です。いわゆる「SF」的なものが苦手な人は敬遠しがちなドラマかもしれませんが、それでもあえて言うなら、もし建築やインテリアが好きだったら、ぜひ一度観てみることをお勧めします。一瞬一瞬の背景となる建物、景色、小道具などが細部に至るまであまりにも美しくて目が離せなくなるはずです。

　前回はシンガポールの撮影場所の中から個人的に気になった場所を調べて取り上げましたが、今回はもう一つの重要な撮影場所であるスペインへ目を向けてみたいと思います。

　まずはドラマ内のテーマパーク「ウエストワールド」などを建設・運営するデロス社の本社ビルが映っている場面をご覧ください。

　上記の画像は、スペインのバレンシアの旅行ガイドのサイト『Valencia:Ultimate Travel Guide』の中の「CITY OF ARTS AND SCIENCES」から引用しました。そう、バレンシアの旅行ガイドでも『ウエストワールド』の舞台の一つになった場所であることが紹介されているんですよ。でも、そりゃそうですよね。人気ドラマに使われたわけですからね。

　それで実際の場所はというと、バレンシアにある芸術科学都市（CITY OF ARTS AND SCIENCES）です。もともと観光名所というか、バレンシアが誇るシンボルともなってるので、バレンシアの旅行ガイドには必ず出ています。以下が実際の写真ですが、「Spain Guides」の「CITY OF ARTS & SCIENCE VALENCIA: A Visitors Guide – Tours & Tickets」から引用しました。

　ついでにですが、もし良かったら『For 91 Days Travel Blog』が公開している非常に美しい動画からもご覧ください。

　『We BUILD VALUE』の中の記事「The “city in a city” that brought Valencia into the future」によると、バレンシアの芸術科学都市の設計は、スペインの建築家のサンティアーゴ・カラトラーバ（Santiago Calatrava）氏によって主に行われたそうです。敷地面積は35万平方メートルにも及びます。1996年7月に工事が始まり、1998年4月16日に最初の建物となったL’Hemisfèricが完成しました。そこから順次、施設が建設されていき、2009年にはL’Àgoraが完成しました。

　以下は『ウエストワールド』のシーズン３の中でL’Hemisfèricが映っている場面です。テッサ・トンプソン演じるシャーロット・ヘイルの背後にあるのはドローンで、その後ろの建物がL’Hemisfèricです。写真は『screenit』の「City of Arts and Sciences – L’Hemisfèric WESTWORLD」から引用しました。

　以下の『ウエストワールド』シーズン３のラテンアメリカ版のトレイラーの冒頭では、L’Hemisfèricの美しい斜め後方横からの姿とシャーロット・ヘイルがドローンから降りてくる上記のシーンを見ることができます（終わりの方の数か所で芸術科学都市の他の場所も背景に映ります）ので、どうぞご覧ください。

　先ほどの記事によると、この芸術科学都市は、まだこの先もさらに発展していくようです。バンレシア市は、新たに1,900万ユーロを投資し、6,500平方メートルの表面積を持つ建物を建造することを計画しています。これからさらに作られる建物がどんな斬新なデザインになるのかと思うと本当に楽しみになります。

　ところで、この複合施設の見事な建造物を見ていると、いわゆる「敷居が高い」場所なのかと誤解されかねないので言っておきますが、まったくそうではありません。誰もが楽しめる公共施設なのです。

　芸術科学都市のウェブサイトを見ると分かりますが、映画館やプラネタリウムから始まり、さまざまな科学・文化・芸術に関する施設があり、子供から大人まで最高に楽しい時間を過ごせそうです。ここを本社とした『ウエストワールド』の中のデロス社は裏で恐ろしいことをしている企業でした。ですが、実在の場所は当然のことながら、そんなことはありません。ウェブサイトのトップページには、お父さんとお母さんと子供たちの楽しそうな写真も掲載され、ファミリー向けの施設であることも訴えています（もっとクールなウェブサイトのデザインなのかと思いきや、意外なことにも違ってました。良い言い方だと親しみやすい作りにですが、悪い言い方だとちょっとダサい感じかな）。

　それはそうと、日本の大阪のカジノリゾート計画も一兆八百億円をかけるそうですね。2029年秋から冬頃に開業予定らしいですが、これについての賛否両論はあると思いますが、どうせやるのならばですよ、本当に本当に美しい場所にしてほしいと切に願うばかりです。

　最後に付け加えると、今回見てきたバルセロナの芸術科学都市は、『ウエストワールド』以前にも、2015年のアメリカ映画『トゥモローランド（Tomorrowland）』、2017年に放映されたイギリスのテレビドラマ『ドクター・フー（Doctor Who）』のシリーズ10の第2話「スマイル（Smile）」でも実は使われていました。

　ご覧になっていない方は、『トゥモローランド』のトレイラーをどうぞ。

　『ドクター・フー』の「スマイル」のトレイラーはこちら。

　次回は、『ウエストワールド』のシーズン3の中でも、個人的に最も心を動かされたインテリアとなっているスペインの家を調べてみます。